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右腕は自惚れ屋

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「へぇ~。キミが団長のお気に入り」

 月明かりに照らされたそいつは、初めて見る顔だ。


 どうして俺の部屋に?

 ハンスとの密会がバレてるのか?


 俺は何も言われても良いように、頭をフル回転して言い訳を考える。

 ハンスに迷惑をかけるわけにはいかない。


「まあ、そう睨まないで、ね?」

 男はロウソクを灯した。

 赤みがかった茶髪。

 長髪で女ウケが良さそうな優男だ。


 そんなヤツが俺に一体何の用だ?

「アンタ誰?」


 男は器用に片目を閉じながら話した。

「やだなあ。オレはソール騎士団のフレデリクだよ。団長の右腕として、ちょっとしたカリスマなんだけどなあ」

「そ、そうなんですか……」

 ハンスの部下なら悪い人じゃないのかも。

 攻撃的な雰囲気は感じないし。


「すみませんでした」

「王に謁見した時も、この間の社交界にも、オレはいたよ? 団長ばっかり見て、この美男子が目に入らなかったんじゃないの?」

 チャラついた言動が鼻につくが、フレデリクは気さくな兄ちゃんといった感じだ。


「ハハハ……。それで、俺に何の用で?」

 フレデリクはソファーをポンポンと叩き、座って話すことを提案した。

「オレはベッドの中でも良いけど、どっちがいい?」

 そりゃ、ソファーだ。

 ソファーで隣同士、ようやくフレデリクは本題に入った。


「オレが来たのは興味があったんだよ。浮いた話のない団長が、最近やたらと調子が良い。オレはピンッときたわけ。これは愛するハニーのために奮起する男の背中だって、ね」

 愛するハニーってつまり……。

「団長が夜な夜な第3庭園に行っていると知ったオレは、驚いたよ。何と、同じ時間帯にキミが庭園を通るじゃないか!」

 それでハンスの相手が俺だと分かったのか。

 誰にも見られてないと思ってたけど、もっと用心が必要だな。


「どうやってここまで来たんですか? まさか正面から入ってきたとか?」

 その場合、俺がフレデリクを部屋に連れ込んでいると誤解を受ける。

 何のために人目を避けてハンスに会いに行っているのか分からない。


「あの窓から入ったんだよ」

 2階までよじ登ったってことか?

 さすがは右腕!!

 ……でも、俺がちゃんと鍵を閉めてたらどうするつもりだったんだ?


「いやあ~キミたちもやってくれるねぇ。宰相のお気に入りとソール騎士団長の秘密の恋!! 宰相が知ったら頭の血管が切れちゃうよ」

「宰相にはっ」

「大丈夫、絶対言わない」

 フレデリクは人差し指を俺の唇に当てた。


「オレは断然、団長派だよ。誰が好き好んで古狸の間諜になるんだい?」

 古狸!!

 俺はプププと笑ってしまった。

 フレデリクとは気が合いそうだ。


「あの人は時代に合わないね。時代は美しい者が作り上げるものなんだ。そう! オレみたいに、ね?」

 白い歯を見せて爽やかスマイルのフレデリク。

 少しどころか、かなりのナルシストのようだ。

 ……やっぱりあんまり気が合わないかも。
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