壺の中にはご馳走を

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一心同体⑤

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「家を追い出されてすぐ、神主に電話をかけた。

『途中で電話を切るもんだから、何かあったかと心配した。今から神社に来なさい』

 電話を切ったのは神主の方だと記憶している。

 田中を神社に連れて行きたいと母親を説得するも許可は出ず、俺と前園の2人で行った。


 神主は驚いた顔をした。

『君たちは生きている方か……。じゃあ、どちらかが……』

 俺は理解に苦しんだ。

『どういうことですか? 田中は、途中で吐いたやつは俺たちの友人ですよ』


 神主の説明はますます俺たちを混乱させた。

『吐いた? いつ? 君たちは大人しく祈祷を受けてたじゃないか。君たち2人と、坊主頭の双子』

 俺たちはスキンヘッドのそいつに襲われたことを、神主に伝える前に祈祷を受けた。

 てっきり神主には全てお見通しなんだと思っていた。


『ちょっと待ってください。田中は坊主頭ではないですし、双子って……』

 俺の頭には、風呂場で背中合わせに繋がっていた光景が浮かんだ。

 神主の見た双子が、走り抜けたヤツと、小さくしぼんだヤツだと分かった。


『とにかく、その田中という友達を連れて来なさい。彼はまだ祈祷を受けていない』

 神主に言われたけど、母親の鉄壁の守りで連れ出すことができない。


 だから、こちらで祓って欲しくて話すことにしたんです。

 早くしないと俺たちにも田中が見えなくなってしまうような気がして……」


 岩橋賢斗は浮かぬ表情のまま店を出た。


 真也は

「実際に友達が元気になった姿を見ないと安心できませんね」

 と田中の無事を祈った。


「アタシが思うに、廃墟で見たのは本来2つ揃って存在できるものだ。

 
 だが、人間に遭遇したことがトリガーとなり、2つは引き裂かれてしまった。1つは自由を求め外へ、もう1つは力なく消失した。

 消失した方はブレーキの役割を持っていたんじゃないだろうか。引き離されたことで、アクセル全開で岩橋たちを襲い始めた。

 2つが揃う必要がある、という前提で考えるならば、アクセル全開では何か不都合が生じるはずだ。そいつはブレーキを欲した。だがブレーキは消失してしまったのだから、いくら探しても見つからない。

 だからブレーキの役割を担う存在として、田中を選んだ。廃墟を訪れた3人の中で田中だったのは、一番臆病な人物だからだ。

 岩橋は真実を突き止めたいという探究心が強い。前園は臆病な人物のように語られていたが、アタシは一番臆病なのは田中だと思うねぇ。田中も前園同様、風呂場には行かなかったはずだ。それも、音すら聞こえない、かなり手前で引き返したんだ。それを仲間に打ち明けることすらできなかった。まさにブレーキ役にピッタリじゃないか!

 神社で祓いを受けた時、田中の一部は既にブレーキ役になっていたんだろう。完全に取り込まれれば、存在するために互いを必要とする異形のものになる。


 ブレーキを見失ったから、アクセルの方もいずれ消失すると思うが……。どの程度単独で存在できるかによるねぇ。また別の臆病な人間に目を付ければ、裸で背中をくっつけた奇妙な姿が目撃される日も遠くない。


 なぁに心配ない。その時はブレーキが効いているんだ。アクセル全開よりはマシだよ」


 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。
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