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社交界②

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 俺は身の程知らずの罰として、これから舌を斬られる。

 それもハンスの剣によってだ。

 考えようによっては、光栄なこともかもな。

 俺はこの国で最もタフな男でなければならない。

 だから、この震えをどうにかしないと!


 剣を構えたハンスが近づく。

 ノシュテット夫人に媚を売りたい女たちが

「いっそのこと、首を刎ねておしまいよ!」

「そうね! 宰相には事故だと言えば大丈夫だわ」


 首が飛んだら、俺は死ぬじゃないか。

 嫌だ!

 真実の愛を盗み出し、大学生活に戻るんだ!!


 剣は音を立てて宙を横切った。

 死を予感して目を瞑った。

 ………………。


 あれ、生きてる……?

 目を開けると、剣を収めるハンスと、呆気に取られた女たち。

 そして飛び出しそうなほど目をかっ開いたノシュテット夫人。


「ユーホルトっ! お前は誰に剣を向けたか分かっているのですか!?」

 声を荒らげたノシュテット夫人に、ハンスは淡々と答えた。

「夫人の帽子に蜂が止まっておりました」

 花や羽根で盛りに盛った帽子の上部が、すっぱり斬られていた。


 ハンスは続けた。

「男娼との関わりを避けていらっしゃるが、アンデルバリ卿は最近、男娼と仲がよろしいとか。穢れなきお体でいたいのならば、まずはアンデルバリ卿を説得なさっては如何か?」


 ノシュテット夫人は狼狽し

「なっ、何を言っているのです! わ、私は気分が悪いのでここで失礼いたします。……今回だけは目を瞑って差し上げますから……。皆様っ!! 今日見聞きしたことは全て、他言無用です。良いですね?」

 態度が急に変わった。

 ハンスは何を言ったんだ?

 アンデルバリ卿?


 とりあえず命拾いした。

 いつもハンスに助けられてるな。


 危機が去ったとはいえ、社交界の雰囲気は最悪だ。

 遠くで狩猟を楽しんでいたはずのグループまで、騒ぎを聞きつけてヒソヒソと話している。

 この状況では女たちから有益な情報を引き出すことは無理だ。

 帰ってオーケルマンに二度と社交界には出席しないと伝えよう……。



 ハンスは俺の耳元で

「来い」

 と言った。

 女たちの視線を痛いほど感じながら、俺はハンスの後ろを付いて行く。


 第3庭園の端、女たちが小さな豆粒にしか見えない場所に馬が休んでいる。

「馬に乗ったことがあるか?」

 一度だけある。

 オーケルマンに後ろから抱きしめられた、苦い記憶だ。

「あるようで、ないような……」

 
「後ろに乗れ」

 俺はハンスに抱きつくようにして座った。

「ハッ」

 馬が走り出し、心地良い風が顔に当たる。

 爽快感で頬の痛みなど忘れてしまった。



 森を走り抜け着いた先は、自然豊かな湖畔だった。
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