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四つ足の小悪魔
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俺たちは真夜中過ぎに王宮へと帰り着いた。
ロレンソは俺たちを待っていたようだ。
「どちらにいらしていたのですか? 心配しておりました」
この人は賊にさらわれたことすら知らないみたいだ。
さては俺が人質になっている時、男娼とよろしくやってたな。
「宰相は今、何を?」
ロレンソは俺たちに用意された部屋の方角に目を向けた。
「オーケルマン殿はお休みになっておいでです」
身代金要求を突っぱねただけでなく、グースカ寝てるだと!?
「オーケルマン殿に声をおかけしましょうか?」
「いや、それには及びません。私どもも部屋で休ませてもらう」
熱い出迎えは期待していなかったが……。
俺はベッドに横になると、引っ張られるように眠りへと落ちて行った――。
翌朝、部屋の外が騒がしくて目を覚ました。
外ではワーワーキャーキャーと悲鳴が聞こえる。
余所行きの格好に整えて、扉を開けてみた。
使用人たちが叫びながら走り回っている。
朝食の準備とかしなくて怒られないのか?
使用人たちの中にロレンソを見つけると、彼もまた俺を見つけたようだ。
「王宮内は未曾有の危機に陥っております! 賓客に何かあっては……! お部屋の中へお逃げください!」
ハンスやオーケルマンも部屋に控えているのか?
「マヤ、マヤがそこにいるのか?」
朝からオーケルマンの不快な声を聞いてしまった。
「扉を少しだけ開けるから入って来い。ワシを癒しておくれ」
どの口が言ってるんだ!
俺はまだ何一つ許してないぞ!
扉が少し開いた。
このままではオーケルマンの相手をさせられる!
咄嗟に別の部屋へと逃げ込んだ。
しまった!!
ここは俺の部屋じゃないぞ!
「驚いた」
ベッドに腰掛けるハンスがいた。
「違うんだ。サプライズじゃなくて、自分の部屋と間違えたんだ……」
ハンスはいつでも部屋の外に出られる格好なのに、ずっとこの部屋に閉じこもっていたようだ。
「王宮が騒がしいけど、未曾有の危機って何なんだろうね?」
「……猫だ」
「えっ?」
ハンスの声は少し震えている。
「猫が出たんだ」
猫がどうなったら大人たちがこんなに慌てるんだ?
「俺のせいかもしれない。お前に『泥棒猫』などと軽口を……」
ハンスは頭を抱えてひどく後悔している。
……ちょっと面白いな。
「別に俺は気にしてないって言っただろ。猫がどうしたんだよ~」
「まさか、お前は知らないのか? そうか、お前は特殊な境遇の持ち主か……」
この世界の人たちが恐れる猫って、俺が知ってるあの可愛いニャンコとは別なのか?
「教えてくれよ。猫の何が問題なんだ?」
ハンスは自身の隣を指でトントンした。
そこに座れってことか。
そして俺にどれほど猫が恐ろしい動物かを力説した。
「いいか、猫は異星から来た動物だ。人間の領域にのらりくらりと現れては、食べ物を盗む。それだけではない。奴らは人から魂を奪っていく。手にかけようものなら、真冬の湖に潜るほどの絶望と苦痛を味わうのだ。猫は決して見てはいけない。だからその鳴き声を聞いたら、すぐに追い出さなければならない」
ふむふむ。
じゃあ、皆は見たことのない物をこんなに怖がっているのか。
それにしても異星って。
俺も異星から来た動物に含まれるのか!?
ハンスは拳に力を込めた。
「俺は死ぬ時は戦場でと決めている。己の使命を全うしたいという欲のために、こうしておめおめと部屋に閉じこもっているのだ……!」
俺は思わず笑ってしまった。
「情けないと笑われても仕方ないことだ……!」
「ごめん、ごめん。ハンスにも怖いものがあるんだな! でもさ、俺、見たことあるよ。今王宮をパニックに陥れているのは、そんな恐ろしい動物じゃないよ」
俺は立ち上がって部屋の外へ出ようとした。
「ま、待てっ! 本当に猫を見たことがあるのか?」
「うん。言っただろ? 俺はハンスが知らないことを知ってるって」
ロレンソは俺たちを待っていたようだ。
「どちらにいらしていたのですか? 心配しておりました」
この人は賊にさらわれたことすら知らないみたいだ。
さては俺が人質になっている時、男娼とよろしくやってたな。
「宰相は今、何を?」
ロレンソは俺たちに用意された部屋の方角に目を向けた。
「オーケルマン殿はお休みになっておいでです」
身代金要求を突っぱねただけでなく、グースカ寝てるだと!?
「オーケルマン殿に声をおかけしましょうか?」
「いや、それには及びません。私どもも部屋で休ませてもらう」
熱い出迎えは期待していなかったが……。
俺はベッドに横になると、引っ張られるように眠りへと落ちて行った――。
翌朝、部屋の外が騒がしくて目を覚ました。
外ではワーワーキャーキャーと悲鳴が聞こえる。
余所行きの格好に整えて、扉を開けてみた。
使用人たちが叫びながら走り回っている。
朝食の準備とかしなくて怒られないのか?
使用人たちの中にロレンソを見つけると、彼もまた俺を見つけたようだ。
「王宮内は未曾有の危機に陥っております! 賓客に何かあっては……! お部屋の中へお逃げください!」
ハンスやオーケルマンも部屋に控えているのか?
「マヤ、マヤがそこにいるのか?」
朝からオーケルマンの不快な声を聞いてしまった。
「扉を少しだけ開けるから入って来い。ワシを癒しておくれ」
どの口が言ってるんだ!
俺はまだ何一つ許してないぞ!
扉が少し開いた。
このままではオーケルマンの相手をさせられる!
咄嗟に別の部屋へと逃げ込んだ。
しまった!!
ここは俺の部屋じゃないぞ!
「驚いた」
ベッドに腰掛けるハンスがいた。
「違うんだ。サプライズじゃなくて、自分の部屋と間違えたんだ……」
ハンスはいつでも部屋の外に出られる格好なのに、ずっとこの部屋に閉じこもっていたようだ。
「王宮が騒がしいけど、未曾有の危機って何なんだろうね?」
「……猫だ」
「えっ?」
ハンスの声は少し震えている。
「猫が出たんだ」
猫がどうなったら大人たちがこんなに慌てるんだ?
「俺のせいかもしれない。お前に『泥棒猫』などと軽口を……」
ハンスは頭を抱えてひどく後悔している。
……ちょっと面白いな。
「別に俺は気にしてないって言っただろ。猫がどうしたんだよ~」
「まさか、お前は知らないのか? そうか、お前は特殊な境遇の持ち主か……」
この世界の人たちが恐れる猫って、俺が知ってるあの可愛いニャンコとは別なのか?
「教えてくれよ。猫の何が問題なんだ?」
ハンスは自身の隣を指でトントンした。
そこに座れってことか。
そして俺にどれほど猫が恐ろしい動物かを力説した。
「いいか、猫は異星から来た動物だ。人間の領域にのらりくらりと現れては、食べ物を盗む。それだけではない。奴らは人から魂を奪っていく。手にかけようものなら、真冬の湖に潜るほどの絶望と苦痛を味わうのだ。猫は決して見てはいけない。だからその鳴き声を聞いたら、すぐに追い出さなければならない」
ふむふむ。
じゃあ、皆は見たことのない物をこんなに怖がっているのか。
それにしても異星って。
俺も異星から来た動物に含まれるのか!?
ハンスは拳に力を込めた。
「俺は死ぬ時は戦場でと決めている。己の使命を全うしたいという欲のために、こうしておめおめと部屋に閉じこもっているのだ……!」
俺は思わず笑ってしまった。
「情けないと笑われても仕方ないことだ……!」
「ごめん、ごめん。ハンスにも怖いものがあるんだな! でもさ、俺、見たことあるよ。今王宮をパニックに陥れているのは、そんな恐ろしい動物じゃないよ」
俺は立ち上がって部屋の外へ出ようとした。
「ま、待てっ! 本当に猫を見たことがあるのか?」
「うん。言っただろ? 俺はハンスが知らないことを知ってるって」
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