真実の愛は体を売って手に入れる所存

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王宮裁判

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 俺たちは牢で一晩過ごした後、王宮裁判にかけられることになった。

 被告は俺とハンス。

 俺たちを蔑むように、裁判官とオーケルマンが高い位置に座っている。

 俺たちに椅子はなく立ちっぱなしだっていうのに、本当に良いご身分だな。


 裁判を今か今かと待っている傍聴人たち。

 弓術大会の時にも集まっていた貴族だ。

 王宮裁判は、一般市民や使用人などは蚊帳の外。

 貴族が独占する空間だ。

 悪い予感しかない。


「ハンス、大丈夫か?」

「お前こそ顔色が悪い」

 数時間ぶりに見たハンスは、目元に濃いクマができている。

 俺と同じで眠れなかったんだ。


 今は裁判が始まる前、つまり罪が確定していない段階。

 だが、俺たちは罪人として扱われた。

 ここに来るまで手足には枷、食事は少量のスープのみといった有り様だ。

 裁判という名の公開処刑でも始める気か?


「静粛に。只今より王宮裁判を始める」

 裁判官の一声でついに俺たちの運命が――。

「原告はアッサール・オーケルマン。被告ハンス・ユーホルト、並びにアッサール・オーケルマンの妾マヤ。この裁判は王の元で執り行われる。両者、真実のみを述べるように」


「えー、被告2名は昨夜第3庭園で逢引きしていた、と?」

 法廷がざわついた。

「まあ、何てことっ!?」

「あの男娼がそそのかしたのね!!」

 ハンス贔屓の女たちが好き勝手罵る。


「それだけでなく、姦淫する仲であった」

 すぐさま俺は反論した。

「違うっ!! 俺たちはそんな関係じゃない!!」

 約束はしてたが未遂だ。

 未遂と既遂の区別くらい付けろよ!


「静粛に。被告は許可された時のみ発言しなさい」

 オーケルマンは忌々しいと言いたげな顔で、俺たちを見下ろしている。

 俺が睨みつけると

「生意気な男娼だわ」

「主人に仇なす奴隷など処分すれば良いのです」

 さらに女たちの反感を買ってしまった。


「まあまあレディたち? 当事者の話をちゃんと聞こうじゃないか。オレたちにとっても重大な裁判なんだから、ね?」

 怒りのボルテージを上げ続ける女たちをなだめたのは、フレデリクだった。

 ソール騎士団も傍聴していたんだ。


「ハンス、オーケルマンは絶対に俺たちを許さない。ひどい仕打ちを考えているかも」

「安心しろ。お前だけは必ず――」

 胸騒ぎがした。

 お前だけって何だよ。

 俺はハンスと一緒にいたいんだ!

 
 ハンスの覚悟が怖いと思ったことが今までにあっただろうか?

 何かよからぬことを考えているのではないか、と心細くなった。


「では被告ハンス・ユーホルト。何か弁解することはあるか?」

 ハンスが顔を上げると、法廷がシン――と静まり返った。

「原告の主張は事実です」


 ハンス、一体何を考えてるんだ?

 法廷が再び騒がしくなる中、今回は怒りや罵声よりも悲鳴や落胆の声が漏れた。


「私がこの者をそそのかした。罪を償うべきは私一人だ」

 俺はまたハンスに守られるのか?

 全てを分かち合いたいんだ。

 それが罪でも、俺は――!


「違う! 俺はそそのかされてなんかない!」

「被告の発言は許可していない! 従えぬならこのまま退廷し、裁判を受ける権利を放棄しなさい」

 裁判官はいつになったら俺に発言を許してくれるんだよ!


 ハンスは弁解という名の、偽りの懺悔を続けた。

「私は嫌がるこの者のを無理やり犯した」

 何人かの女がショックで気絶した。


「宰相の妾との姦通が死罪に値すると知っていたのか?」

 そんなことで死罪?

 たくさんいる妾の一人が浮気しただけだぞ。

 オーケルマンが妻に裏切られたことが関係してるのか?


「はい。私が伝えたかったのは、この者は被害者だということだ。無実の者を刑に処すのは、王宮裁判の汚点になる」

 ハンスは俺のために死ぬ気だ。

 俺はオーケルマンを睨むことしかできない。

 オーケルマンはニヤリと笑った。
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