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美容Day②

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「では失礼しますね!」

 ジュンは俺のケツをスベスベピカピカにする気だ。

 確かにこれで戦ってるみたいなところがあるけど、こんなみっともない姿を晒すとは。

 もう俺、お嫁に行けないっ!!


 ケツがじんわりと熱くなり、青臭い匂いが立ち込める。

「ジュン? 今何してるんだ?」

「ヨティヨティ草を燻してるんです。ヨティヨティ草は肌荒れを治してくれるハーブですよ」

 血流が良くなった感じがするし、ケツの上で燻されている以外は最高だ。


「調理番のベルタさんは毎晩やってるって言ってました。ベルタさんは貴族の方々に負けないほどの美肌の持ち主です」

 そのベルタさんとやらは、ケツにはやってないだろ。

 
 ケツがひんやりし始めた。

 ヨティヨティ草を取ったんだ。

 次もケツなのか?

 ケツにひやりとした感覚。

 やっぱりそうだった。


「次はソムスクリームを塗りますね」

 ケツを撫で回されてくすぐったい。

「そのクリームはどんな効果が?」

「これはシキ、ソチンチャク? というものを落とすと言っていました。すみません。あんまり分からなくて」

 俺は今、幼気な少年に訳のわからんものを塗られている。


「いいよ、いいよ。色素沈着ってのはシミとかのことだろ? つまり俺のケツの輝きが増すってことだ!」

 俺は何を言ってるんだ?

「えへへ。ではたっぷり塗りますね」

 ジュンが笑ったからヨシとしよう。


 クリームは塗り終わったようだ。

 今度はケツに粉をパフパフ叩き込まれている。

「これはジルベール・レ・ダルッサンという銘柄の粉です。この粉をはたいて寝ると、肌が10歳若返るそうです」

 ジル……何だって!?

 10歳はさすがに盛ってるだろ~。


「ハハ、そうなんだ……。俺のケツ年齢は何歳なんだろうな……」

「今、何かおっしゃいましたか?」

「いや、すごい粉を使ってくれて嬉しいなあ~って!」

 ジュンのお小遣い事情が心配になってきた。


「マヤ様、ご存知でしたか? ジルベール・レ・ダルッサンはロマーリア王国のことが大好きだから、王国民限定でとても安くで売っているんですよ!」

 ジル何とかさんがどこの国の人か知らないが、ありがとう。

 俺のケツは明日、10歳若返ります。


「それでもこんなに集めるのはお金がかかっただろ? ジュンはお金大丈夫なのか?」

「これは全部、親切な使用人の皆から譲ってもらったんです!」

 ジュンの可愛さは俺だけじゃなくて、仲間の使用人も魅了していた。

「そうか。じゃあ、皆にお礼しなくちゃな。どっかに食べ物の贈り物があったと思うから、持って帰って食べてよ。箱から出してこっそり食べれば、旦那様にはバレないからさ」


 燻してクリーム塗って、粉をはたいて……。

 おそらくこれで終わるだろうと思った。

 俺の見立ては甘かった。


「続いてはこれを使いますね!!」

 え、まだやるの?と聞く前に、ケツがぎゅぎゅーっと吸い上げられた。

「ちょっと、これ何!? 何してんだ!?」

「これは肌に溜まった毒素を排出する専用の器具です」


 吸い上げられるたびに、俺の腰が浮いてますます間抜けな格好になる。

「も、もう良いんじゃないか? 俺のケツは十分――」

「遠慮しないでください! まだまだたくさん持ってきてますから!!」


 ――こうして俺のケツはジュンによる愛の拷問を耐え抜いたのだった。



 満足気なジュンがお土産を布袋に入れて帰った後、俺はベッドで大の字になった。

 長時間のうつ伏せで、若干、胃がムカムカする。


「何じゃとー!! もう一度言ってみろ!!」

 オーケルマンの声だ。

 何かあったのか?


 扉に張り付いて外の声に耳を澄ます。

 オーケルマンと話すもう一人の声が非常に小さい。

「……ですか……真実の愛が盗ま……た……」


 真実の愛が盗まれた!?

 俺の他にも狙ってるヤツが?

 単純に国宝だから目をつけられやすいんだろうか。

 俺が言えることではないが、セキュリティはどうなってんだ!!


「それは本当か? ユーホルトのヤツは何をしておる」

 なぜハンス?

 またハンスを都合の良い駒にしようとしているな。


「ソール騎士団は遠征中でして……」

 遠くから誰かが走り寄ってきた。

「宰相~。盗まれたというのは誤報です~。衛兵の勘違いでした~」

「勘違い? 全く心配をかけさせおって! しっかりしろ!!」


 何だ勘違いか。

 それにしても、俺は真実の愛を手に入れるため、ここにいるんだよな。

 なのに、最近は情報を探るどころか、考えることすらしてなかった。


 今だって、ハンスの名前を聞いた途端、ハンスのことで頭がいっぱいになった。

 無事に帰還して欲しい。

 帰って来て俺がいなかったらハンスが寂しがるに違いない。

 そんな言い訳ばっか並べて、少しでも長くこの世界に留まろうとしていることに本当は気付いているんだ。
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