壺の中にはご馳走を

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寝たきりの祖母④

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「まず俺は日記を書き留めたいと言って、サイドテーブルからスマホを手に取った。

 自然な流れでスマホはポケットに入れ、トイレへと立った。


 親戚連中は足腰が悪いのか、あまり活動的ではなかった。

 さらに耳まで遠い。

 だから気配さえ消して歩けば、玄関へと続く廊下へ出ることは簡単だった。


 応接間に俺の旅行カバンが無造作に置かれているのに気付いた。

 もちろん親戚が数人くつろいでいたが、お構いなしに返してもらった。


 玄関までわずかな距離まで来てしまえば、俺の方が有利だ。

 逃亡に気付いた者もいたが、俺は全速力で走った。

『大変やー逃げたぞー』


 無我夢中で走りまくった。

 最悪のケースを考えて、バスを待たずに火事場の馬鹿力に任せ、あの家からできるだけ遠くを目指した。


 スマホの電波が入る地域に到着し、俺は警察に声をかけられた。

 パジャマのまま息を切らせて走る男がいれば、職務質問したくなるよな。

 軟禁されたことは伝えずに、とにかくオヤジに連絡してくれるよう頼んだ。


 オヤジは驚いた顔をしてたよ。

 さっきのあんたたちと同じだな。

 息子を名乗る男は、自分と同年代のオッサンになってた。

 俺はたった数日間で、あの家に寿命を吸われたんだ」


 若田虎太郎は、本来の若々しい容姿でティサを出た。


「社会人2年目って言った時は、びっくりしましたね~」

「それにしても奇妙な連中だ。


 家は寿命を奪い、場合によっては周辺の家を襲う厄介者であるのに、住人たちは寿命を与えんとするのを最良としている。寿命を捧げることに誰も疑問を持っていない。

 選ばれることに何の意味がある? 生きているか死んでいるか判別できないような姿で、家に生かされるだけだ。

 きっと家の外に出れば、すぐさま灰になるだろう。


 集団洗脳にかかっているのか、老いとは人間の頭をああも悪くさせるのか。一度人間の頭の中を覗いてみたいもんだ」


 珍しく真也は名探偵のような洞察力を発揮した。

「母親は出て行ったって言っていましたけど、家に寿命を吸われて亡くなったってことは考えられないでしょうか? だって親戚がたくさん集まる家なんでしょ? 一度幼い若田さんを連れて家に訪れた時に、何かあったとか……?」


 茉美は眉をピクリと上げた。

「鋭いな。アタシも母親は既に死んでいると思う。

 父親は10万ぽっちで息子を売ったのかもしれないぞ。一気に老け込んだ息子を見て改心していれば良いが……。

 金の力ってのは人から理性を奪うからねぇ。また別の角度から大金を積まれれば、再び息子を家に閉じ込めることも――。

 
 アハハハハ! そう怖い顔をするな。お前は実際に起こったことだけに目を向ければ良いんだよ。

 ――人間なんて、そんな些末な事柄も見えやしないじゃないか」


 
 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。
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