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悲恋の湖畔で
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湖の水面は太陽の光をキラキラと反射している。
「ここも第3庭園の一部だ。堅苦しい社交界より良いだろ」
「さっきはありがとう。上手くやろうと思って失敗した。奥方様たちは気が強くて敵わないね~」
そうだ、ノシュテット夫人が何で大人しくなったのか聞こう。
「アンデルバリ卿って、そんなスゴイ人なのか? ノシュテット夫人の顔色が変わったよな」
「アンデルバリ卿は夫人の間男だ」
愛人!?
お上品なフリして、こいつも性に乱れてんのかよ!!
「野心家のアンデルバリ卿は夫人以外にも、特権階級の女たちと懇意にしているようだが。夫人はアンデルバリ卿の夜遊びを知らず、自らは男娼と無縁だとタカをくくっていたのだろう」
「ハハッ。偉そうにしてたけど、自分の好きな男が男娼の世話になってるんじゃ、面目丸潰れだな!」
俺たちは太陽の光でホカホカになった湖畔に座った。
「でも仕返しとか大丈夫?」
「夫人は内務大臣に、アンデルバリ卿との不義を隠したいから表立った反撃は取れないだろう。大臣にお前のことを悪く言えば、いずれ宰相に伝わりお前が密告するリスクが高まる。だから、一番今回の件を忘れてしまいのは夫人だ」
本当は俺が仕返ししてやりたいが、許そう。
俺だって必要以上に目立つのはゴメンだからな。
「それにしても、あの人ハンスにも偉そうだったよな! 『ユーホルト!』とか言ってさ」
ハンスはソール騎士団長なんだぞ!
「俺たちは特権階級ではないからな。俺たちは王国に仕え、民のために戦っている。貴族たちに気に入られる必要などないんだ」
もしかしたら、ハンスも社交界から逃げ出したかったのかも。
「それにしても綺麗な湖だな! こんなに景色の良い場所なのに、全然人が来ない。遠いからか?」
手入れされた庭園も良いが、手付かずの自然は空気が美味しい。
「ここは呪われた湖と言われている――」
呪われた……。
湖の中から幽霊が出るとか?
心霊はあんまり好きじゃないんだよ~。
「遥か昔、デレシアという女がミカルという男と恋仲になり、腹に子を宿した。しかし、2人の関係は周囲から祝福されるものではなかった。ミカルは支配者層、デレシアは被支配者だったからだ。悲観したデレシアは腹の中の子供と共に、この湖の底へと沈んでいった」
じゃあ、デレシアの怨念が?
「デレシアの死後、湖から滅びの歌とも子守唄ともとれる歌声が聞こえるようになったそうだ」
俺は思わず耳を澄ました。
大丈夫だ、今は聴こえない。
「いつしか王宮では、この湖に近寄ると失恋する、子供をさらわれるなどと言い伝えるようになった。俺は迷信だと思うがな」
「俺もそう思う! だってこんな綺麗なのに、呪いなんて湖が可哀想だ」
デレシアも成仏していて欲しいし。
横にいるハンスを見た。
太陽に照らされ眩しいから、俺は目を細めた。
まさに手の届かない存在で、切なくなる。
視線に気付いたハンスが、こっちを見た。
何秒間か見つめ合って、段々と心臓の音がうるさくなる。
苦しい沈黙の中、吹き抜ける風が草木の匂いを連れて鼻をくすぐった。
スーッっと息を吸った時、ハンスの唇が俺のと重なった。
たくましい男の唇は信じられないほど柔らかく、もっと欲しいと体をハンスに寄せた。
ハンスの腕が俺の体ををキツく抱きしめ、俺の肺は新鮮な空気を欲した。
肺に空気を供給しようと微かに口を開けた。
口内は空気と、とろけるほど柔らかい舌に侵される。
舌と舌が絡み合い、俺たちはお互いの髪の毛をもみくちゃにしながら呼吸を繰り返した。
「んッ」
吐息混じりの俺の声とハンスの息遣いが耳を刺激する。
誰も来ない湖畔。
俺たちは誰にも言えないキスをした。
「ここも第3庭園の一部だ。堅苦しい社交界より良いだろ」
「さっきはありがとう。上手くやろうと思って失敗した。奥方様たちは気が強くて敵わないね~」
そうだ、ノシュテット夫人が何で大人しくなったのか聞こう。
「アンデルバリ卿って、そんなスゴイ人なのか? ノシュテット夫人の顔色が変わったよな」
「アンデルバリ卿は夫人の間男だ」
愛人!?
お上品なフリして、こいつも性に乱れてんのかよ!!
「野心家のアンデルバリ卿は夫人以外にも、特権階級の女たちと懇意にしているようだが。夫人はアンデルバリ卿の夜遊びを知らず、自らは男娼と無縁だとタカをくくっていたのだろう」
「ハハッ。偉そうにしてたけど、自分の好きな男が男娼の世話になってるんじゃ、面目丸潰れだな!」
俺たちは太陽の光でホカホカになった湖畔に座った。
「でも仕返しとか大丈夫?」
「夫人は内務大臣に、アンデルバリ卿との不義を隠したいから表立った反撃は取れないだろう。大臣にお前のことを悪く言えば、いずれ宰相に伝わりお前が密告するリスクが高まる。だから、一番今回の件を忘れてしまいのは夫人だ」
本当は俺が仕返ししてやりたいが、許そう。
俺だって必要以上に目立つのはゴメンだからな。
「それにしても、あの人ハンスにも偉そうだったよな! 『ユーホルト!』とか言ってさ」
ハンスはソール騎士団長なんだぞ!
「俺たちは特権階級ではないからな。俺たちは王国に仕え、民のために戦っている。貴族たちに気に入られる必要などないんだ」
もしかしたら、ハンスも社交界から逃げ出したかったのかも。
「それにしても綺麗な湖だな! こんなに景色の良い場所なのに、全然人が来ない。遠いからか?」
手入れされた庭園も良いが、手付かずの自然は空気が美味しい。
「ここは呪われた湖と言われている――」
呪われた……。
湖の中から幽霊が出るとか?
心霊はあんまり好きじゃないんだよ~。
「遥か昔、デレシアという女がミカルという男と恋仲になり、腹に子を宿した。しかし、2人の関係は周囲から祝福されるものではなかった。ミカルは支配者層、デレシアは被支配者だったからだ。悲観したデレシアは腹の中の子供と共に、この湖の底へと沈んでいった」
じゃあ、デレシアの怨念が?
「デレシアの死後、湖から滅びの歌とも子守唄ともとれる歌声が聞こえるようになったそうだ」
俺は思わず耳を澄ました。
大丈夫だ、今は聴こえない。
「いつしか王宮では、この湖に近寄ると失恋する、子供をさらわれるなどと言い伝えるようになった。俺は迷信だと思うがな」
「俺もそう思う! だってこんな綺麗なのに、呪いなんて湖が可哀想だ」
デレシアも成仏していて欲しいし。
横にいるハンスを見た。
太陽に照らされ眩しいから、俺は目を細めた。
まさに手の届かない存在で、切なくなる。
視線に気付いたハンスが、こっちを見た。
何秒間か見つめ合って、段々と心臓の音がうるさくなる。
苦しい沈黙の中、吹き抜ける風が草木の匂いを連れて鼻をくすぐった。
スーッっと息を吸った時、ハンスの唇が俺のと重なった。
たくましい男の唇は信じられないほど柔らかく、もっと欲しいと体をハンスに寄せた。
ハンスの腕が俺の体ををキツく抱きしめ、俺の肺は新鮮な空気を欲した。
肺に空気を供給しようと微かに口を開けた。
口内は空気と、とろけるほど柔らかい舌に侵される。
舌と舌が絡み合い、俺たちはお互いの髪の毛をもみくちゃにしながら呼吸を繰り返した。
「んッ」
吐息混じりの俺の声とハンスの息遣いが耳を刺激する。
誰も来ない湖畔。
俺たちは誰にも言えないキスをした。
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