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俺に与えられたミッション

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「アイタタタタ……。」

 俺は目の前に広がる中世ヨーロッパ風の街並みに驚愕した。

「ここはどこだー!?」

 
 行き交う人は俺をジロジロと見る。

 何で誰も助けてくれないんだよ、この薄情者っ!!


 真っ青な空から声が聞こえた。

「……そなたは元の世界に戻りたいか?」

「何の夢だよ!! そりゃそうだろ! 俺はピカピカの大学1年生なんだから、こんな場所にいていいわけないだろ!」


 何で、頭が痛いんだっけ?

 そうだ!

 机の下の消しゴムを拾って頭を上げた時に激痛が走ったんだった。


「俺は学祭の準備で忙しいんだ!! 夢なら早く覚めてくれ!!」

 周りは空に向かって話す俺を気持ち悪がっている。

 この人たちにはこの声が聞こえてないのか?

 だったら俺はとんだイカれ野郎だ。


「これは夢ではない……。元の世界へ帰るには、秘宝『真実の愛』を手に入れるがいい……」

「はぁ、何だよそれ? っていうか本当にここどこ? おーい、空さーん。天の声さーん、聞いてるー?」

 声はどこかへ行ってしまった。


 俺の奇っ怪な行動のおかげで、街はちょっとした騒ぎになっている。

 馬に乗った身分の高そうなオッサンが、部下らしき人たちを引き連れてこっちに来た。

「お前、何を騒いでいる。見慣れぬ服だな、異人か? ……ほう、なかなか可愛い顔をしてるのう」


 オッサンはベレー帽みたいな丸い帽子を被っているが、あの中は禿げているに違いない。

 小太りでニタァとした下品な笑い方は、高級そうな服に似つかわしくない。

 あれはタイツか?

 パツパツじゃねーか!

 マントのフワフワは本物の動物の毛なんだろうか?


 オッサンの容姿を軽くディスっていると、

「お前、行くあては? ワシの愛妾に加えてやろう」

 となんとまあ気色の悪い。


「へっ!? 俺男ですよ? それに愛妾って……」

「ならばお前を風紀を乱したとして牢に入れる。ワシの力で助けてやろうというのだ」

 オッサンはヒゲをさすさすしている。

 小綺麗なオッサンならダンディなカイゼル髭なんだろうが、こいつがすると不潔極まりない。


「ちょっと待ってくださいよー。俺、『真実の愛』を探してるんです! それがないと――」

「それなら王宮にあるぞ。我らロマーリア王国の宝ではないか」

 えぇー、こういうのってすぐには見つからないんじゃないの?

 じゃあ、それを手に入れて終わりじゃん。

 俺ってラッキー!


「本当ですか? それなら僕付いて行きますよ!」

 愛妾が何とかって言ってたけど、上手く誤魔化して真実の愛をちょちょっと盗めばいいや。

 頭の悪そうなハゲ、酒でも飲ませりゃ何とでもなる!!
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