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効能は不明だが

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 王宮はいくつもの庭園を持っている。

 それらは大きく第1~第8庭園に分けられる。

 王宮を鮮やかに彩るだけでなく、貴族たちの交流の場としても機能している。


 そして今日、第5庭園に異変が起こった――。


 俺が第5庭園に駆けつけた時には、既に野次馬がわんさかいた。

 野次馬の一人が話している。

「庭師が土を運んでいたら、中から湯が湧き出たそうだ」

 野次馬たちはその現場を見ようと集まっているのだ。


「これ、お前たちっ! 各自持ち場に戻れっ!」

 オーケルマンが野次馬の整理に苦戦している。

 宰相がお怒りでも、赤信号皆で渡れば怖くない。

 皆、湯が湧き出るという現象に興味津々なのだ。


 湯が湧き出る……、それってつまり。

 俺は野次馬をかき分けて、オーケルマンの元へ急いだ。

「旦那様ー!」

「おお、マヤじゃないか! お前まで……」


「そんなことはどうでも良いのです! それより旦那様、湯が出たというではありませんか! どうするおつもりですか?」

 こういう場合、オーケルマンは俺に情報を与えない。

 妾にする話じゃないと思っているからだ。


「お前は小難しいことは考えず、部屋に戻れ!」

 やっぱり。

 だが、ここは美しいだけじゃない俺を見せるチャンス!

 大人しく戻るわけにはいかない。


「旦那様! これはしばらく湧き続けるでしょう。この湯を利用して、大浴場を作るのです!!」

 そう、これは温泉だ。

 周辺に火山など見当たらないロマーリア王国になぜ湧き出たのかは知らんが、この事件、俺が解決してやろう!


「何を言っておるのだ?」

 オーケルマンには伝わらなかった。

 しかし横にいたエストマン子爵には天啓として降り注いだ。

「大浴場……。以前、ネカで似た光景を見た覚えがございます。宰相、湧き出る湯の量次第では、一度に多くの者が疲れを癒せる場になりますぞ!」


 エストマンの指揮で、簡易的な銭湯が誕生した。

 この開放感は露天風呂と呼ぶのが正解だろう。

 乳白色のにごり湯ってことは、美肌温泉か?


 まず実験として選ばれた使用人が、湯に浸かることになった。

 実験という名目はかわいそうだが、一番風呂の権利をもらったんだ。

 頑張れ!!


 使用人は服を着たまま恐る恐る足を浸ける。

 未知の現象や衆人環視の中で、不安がない方がおかしい。

 だが全身が浸かる頃には、使用人の顔はほころんでいた。


 エストマンは実験結果を知りたくてウズウズしている。

「どうだ? 何か異変はないか?」

「とても気持ち良いです。眠ってしまいそうです~」


 俺たちは全員、実験が成功したと確信した。

 そして自分たちも入ってみたくなった。

 使用人のとろけた表情と声色は、嘘じゃないと思ったからだ。


 野次馬たちは長い行列をなし、初めての露天風呂を経験した。

 皆、服を着たままだったが、体の芯から温まる心地良さに大満足だ。
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