真実の愛は体を売って手に入れる所存

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右腕は自惚れ屋②

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 だが話しやすくて、俺の警戒心はいつの間にか解けていた。

 俺は社交界で聞きたかったことがある。

 それについては、フレデリクを頼ることにした。

「宰相が権力を握るようになった理由って何なんですかね? そもそも宰相ってあそこまで権力を振るえるもんなんですか?」

 王様はオーケルマンの言いなりになっている節がある。

 宰相が絶対にオーケルマンじゃなければいけない事情でもあるのか?


「宰相と王は似てるんだよ」

 顔……は似てないな。

 じゃあ、性格、それとも主義主張?


 フレデリクは顔を近づけて、俺を見つめた。

「キミが持つ黒い瞳、宰相を虜にするには十分だ」

 瞳?

 思えば、ロマーリア王国で俺と同じ色の瞳を持つ人は見てないな。


「王も宰相も黒を纏う若い男が好きでね」

 似てるって好みのタイプのことか!?

 若い男って、王様も男色家!?


「宰相は王が好みそうな男娼を献上し、成り上がってきた人だ。王もバカだよねぇ。良い男を与える家臣が、必ずしも良い為政者になるわけじゃないのに」

 オーケルマンはソール騎士団を潰そうとしていたから、嫌われるのも無理ない。


「王様も男娼を囲っていたなんて、知りませんでした……」

「最近はそういう元気もないようだから、キミが側室に迎えられることはないと思うよ。昔は男娼だけで構成される側室がいたんだ」

 来るタイミングを間違えれば、俺は王様の相手をしていたかもしれないのか。

 掘られるって面では、王様も宰相も変わらんな。

 どっちもゴメンだ。


「王様に掘られるのを想像すると笑っちゃいますよ」

 フレデリクは人差し指を立て、左右に振りながら

「そうじゃないよ。王様は逆の立場。今の言い方だと、キミとおんなじだね!」

「えっ!?」

 俺は驚きと笑いとで、感情がグチャグチャになった。

 じゃあ、王様とオーケルマンでやっとけばいいじゃん!



 俺が気になるのは真実の愛についてだ。

 フレデリクは知っているだろうか。

「あの、フレデリクさん」

「フレディって呼んでね!」

「フレディさん、真実の愛って知ってますか?」

 フレデリクの顔がキョトンとした。


「国宝らしいんですけど……」

「うん、知ってるよ。それがどうかした?」

「厳重に囲ってる扉の鍵ってどこにあるか知ってますか? 宰相が持ってるらしくて……」


 フレデリクはうーん、と唸っている。

「宰相が鍵を持ってるとは思えないけどなあ」

 それが事実なら、俺は今まで何のためにオーケルマンと?

 だが、オーケルマンなら嘘を吐きかねない。

 何度も痛い目を見てるんだ!


「何でそんなこと聞くの?」

 フレデリクに怪しまれている。

 そうだよな。

 今の俺は、国宝を狙う大泥棒にしか見えないよな。


「あっ、ちょっと気になっただけです~。それより、もっと色んなことが知りたいな~」

 真実の愛から話を逸らそう!

「ハンスのこととか!」

 なんてったって、フレデリクは右腕だ。

 きっと色んなことを知ってるぞ!


 突如、フレデリクは俺を押し倒し馬乗りになった。

「ここからは有料だよ? でもキミなら体で払ってくれても良いかな。オレは美しければ女でも男でもイケるよ?」

 フレデリクのとろんとした目が色っぽく俺を誘う。

 首筋に口づけられた時、背筋がぞわっとした。


 俺は覆い被さるフレデリクを押し返した。

「や、やめろ!!」

 思ったよりひょいと持ち上がったな……。

 だが、俺に馬乗りになったままフレデリクは動こうとしない。


「俺は……男に抱かれてるけど、誰でもいいわけじゃないから。俺はハンスが――」

「ハハハッ!」

 涙目になっている俺をフレデリクは軽快に笑い、ソファーに座り直した。


「冗談だよ! オレは大の女好きなんだ。キミならと思ったけど、やっぱり女性の柔肌が至高だね!」

 悪趣味な冗談だ。

 フレデリクは起き上がった俺に伝えた。

「それは、本人の口から直接聞きなよ。恋人なんだから」


 恋人という言葉に顔が赤くなる。

「可愛い反応するねぇ。もしかして愛しのダーリンとはまだだった?」

「えっ、は、はい……」

 だってハンスが手を出さないから。


「それは悪いことをしました。ゴメンナサイ」

 フレデリクは道化師みたいな動きで謝罪した。

 大して悪いと思ってないな!


「じゃ、オレはここで失礼するよ。このことは団長には内緒だよ? バレたらオレが殺されちゃうかもしれないから、ね?」

 ウィンクするフレデリクは、アイドルの才能がありそうだ。

 悪い人じゃないんだ……多分。


 フレデリクは窓から帰った。

 本当によじ登って来たんだな……。
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