56 / 72
一心同体②
しおりを挟む
「1人になって前園の話が頭をよぎった。
(余計なこと言いやがって……!)
俺は気合いを入れて奥へ向かった。
風呂場はすぐに分かり、変な余裕が生まれた。
田中はいいとして、前園は時間かかり過ぎだろって。
確かに足場が悪いから歩く時は慎重にならざるを得ないけど、数十分うずくまって動かないのはビビリ過ぎ。
でも、風呂場に入った俺は自分が相当ビビリだってことを思い知らされた。
朽ちたバスタブに、素っ裸の人間らしきものがいた。
そいつらは、背中合わせに座り、幸いなことに顔はこちらに向いていない。
ばっちりと懐中電灯で照らしたのに、驚く素振りもない。
『アッ、アッ……』
と喉が潰れたような声を発しているだけだ。
気づかれないうちに早く逃げようと思った。
だが、後退りした時の音で、俺は気付かれてしまった。
そいつらは顔を90度動かして、俺を見た。
髪の毛どころか、眉毛すら生えていない。
光のない真っ暗な目で、
『アッ、アッ……』
と言いながら、それぞれがお辞儀をするように、ゆっくりと前傾姿勢をとった。
お辞儀が深くなるにつれ、背中が裂けて真っ赤な肉が露出した。
そいつらは背中がくっついていたんだよ!
俺の方を向いた2つの顔は苦悶の表情を浮かべ、背中がミチミチと引き剥がされていく。
そしてついに完全に引き離された。
俺から向かって右にいたヤツが、バスタブに足をかけ乗り越えようという動作を見せた。
俺は異様なものが迫っているのに、恐怖で動くことができなかった。
そいつは、バスタブを乗り越えると、俺には何もしないで走り去った。
俺の横を通る時、ビュンッと突風が吹いたのを感じた。
もう片方は、肉が剥き出しになった背中から血をダラダラと流して、苦しそうに呻いていた。
やがて、体中がシワシワになり、空気が抜けるみたいに小さくしぼんだ。
視界からそいつらが消えたことで、ようやく動けるようになった俺は、恐る恐るバスタブを覗いた。
そこにはゴミや枯れ草が散乱し、ヤツがどれなのか見分けが付かなかった」
(余計なこと言いやがって……!)
俺は気合いを入れて奥へ向かった。
風呂場はすぐに分かり、変な余裕が生まれた。
田中はいいとして、前園は時間かかり過ぎだろって。
確かに足場が悪いから歩く時は慎重にならざるを得ないけど、数十分うずくまって動かないのはビビリ過ぎ。
でも、風呂場に入った俺は自分が相当ビビリだってことを思い知らされた。
朽ちたバスタブに、素っ裸の人間らしきものがいた。
そいつらは、背中合わせに座り、幸いなことに顔はこちらに向いていない。
ばっちりと懐中電灯で照らしたのに、驚く素振りもない。
『アッ、アッ……』
と喉が潰れたような声を発しているだけだ。
気づかれないうちに早く逃げようと思った。
だが、後退りした時の音で、俺は気付かれてしまった。
そいつらは顔を90度動かして、俺を見た。
髪の毛どころか、眉毛すら生えていない。
光のない真っ暗な目で、
『アッ、アッ……』
と言いながら、それぞれがお辞儀をするように、ゆっくりと前傾姿勢をとった。
お辞儀が深くなるにつれ、背中が裂けて真っ赤な肉が露出した。
そいつらは背中がくっついていたんだよ!
俺の方を向いた2つの顔は苦悶の表情を浮かべ、背中がミチミチと引き剥がされていく。
そしてついに完全に引き離された。
俺から向かって右にいたヤツが、バスタブに足をかけ乗り越えようという動作を見せた。
俺は異様なものが迫っているのに、恐怖で動くことができなかった。
そいつは、バスタブを乗り越えると、俺には何もしないで走り去った。
俺の横を通る時、ビュンッと突風が吹いたのを感じた。
もう片方は、肉が剥き出しになった背中から血をダラダラと流して、苦しそうに呻いていた。
やがて、体中がシワシワになり、空気が抜けるみたいに小さくしぼんだ。
視界からそいつらが消えたことで、ようやく動けるようになった俺は、恐る恐るバスタブを覗いた。
そこにはゴミや枯れ草が散乱し、ヤツがどれなのか見分けが付かなかった」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説



ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる