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夢は見るもの語るもの②

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「その前に一緒に来て欲しい場所がある。付いて来てくれるか?」

「う、うん。どこへでも付いて行くよ」

 ハンスからの思わぬ提案。

 あともう少しだったと悔しい気持ちと、取り敢えず緊張から解放されたという安堵感で呼吸が楽になった。



 ハンスに連れられやって来たのは、第3庭園。

 湖畔に行くのに必ず通るエリアだが、ここはまだ来たことのない場所だ。

「第3庭園って本当に広いな~」


 俺たちは倉庫の前に立った。

 ここが連れて来たかった場所か?

 もしかしてここで……!?


「……どうした? 顔が赤いぞ」

「い、いやっ。普通の倉庫だな~と思って」

 鍵もかけられていないから、大した物も保管されていないだろう。

 庭師が使ってる倉庫か?


 ハンスが扉を開けて、中に入っていく。

 埃っぽくて閑散とした倉庫だ。

 進んでいくと、奥に鎮座していたのは青白く光る剣だった。


「これはロマーリア王国が誇る聖剣だ」

 これが?

 確かに色はきれいだし自然発光するのはミステリアスで、ゲームだったらテンションの上がる剣だ。

 だが、聖剣がこんなところに保管されるってどういうことだ?


 倉庫はそこそこ大きいが、王宮に併設されている割には質素だ。

 大切な剣なら、地下の宝物庫に保管しておけば良いと思う。

 施錠されていない倉庫では、盗人に入られ放題だ。

 聖剣に鎖が巻き付けられているだけじゃ、防犯対策は不十分じゃないか?


「これって盗まれたりしないのか?」

 触ってみようと腕を伸ばした。

 ハンスは俺の腕を掴み、それを阻止した。

「これは絶対に触ってはいけない」


 腕が自由になり

「ご、ごめん」

 とハンスを見たが、ハンスは聖剣に釘付けだ。

 その眼差しは憧れや畏敬といったところか。


「聖剣に選ばれた者以外が触れると、皮膚が爛れ骨が溶ける」

 想像するだけで恐ろしい。

 危うく俺の右腕がそうなっていたんだ。

 ますます手薄な防犯対策に怒りが沸く。

 触りたくなっちゃうだろ、普通!!


「どうしてそんな危険な剣が簡単に盗めるようにしてあるんだよ?」

「危険なのは聖剣ではなく、それにふさわしいと高をくくる人間の傲慢さだ」

 傲慢な人間はとっとと聖剣に触れて腕を1本切り落としてくださいって?

 傲慢に対する荒療治だな。


「そもそも聖剣に選ばれるってどういうことなんだ?」

 似合うか似合わないかなら、ハンスは選ばれた者になると思う。

 だが、触らないところを見るに、ハンスも選ばれていないんだ。


「その時が来れば分かる。この偉大なる剣は最強の味方となってくれるはずだ。いつか俺はこれを使えるようになって見せる」

 俺が真実の愛を手に入れたいように、ハンスも聖剣を目標にしているんだ。

 いつ叶うか分からない途方もなく遠くにあるものだけど、必ず実現させるって心に決めている。


「夢は大きい方が良いよな! 応援するよ!!」

「お前にどうしても知って欲しかったのだ」

 当たり前だけど、ハンスも人間なんだよな。

 俺と同じ人間。

 そう思うと、もっと愛おしくなって、俺は全てを捧げたくなってしまう。


「俺、大丈夫だからさ、ハンスの部屋に行こう?」



 倉庫から出た俺は、ヒッと声を出して硬直した。

 数人の衛兵を伴ったオーケルマンが立っていたのだ。

 どうしてここに――?


「最近ツレないと思って探りを入れてみれば……、そういうことだったのか。皆が寝静まった頃に、こんなところで逢引きとな。マヤよ、ワシは悲しい」

 今ならオーケルマンを言いくるめられる!

「旦那様――」

 オーケルマンは乾ききった目で、

「人間の心とは不思議なものよのう。悲しみのあまり、お前が憎たらしくなった。お前たち、この者たちを連れて行け」


 コイツの闇の深さを見誤っていたようだ。

 誰かに説得されて許すような人間じゃない。



 オーケルマンの号令で、衛兵たちがにじり寄ってくる。
 
「やめろよ!」

「おとなしくしろ!!」

「この者に手を出すな! 罰を受けるのは俺一人で十分だ!!」

「男娼を殺されたくなければ、お前もおとなしくしろ!!」

 俺たちは捕らえられてしまった。

 黒い雲が月を覆った。
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