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星降りの夜②

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「わあ! フレディさんが言ってたのはこれだったのか!!」

 夜空とは思えないほど明るく、今までに見たどんなイルミネーションより壮大だ。

 自然が作る芸術は、心揺さぶるものがあるな!


「今夜は星降りの夜だ。1年で最も多くの流星が降り注ぐ」

 それにしても多すぎる。

「こんな大量の流星、普段はどこに隠してるんだ? 全部でいくつ流れるんだろう」

「昔イチから数えた研究者がいたそうだ。もし、数えて切っていれば、今頃歴史に名を残していただろう」

 研究者ってのは報われないことが多いねぇ。


「俺たちがそれを初めて成功させた人間になろうぜ! 今年はもう無理だから来年――」

 俺は今、何て言った?

 来年もこの世界にいるのか?

 来年の今日、俺はどこで夜空を見上げてるんだろう。

 そこにハンスはいるのか?


 俺の贅沢な願いを流星は叶えてくれるんだろうか。

 この中に1つくらい、そういう律儀な流星がいてもいいよな。

 俺はそれを探して、夜空とにらめっこしていた。


「星降りの夜にはある言い伝えがある。誰にも邪魔されることなく流星群を見終えた恋人たちは、永遠に結ばれる――」

 流星のきらめきで、ハンスの顔がはっきり見える。

 ハンスからは俺がはっきり見えるに違いない。

 顔を赤くしたエミリアの気持ちが今なら分かる。

 この夜は俺たちの関係に何をもたらすんだろう。


「ハ、ハンスは俺がここへ来なかったらどうするつもりだったんだよ。……一緒に見なくても良いって思ってたのか?」

「ああ」

 胸の奥がチクリと痛む。

 水面はたくさんの願い事を閉じ込めて揺れている。


「言い伝えは言い伝えだ。明日を決めるのは、過去の自らの行いにある」

 ハンスの手が俺の顔添えられる。

 ほんの少し目を逸らしただったのに、ハンスが目に入るとあまりの美しさに心臓が跳ね上がる。


「星降りの夜に頼らずとも、今日の俺が純を求め、今日の純が俺を受け入れてくれれば、明日の俺たちは心を共にできる。それを飽きることなく繰り返すんだ」

 ハンスの唇が優しく触れた。

 俺はハンスの首に腕を回すと、ハンスの舌が歯列をなぞった。

 ゆっくり舌を迎え入れ絡ませる。


「んッ、」

 舌を吸われて、俺も吸い返す。

 キスしてる時は、ハンスのことだけを考えられるから大好きだ。


 急に辺りが暗くなり、いつもの夜を取り戻した。


「ヘヘッ。星降りの夜、終わっちゃったな」

 なおもハンスは俺の頬にキスをする。

 チュッと響くリップ音で、腹の奥がムズムズする。


 キスの雨がようやく終わった。

 ちょっと寂しいと思うのは、絶対に内緒だ。


「俺は明後日、任務で王宮を出なければならない」

「病み上がりなのに大丈夫か?」

 これもオーケルマンの嫌がらせじゃないだろうな?


「とても重要な任務だ。……場合によっては命を落とすかもしれない」

「どういうことだよ!? またオーケルマンが――」

 ハンスの手の甲が俺の頬に触れる。


「宰相は関係ない。今、王国の南東ではギガヒネ族と呼ばれる異民族が不穏な動きを見せている。領内に踏み入っては、戦闘意思のない民から金品を略奪する蛮行が相次いでいる」

 ハンスはそれを止めに行くってことか。

「最近、王国周辺が何かおかしい。何者かが王国に害を成そうと画策しているのかもしれない。だが、それは宰相たちが突き止めることで、俺たちのやるべきことではない。ソール騎士団は民が安心して暮らせるよう、必要とあらば戦うだけだ」


 ハンスは押し当てるだけのキスをした。

 きっと俺の表情が曇っているからだ。

 ソール騎士団長ハンス・ユーホルトへの陶酔と、死んで欲しくないという執着の間で揺れている。


「分かってくれるか?」

「分かるも何も、ハンスが納得してるなら送り出すしかないだろ。……正直に言えば前線になんか言って欲しくないけど、そういう束縛は良くないと思うんだ」

 俺はハンスに抱き付こうとした。

 それでちょっとでも溜飲を下げようと思ったわけだ。


 だが、ハンスは俺の腕を固定し阻止した。

「お前が心配してくれて嬉しく思う。俺のためにもう一度心を砕いてくれないか?」

 まだ何かあるのか?

 俺の体に緊張が走る。


 ハンスのことを考えるのはいつものことだから、心配するなって言われてもどうせするんだ。

「何? この際、包み隠さず全部話せよ。どーんっと来いっ!!」


 ……微妙な間ができた。

 せっかくの覚悟が揺らいでしまうから、ひと思いに話して欲しい。


「俺が生きて帰って来たら……」

 ギュッと掴まれた腕が痛い。

「純――、お前を抱く。いいか?」

「なっ!? い、今っ……!……ッ!」


 抱くっていうのはつまり……。

 俺がオーケルマンの妾のクセに生娘みたいに動揺した。

 ハンスはしたいんだ。

 キスだって大人のヤツばっかだったし、こんな男盛りが枯れてるわけないよな。


 ……俺はハンスとヤルのか?

 素っ裸になって、互いを擦り合わせたり挿れたりするのか?

 ちょっと待て、どっちが挿れるんだ?

 そりゃあ、慣れてる俺が挿れられるのが自然だ。

 ハンスのが俺に――。


 ハンスが命を落とすかも知れない地へ赴くって時に、俺は別の心配で思考回路がショートした。

 呼吸が浅くなる俺を、ハンスは真顔で見ている。

 何で真顔なんだよ!

 これじゃ、まるで俺がめちゃくちゃ愛されてるみてぇじゃん。


「い、いいよ……。だから早く帰れよ」

「ああ、ここへ帰って来なければならない理由ができた」


 恋人たちの気持ちがはやる星降りの夜――。

 俺はこの国で最も浮かれた男になった。
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