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立身出世②
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「サリアン様は大パウガル共和国で新しい人生を送ることに不安はなかったんですか? 俺あんまり大パウガル共和国を知らなくて……」
サリアンはかいつまんで説明した。
「大パウガル共和国はここから比較的近いし、肥沃な土地は飢饉からも縁遠い。ロマーリア王国と大きく異なるのは王様がいないってことかな。国の代表者は俺たちが決めるんだ」
いわゆる共和政ってことだ。
俺にだって王政と共和政の違いくらいは分かるぞ!
「共和国っていうくらいですもんね」
「へえ、君は他の妾とは違うんだね。没落貴族の出身ってところかな?」
サリアンは俺の些細な言動からでも、情報を引き出そうとしてくる。
まあ、異世界から来たとは思いもつかないだろうけど。
ボロが出ないようにしよう。
「あまり警戒しないでよ。大パウガル共和国は民の選択によって作られる開かれた国なんだ。ロマーリアを悪く言うつもりはないけど、王による絶対的支配はいずれ世界から消えるだろうね」
確かに絶対王政は終わっちゃったな。
元の世界がこの世界より進歩していると仮定するならば、サリアンは先見の明を持っている。
だが、俺は政治について建設的な話をする気はない。
いかんせん、政治が分からんからだ!
「サリアン様が今回ロマーリアにいらっしゃったのは?」
「宰相から招待されてね。相変わらずだよ、この国は……」
サリアンはロマーリアより大パウガルにいる方が充実していそうだ。
でも、大パウガルが本当に良い国なら、いちいちロマーリアを下げる必要はないと思うけど。
「ああ、宰相の件だったね。宰相は移り気な人だ。裏切られて置いていかれるのを何よりも恐れるあまり、先に捨てちゃうんだね」
さらりと言ったが、切り捨てられるかもしれない俺の身にもなって欲しい。
「安心してよ。捨てるといっても、首を斬られるわけじゃない。ただいないものとして処理されるだけ」
シンイーのような処刑は滅多にないってことか。
「ただし男娼から一発逆転を狙うには、宰相の支援は不可欠だよ」
オーケルマンに飽きられた妾がたくさんいるのは俺も把握していた。
彼らはオーケルマンのご機嫌取りをしなくて良いから、それなりに快適そうだ。
でも俺が目標とする立ち位置ではない。
サリアンみたいなルートを辿るには、オーケルマンのお気に入りであり続けなければならない。
オーケルマンは考えなしに妾を増やすから、ライバルは今後も増えるってことだ。
「君はとても美しい。きっと服を脱いだら直視できなくなるだろうね」
俺が欲しい褒め言葉ではないが、サリアンに言われるとドキドキしてしまう。
「そんなことは……」
「でも美しいだけでは、庭園の花と変わらない。花はいつか枯れてしまう」
サリアンは部屋に置かれていたハープへと向かう。
「人間は文化的であるべきだ。少なくとも俺は、そうやって宰相に自分が価値のある人間だと証明した」
サリアンはハープを弾きながら、歌った。
「~~~~」
話す時とは打って変わって、透き通るハイトーン。
優しく包み込むハープの音色を合わさって、晴れやかな気分になる。
歌い終えた後、俺は自然とスタンディングオベーションをした。
素晴らしい物を間近で見られてラッキーだ。
大量の金銀財宝を贈ることはできないから、精一杯の拍手が代わりだ。
「昔はね、王宮に俺の歌が響いてたんだよ。懐かしいなあ」
なんだ、サリアンはロマーリア王国が好きなんだな。
ノスタルジーに浸るサリアン。
もっと話したいと思わせる人間味のある男だ。
しかし、長居はしていられない。
俺がここにいるのはあまり好ましいことではないから。
ちょうど席を立ったところだし。
俺もお暇しようかな。
サリアンは俺に近づく。
別れの握手をしよう。
そう思ったのは俺だけで、サリアンは俺に口付けた。
差し出した俺の右手が、行くあてもなく宙を漂う。
唇と唇を軽く触れさせるだけのキスの後。
サリアンは無言で舌を出した。
舌にはカミソリの刃が載っていた。
サリアンはカミソリの刃を手に取ると、
「それと宰相と上手くやるならもう一つアドバイス。決して油断しないこと。人に言えない秘密がある時は特にね」
と言って笑った。
王宮の有名人サリアンは、噂通り、いやそれ以上のスゲェ男だった。
サリアンはかいつまんで説明した。
「大パウガル共和国はここから比較的近いし、肥沃な土地は飢饉からも縁遠い。ロマーリア王国と大きく異なるのは王様がいないってことかな。国の代表者は俺たちが決めるんだ」
いわゆる共和政ってことだ。
俺にだって王政と共和政の違いくらいは分かるぞ!
「共和国っていうくらいですもんね」
「へえ、君は他の妾とは違うんだね。没落貴族の出身ってところかな?」
サリアンは俺の些細な言動からでも、情報を引き出そうとしてくる。
まあ、異世界から来たとは思いもつかないだろうけど。
ボロが出ないようにしよう。
「あまり警戒しないでよ。大パウガル共和国は民の選択によって作られる開かれた国なんだ。ロマーリアを悪く言うつもりはないけど、王による絶対的支配はいずれ世界から消えるだろうね」
確かに絶対王政は終わっちゃったな。
元の世界がこの世界より進歩していると仮定するならば、サリアンは先見の明を持っている。
だが、俺は政治について建設的な話をする気はない。
いかんせん、政治が分からんからだ!
「サリアン様が今回ロマーリアにいらっしゃったのは?」
「宰相から招待されてね。相変わらずだよ、この国は……」
サリアンはロマーリアより大パウガルにいる方が充実していそうだ。
でも、大パウガルが本当に良い国なら、いちいちロマーリアを下げる必要はないと思うけど。
「ああ、宰相の件だったね。宰相は移り気な人だ。裏切られて置いていかれるのを何よりも恐れるあまり、先に捨てちゃうんだね」
さらりと言ったが、切り捨てられるかもしれない俺の身にもなって欲しい。
「安心してよ。捨てるといっても、首を斬られるわけじゃない。ただいないものとして処理されるだけ」
シンイーのような処刑は滅多にないってことか。
「ただし男娼から一発逆転を狙うには、宰相の支援は不可欠だよ」
オーケルマンに飽きられた妾がたくさんいるのは俺も把握していた。
彼らはオーケルマンのご機嫌取りをしなくて良いから、それなりに快適そうだ。
でも俺が目標とする立ち位置ではない。
サリアンみたいなルートを辿るには、オーケルマンのお気に入りであり続けなければならない。
オーケルマンは考えなしに妾を増やすから、ライバルは今後も増えるってことだ。
「君はとても美しい。きっと服を脱いだら直視できなくなるだろうね」
俺が欲しい褒め言葉ではないが、サリアンに言われるとドキドキしてしまう。
「そんなことは……」
「でも美しいだけでは、庭園の花と変わらない。花はいつか枯れてしまう」
サリアンは部屋に置かれていたハープへと向かう。
「人間は文化的であるべきだ。少なくとも俺は、そうやって宰相に自分が価値のある人間だと証明した」
サリアンはハープを弾きながら、歌った。
「~~~~」
話す時とは打って変わって、透き通るハイトーン。
優しく包み込むハープの音色を合わさって、晴れやかな気分になる。
歌い終えた後、俺は自然とスタンディングオベーションをした。
素晴らしい物を間近で見られてラッキーだ。
大量の金銀財宝を贈ることはできないから、精一杯の拍手が代わりだ。
「昔はね、王宮に俺の歌が響いてたんだよ。懐かしいなあ」
なんだ、サリアンはロマーリア王国が好きなんだな。
ノスタルジーに浸るサリアン。
もっと話したいと思わせる人間味のある男だ。
しかし、長居はしていられない。
俺がここにいるのはあまり好ましいことではないから。
ちょうど席を立ったところだし。
俺もお暇しようかな。
サリアンは俺に近づく。
別れの握手をしよう。
そう思ったのは俺だけで、サリアンは俺に口付けた。
差し出した俺の右手が、行くあてもなく宙を漂う。
唇と唇を軽く触れさせるだけのキスの後。
サリアンは無言で舌を出した。
舌にはカミソリの刃が載っていた。
サリアンはカミソリの刃を手に取ると、
「それと宰相と上手くやるならもう一つアドバイス。決して油断しないこと。人に言えない秘密がある時は特にね」
と言って笑った。
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