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俺はやってない!

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 ラムハリ王国から帰って3週間。

 俺は平穏な日々を送っていた。

 言い換えれば進展のない毎日。

 真実の愛への鍵はどこにあるんだ?


 オーケルマンの部屋から自室に戻ると、違和感を覚えた。

 ……香り?

 俺好みでない重くて甘ったるい香水の残り香が鼻をつく。

 ジュンは香水を付けていないだろうし。


 それにしてもジュンがお土産のハンカチを喜んでくれて良かった。

「大切に使いますねっ!」

 と言った時のハツラツとした笑顔で、全ての苦労が報われるってものよ。


 そんなことを考えていると、俺は香りの原因がどうでも良くなってしまった。

 今日も疲れたし寝よう。




 翌日の昼下がり――。

 ふと目をやった窓の外に、ハンスを見つけた。

 ソール騎士団が集まって何かしている。

 訓練でもやっているのか?


 俺も騎士になれば、あの中に入れたのにな。

 妾から騎士に転職はできないだろうか。

 普通に考えたら無理そうだなあ。


 扉をノックし入ってきたのは、……えっと、誰だっけ?

 ああ、確かジュンが「シンイー」と言っていた、オーケルマンの妾の一人だ。

 つまり、俺の仲間だ。


「どうした? ……シンイー?」

 シンイーは入ったきり何も言わない。

 顔色があまり良くないし、体調でも悪いのか?


 シンイーは俺を睨みつけて

「アタシのネックレスを盗んだのはお前だな!」

 と叫んだ。


「ネックレス? 俺は知らないし、盗んでない」

 シンイーの勘違いであることを伝えたいが、悪魔の証明は困難を極める。

 俺のアリバイとかを話せば良いのか?


 シンイーは俺を睨みつけたまま

「お前は罰せられるべきだっ!」

 と言って荒々しく部屋を出て行ってしまった。


 ……思い込みの激しいヤツだな。

 そのネックレスが見つかってくれたら良いんだが。

 なかなか面倒なことになりそうだ。



 その日の夕方、ジュンに聞いてみた。

「シンイーってヤツが来たんだけど、ちょっとヤバイ、あーえっと、変わったヤツだったりする?」

「シンイー様は、マヤ様が来られる前に、オーケルマン様からの寵愛を一番に受けていたお方です。シンイーの前で失敗するとつねられるので、私はあまり……」


 ジュンをつねるとは、俺が許さん!!

 今、俺がオーケルマン寵愛ランキングの1位にいるってことは、その前に1位がいるのも当然だ。

 で、それがシンイーだったと。


 妾同士で会話することがないから、何も知らなかった。

 シンイーは俺のことをどう思ってるんだろう。

 ジュンに言わせれば、オーケルマンに目をかけられるのは光栄なことらしいし。

 俺はシンイーのお株を取った形になってるのか?


 その日の夜も、オーケルマンは俺を呼んだ。

 思えばいつも俺が呼ばれるから、シンイーは2位になった途端、オーケルマンから声がかからなくなったってことだ。

 だからといって、俺にネックレスのことを言われてもなあ。



 翌朝、俺が気持ち良く眠っていると、扉が無作法に開いた。

「旦那様、マヤが盗んだんです!!」

 シンイーはオーケルマンに腕を絡ませながら、俺に詰め寄った。

「ネックレスを返して!! あれは旦那様からもらった大切なものなの!! 妾の中でアタシしか持ってないんだから!!」


 おいおい、オーケルマンを連れて来られても、盗んでない物は盗んでないと言うしかないよ。

 俺は違うと言い張ったが、シンイーは一歩も引かない。

 しまいには

「泥棒! これじゃあ旦那様からも何を盗んでいるか分かりゃしない!!」

 と騒ぎ立てた。


 俺はオーケルマンから鍵を盗み出そうとしているんだから、それは言っちゃだめだ!

 今の言葉でオーケルマンから疑われたらどうするんだよ!


「シンイー。そう怒るな。マヤは何か知っているのか?」

 オーケルマンが仲裁に入らなければならないほど、シンイーのボルテージは上がっている。

「シンイーから昨日も盗んだと言われましたが、旦那様と一緒にいたマヤが盗めるはずがありません。そうでしょう、旦那様?」

「ああ、一緒にいたのう」


 シンイーは俺がオーケルマンを味方に付けたのが気に食わないようだ。

「旦那様をこれ以上利用するな!! 四六時中一緒にいたわけでもないのに、いい加減に白状しろっ!!」

 何も言ってもダメそうだ。

 
 だったら好きなだけ探せば良い。

「旦那様、そこまでおっしゃるなら、この部屋をくまなく探してそのネックレスを見つけてください。探しても出てこなかった時は、今後シンイーをマヤに近づけないでください」


 こうして、オーケルマンとシンイーによる家宅捜索が始まった。

 どうしてシンイーは俺を見てニヤついてるだ?

 さっきまで怒り狂ってたのに変なヤツ。


 あっ、そういえば引き出しに宝物庫への地図があるんだった。

 オーケルマンは引き出しからそれを見つけたが、地図であると認識できなかったようだ。

 ……ジュンの絵心に救われたな。


 上から順番に引き出しが調べられていく。

 3番目を開けた時、

「ん、何だ? ……二重底か?」

 

 二重底になっているとは知らなかった。

 前の持ち主が作ったんだろうか?


 オーケルマンが二重底を外すと、そこにはエメラルドのネックレスがあった――。
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