71 / 72
くじらの一生②
しおりを挟む
「ああ、ここは恐ろしい体験談を話すべきですね。
……っと、じゃあ、これはどうでしょう。
『ストーカーだと思っていた女が霊だと判明する』
中学、高校とずっと女につけられていたんですよ。
でもこの時期って、自意識が過剰になるでしょ?
そういう勘違いだと思って、でも自分を好いている女性がいるという事実にほくそ笑みながら、登下校していたんです。
いつも後ろに気配を感じるだけ。
こちらから話しかけようと思いましたが、私は恋愛に奥手なもので。
大学に入ってから、霊感のある友人に言われたんですよ。
『お前、江戸時代に死んだ女の恨みを買ってるぞ』って。
そりゃあもう、腰が抜けるほど驚きました。
現状最有力の恋人候補が既に死んでいて、しかも恨まれているって。
しかも江戸時代!
急いで友人に紹介してもらった霊媒師に祓ってもらいましたよ!
そこからこのままではいかんと本腰を入れて恋人作りに励み、先ほどの初めての彼女へと繋がるわけなのですが。
ははは、あまり怖くありませんね……。
いやあ、困ったな……。
私にとってはこの本の存在こそが本題であって、これまでに経験したことは些細なことでありまして。
……でもこれは些細なことではないな。
ついここにも書かれていて、つい先日起こったこと。
『小説家の夢を諦める』――。
実はね、私、本好きが高じて物書きを志した典型的な人間なんですよ。
あれやこれやと作品を書き上げ、一花も咲かすことができずここまで来ました。
彼女に愛想を尽かされたのも、私が就職しないでフラフラとしていたからです。
『あなたに才能はない』
ときっぱり言われた時はショックでしたが、彼女は聡明な人だった。
夢に向かい猪突猛進が永遠に続くわけはなく、少し立ち止まって考えてみたんです。
周りを見渡せば、私よりずっと年若き人が有名な賞を獲っている。
教科書に掲載される現代文学だってあるというじゃありませんか。
対して私はどうでしょう。
本名で執筆活動をしても、誰も私が物書きだと知らない。
高尚な芸術品のように批評をもらうどころか、誰かの暇つぶしになるのが関の山。
老いることが段々と重要な意味を持つようになった齢に、こんなことをして良いのだろうか。
人生を浪費するに値することだろうか。
進むべきか退くべきか逡巡しているうちに溢れ出た涙は、何度も味わった挫折に他ならない。
その日、私は初めて未完の作品を作ってしまいました。
まあまあ、そんな顔をしないでください。
人間何度でも挫折はするものです。
あと10年もすれば、些細なことになっているでしょう。
君だってこれから経験することだ。
できればお茶のお代わりが欲しいなあ」
……っと、じゃあ、これはどうでしょう。
『ストーカーだと思っていた女が霊だと判明する』
中学、高校とずっと女につけられていたんですよ。
でもこの時期って、自意識が過剰になるでしょ?
そういう勘違いだと思って、でも自分を好いている女性がいるという事実にほくそ笑みながら、登下校していたんです。
いつも後ろに気配を感じるだけ。
こちらから話しかけようと思いましたが、私は恋愛に奥手なもので。
大学に入ってから、霊感のある友人に言われたんですよ。
『お前、江戸時代に死んだ女の恨みを買ってるぞ』って。
そりゃあもう、腰が抜けるほど驚きました。
現状最有力の恋人候補が既に死んでいて、しかも恨まれているって。
しかも江戸時代!
急いで友人に紹介してもらった霊媒師に祓ってもらいましたよ!
そこからこのままではいかんと本腰を入れて恋人作りに励み、先ほどの初めての彼女へと繋がるわけなのですが。
ははは、あまり怖くありませんね……。
いやあ、困ったな……。
私にとってはこの本の存在こそが本題であって、これまでに経験したことは些細なことでありまして。
……でもこれは些細なことではないな。
ついここにも書かれていて、つい先日起こったこと。
『小説家の夢を諦める』――。
実はね、私、本好きが高じて物書きを志した典型的な人間なんですよ。
あれやこれやと作品を書き上げ、一花も咲かすことができずここまで来ました。
彼女に愛想を尽かされたのも、私が就職しないでフラフラとしていたからです。
『あなたに才能はない』
ときっぱり言われた時はショックでしたが、彼女は聡明な人だった。
夢に向かい猪突猛進が永遠に続くわけはなく、少し立ち止まって考えてみたんです。
周りを見渡せば、私よりずっと年若き人が有名な賞を獲っている。
教科書に掲載される現代文学だってあるというじゃありませんか。
対して私はどうでしょう。
本名で執筆活動をしても、誰も私が物書きだと知らない。
高尚な芸術品のように批評をもらうどころか、誰かの暇つぶしになるのが関の山。
老いることが段々と重要な意味を持つようになった齢に、こんなことをして良いのだろうか。
人生を浪費するに値することだろうか。
進むべきか退くべきか逡巡しているうちに溢れ出た涙は、何度も味わった挫折に他ならない。
その日、私は初めて未完の作品を作ってしまいました。
まあまあ、そんな顔をしないでください。
人間何度でも挫折はするものです。
あと10年もすれば、些細なことになっているでしょう。
君だってこれから経験することだ。
できればお茶のお代わりが欲しいなあ」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説



ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる