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四つ足の小悪魔②
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俺はハンスの部屋を出て、近くで喚いている使用人に訊ねた。
「どうして皆さんは大声を出しているんですか?」
「夜明け前、猫の鳴き声を耳にした者がおります。猫は人間の大きな声が苦手なので、こうして王宮の者が総出で騒いでいるのです」
確かに猫は人間よりずっと聴覚が優れているから、大きな音を嫌うだろう。
だが、こんな広い王宮で大きな音を立てていたら、猫はどんどん奥へ進まないか?
「おい、さっきの話はどういう意味だ?」
ハンスが部屋から出て来た。
決死の覚悟って感じだ。
百聞は一見に如かず。
本物を見てもらえばいい。
「ハンス! 誇り高き騎士なら、俺の護衛を頼む!」
騎士の誇りを重んじるハンスは、俺に同行することになった。
「ここは人が多すぎて、きっと猫はもっと静かなところへ逃げたはず。あっちへ行こう!」
人気の少ない奥まった通路へと進んだ。
「おーい、猫ちゃーん。出ておいでー」
猫に話しかける時って、どうしてこうも甲高くなるんだろう。
「猫はそんな下にいるのか?」
俺が体を屈めて探しているから、ハンスは疑問に思ったようだ。
「そうだよ。馬鹿デカイ猛獣だと思った? 猫は小さくて隅っこで丸くなれるほど、体が柔らかいんだ」
「そうか……。もし見つかったら、目は閉じなくて良いのか?」
見たら最期って呪物じゃないんだから……。
「ハンスが先に見つけたら――」
突然、ハンスにグイっと抱き寄せられ、通路の凹みに押し付けられた。
俺は宝物庫でのことを思い出し、心臓がドクンと跳ねた。
「どうだ? 猫は追い出せたのか?」
「誰も猫が逃げるところを見ていないので分かりかねます……。そもそも使用人たちも猫を見ないように必死ですので……」
ラムハリ王国の家臣たちが近くに来ていたみたいだ。
俺たちは部屋に入っているべき客だから、見つかったらヤバイ。
いち早く人の気配を察知したハンスが気を利かせたんだ。
家臣たちは近くで留まり、なかなかその場を離れようとしない。
凹みはそんなにスペースがないから、俺とハンスとの距離はかなり狭い。
ハンスに腕を掴まれたまま、俺はどこを見たらいいか分からない。
声が近くなり、緊張が走った。
こっちに来るかもしれない!
ハンスは俺の体をさらに強く壁に押し当て、俺との距離も詰めた。
俺たちの体はついに密着し、ハンスの心臓の鼓動が分かる。
トクン、トクンと安定した鼓動に、俺の心臓はますます高鳴る。
ハンスのが分かるってことは、俺の爆発しそうな心臓も伝わってるってことじゃないのか!?
声が遠くなり、ようやく家臣たちは歩き去ったようだ。
これで俺の心臓も落ち着くぞ!
……だが、ハンスは動こうとしない。
「も、もう、アイツらは行ったみたいだし……」
「震えている」
「えっ?」
ハンスは体を密着させた状態で、顔を高さを俺に合わせた。
「俺の任務はお前の護衛だ。お前を守るために、今すぐこの震えを止めなければならない――」
ハンスは俺の顎を少し上げ、唇を近づけた。
あの時の続きを今ここで――。
キスの直前、俺が目を閉じかけた時、左の方でガタっと音がした。
ヤバイ!
家臣に見られたのか!?
このことをオーケルマンに話されたら……!
「どうして皆さんは大声を出しているんですか?」
「夜明け前、猫の鳴き声を耳にした者がおります。猫は人間の大きな声が苦手なので、こうして王宮の者が総出で騒いでいるのです」
確かに猫は人間よりずっと聴覚が優れているから、大きな音を嫌うだろう。
だが、こんな広い王宮で大きな音を立てていたら、猫はどんどん奥へ進まないか?
「おい、さっきの話はどういう意味だ?」
ハンスが部屋から出て来た。
決死の覚悟って感じだ。
百聞は一見に如かず。
本物を見てもらえばいい。
「ハンス! 誇り高き騎士なら、俺の護衛を頼む!」
騎士の誇りを重んじるハンスは、俺に同行することになった。
「ここは人が多すぎて、きっと猫はもっと静かなところへ逃げたはず。あっちへ行こう!」
人気の少ない奥まった通路へと進んだ。
「おーい、猫ちゃーん。出ておいでー」
猫に話しかける時って、どうしてこうも甲高くなるんだろう。
「猫はそんな下にいるのか?」
俺が体を屈めて探しているから、ハンスは疑問に思ったようだ。
「そうだよ。馬鹿デカイ猛獣だと思った? 猫は小さくて隅っこで丸くなれるほど、体が柔らかいんだ」
「そうか……。もし見つかったら、目は閉じなくて良いのか?」
見たら最期って呪物じゃないんだから……。
「ハンスが先に見つけたら――」
突然、ハンスにグイっと抱き寄せられ、通路の凹みに押し付けられた。
俺は宝物庫でのことを思い出し、心臓がドクンと跳ねた。
「どうだ? 猫は追い出せたのか?」
「誰も猫が逃げるところを見ていないので分かりかねます……。そもそも使用人たちも猫を見ないように必死ですので……」
ラムハリ王国の家臣たちが近くに来ていたみたいだ。
俺たちは部屋に入っているべき客だから、見つかったらヤバイ。
いち早く人の気配を察知したハンスが気を利かせたんだ。
家臣たちは近くで留まり、なかなかその場を離れようとしない。
凹みはそんなにスペースがないから、俺とハンスとの距離はかなり狭い。
ハンスに腕を掴まれたまま、俺はどこを見たらいいか分からない。
声が近くなり、緊張が走った。
こっちに来るかもしれない!
ハンスは俺の体をさらに強く壁に押し当て、俺との距離も詰めた。
俺たちの体はついに密着し、ハンスの心臓の鼓動が分かる。
トクン、トクンと安定した鼓動に、俺の心臓はますます高鳴る。
ハンスのが分かるってことは、俺の爆発しそうな心臓も伝わってるってことじゃないのか!?
声が遠くなり、ようやく家臣たちは歩き去ったようだ。
これで俺の心臓も落ち着くぞ!
……だが、ハンスは動こうとしない。
「も、もう、アイツらは行ったみたいだし……」
「震えている」
「えっ?」
ハンスは体を密着させた状態で、顔を高さを俺に合わせた。
「俺の任務はお前の護衛だ。お前を守るために、今すぐこの震えを止めなければならない――」
ハンスは俺の顎を少し上げ、唇を近づけた。
あの時の続きを今ここで――。
キスの直前、俺が目を閉じかけた時、左の方でガタっと音がした。
ヤバイ!
家臣に見られたのか!?
このことをオーケルマンに話されたら……!
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