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効能は不明だが②

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 俺は後でゆっくり温泉に入ることにしよう。

 どうせ俺の夜は長いんだ。

 皆が寝静まってからだったら、ちゃんと服を脱いで浸かれる。


 ただ、一点気がかりなことが……。

 オーケルマンである。

 露店風呂というこの聖域で、如何わしいことをしてくるんじゃないか?

 そういうシチュエーションのAVを何本も観てきたから分かる。

 もちろんあれは設定であって、フィクションだ。

 だが、性欲に支配されたオーケルマンならやりかねない。


 そんなことをしたら、王宮中に見られてしまう!

 ソール騎士団が国境警備で留守にしていることを踏まえても、俺は耐えられない!!


 俺は意地でも止めるべく探りを入れてみた。

「旦那様、皆喜んでいますよ。良かったですね~。ところで、旦那様はいつお入りに?」

 オーケルマンは露天風呂を満喫する人々を不愉快そうに見下ろしている。

「フンッ。みすぼらしい奴らが浸かった湯など入りとうない」


 この王宮を支えてくれている使用人に何と不躾な言い様。

 こいつは一生温泉の良さを知らないでいてもらいたいもんだ。

 でもオーケルマンの間違ったプライドのおかげで俺は難を逃れた。



 その日の深夜――。


 俺は自分の仕事を済ませ、疲れを癒すために露天風呂へ向かった。

 この時間帯に入る人はいない。

 一応周りを見渡し、人がいないのを確認して、服を脱いだ。


 股間がスースーする。

 何とも言えない開放感で、俺にはそういった癖があるのか!?

 いやいや、露天風呂にテンションが上がるので普通だから。


 いざ露店風呂へ。

 微温いけど、夜空を眺めながら体を癒せるのは最高だ。


 きらめく名前も知らない星座たち。

 ハンスは今頃何してるんだろう。


「……服を脱ぐのか?」

 ハンスを想って幻聴まで……。

 って、ハンス!?


 振り返った先には、俺が脱ぎ散らかした服にドン引きするハンスがいる!

 何でここにいるんだよ!?

 騎士団の任務は?


「驚かせたみたいだな」

 そう言うハンスだって驚いている。

「これは、その、えっと、ここでは服を脱いで入るのが正式な作法で……」

 俺は露出狂じゃないぞ!!


「そうなのか? 部下たちは服は着たままで入ると言っていたが」

「俺の世界じゃそうなんだよ!!」

 絶対に服を脱いで入った方が気持ちいいし、湯だって汚れないだろ!


「分かった、分かった」

 何だよ、その大人の対応は!

 俺はムキになって顔が赤くなっていた。

 のぼせるところだったが、誤解は解けたようだ。


 ハンスは徐ろに服を脱ぎ始めた。

「何やってんだよ!」

「今から俺も入るから、服を脱ぐんだ」


 露天風呂だから当然だが、俺は変に意識してしまった。

 ぼんやりとしている時に、突然現れるハンスが悪い!

 ハンスの裸が視界に入らないように、俺は背を向けた。


 ハンスが温泉に浸かったから、俺は

「どうだ? 気持ちいいでしょ?」

 と顔を向けた。


「ああ、これならすぐに疲れが取れるな」

 ハンスの上半身は相変わらず鍛え上げられている。

 これが透明な温泉だったら、と不埒なことを考えてしまった。

 きっと俺はのぼせてるんだ。


「騎士団は国境警備中だって聞いたけど」

「それは今日で終了した。早朝に帰る予定だったが、現地での折り合いが上手く行かず、任務終了と同時に追い出されてしまった」

 ソール騎士団が疎まれるってこともあるんだな。


「騎士団のおかげで守られる平和もあるのに、追い出すなんてひどいな」

「俺たちが赴くということは、その地域が緊張状態にあると言っているようなものだ。住人たちにとっては死神に見えるだろう」

 鶏が先か、卵が先か、みたいな問題になってないか?


「いいんだ。騎士団が名声を手にする時は、必ず戦が行われた後だ。俺たちは不要だと言われているくらいが、平和な世ということだ」

 これからロマーリア王国が大きな戦争を起こすことがあるんだろうか。

 その時、ハンスは最前線で戦うのだろう。

 俺は平和の二文字より先に、ハンスが死なないことを願ってしまった。


「ハンス、俺もいつか騎士になって戦うよ!」

「フッ、お前にできるのか? 戦場は甘くないぞ」

「見くびってもらっちゃあ困るな! ソール騎士団の戦力が底上げされて、無敵になる!!」


 一緒に風呂に入るだけで、どうしてこうも取り留めのない話が楽しくなるのか。

 健全な裸の付き合いってやつだ。


「あ! あれが前に教えてくれたパヌラだろ?」

 夜空に存在する無数の星の中でも、俺はパヌラを特別気に入っている。

「ああ。南方でもパヌラは確認できた」


 ハンスはボソリと呟いた。

「あれを見るたび、お前の間抜け面を思い出した」


 それ以上は言葉を紡がないハンス。

 俺は何も言えなかった。


 夜だけじゃない。

 俺は昼間の太陽だって、ハンスのことを考えた。

 だから俺の勝ちだ。


 笑って言えたら、ハンスはもっと俺を思い出してくれるのだろうか。

 微温いはずの温泉に沈む体が熱い。

 俺はのぼせ上がっている――。
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