壺の中にはご馳走を

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顔半分

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 真也は大きなあくびをした。

「ふぁあ~。すみません。お客さんが来たら、絶対我慢しますから!」

 テスト勉強でやや寝不足なのだ。

「大変だな。客はお前のことは見てないから安心してあくびしろ」

 茉美の微妙に傷付く優しさに、真也は複雑な表情をした。


 扉が開いた。

「こんにちは」

 馬場拓也も疲れた顔をしているが、真也より心労がたたっている様相である。

 忙しなく視線が泳いでいる。

 ロクに挨拶も交わさずまま、少し早口で話し始めた。


「今、俺に憑いてるのは、半年前に拾った。

 友人が事故に遭って亡くなったのも半年前だ。

 そいつは俺と高校の時からの同級生だ。

 
 その日俺たちは夕方まで釣りをして、車で帰る途中だった。

 運転したのは友人。

 いつもは俺が運転するんだが、ビールを飲みながら釣りをしたから、酒を飲めない友人が運転手になった。


 友人が運転する車に乗るのは初めてではなかったし、安心感があったんだろうな。

 助手席の俺はいつの間にか居眠りしていた。


 俺がハッと起きた時、地元に帰り着くまであと30分くらいの場所だった。

『すまん。一瞬寝てた』

『いいよ、いいよ。俺も眠くなりそうだから、適当に話していいか?』


 友人はポツリポツリと話し出した。

『俺さ、中学の時に、女が男に振られる修羅場? を見たんだよ。

 女は泣いてすがるんだが、男はそれを鬱陶しくあしらう。

 道端で何やってんだよ、正気かよって、俺は軽蔑した。


 そしたら女が泣き腫らした目で睨んできた。

 メンヘラ女に目ぇ付けられたくないから、逃げるように帰ったよ。


 次の日、同じ場所に人だかりができていた。

 野次馬の奥には、救急車やパトカーが停まっていた。

 野次馬によると、女が死んでいたらしい。


 昨日の女だって直感した。

 女は自ら腹を切って死んだらしい。

 あちこちに散らばる腸を見た人もいたって。


 知ってるか?

 切腹って即死するわけじゃないらしいぞ。

 しばらくは地獄の苦しみに悶え続けるんだ。

 女も動き回ったから、腸が散らばったんだろうな』


 俺は現場を想像して、眠気が覚めた。

 高校の時には一度もそんな話を聞いたことはなかった」
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