壺の中にはご馳走を

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忌み歌②

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「奈々もその気っぽくて、俺たちは街灯の明かりが少し届くか届かないかくらいの場所に行った。

 お互いイチャイチャして、いざっ!って時に

『オイ、助けてくれ!』

 って高橋の邪魔が入った。

 走って来たのか、息が上がって汗びっしょりだった。


『何だよ』

 睨む俺と恥ずかしがる奈々に目をくれないで、高橋は俺たちに来るように指示した。

 俺たちの場所とは違ったけど、そこも人気のない道の先にあるようだ。

(なーんだ、高橋も同じこと考えてんじゃん)

 ってその時は思った。


 狭い道の先にボロの小屋があって、

『愛理ちゃんは?』

 と俺が聞くと、小屋の中から愛理ちゃんが歌ってる。

 でもそれは聞いたことがない歌で

『地獄へ帝に会いに行け。天下の大泥棒に会いに行け』

 初めて聴くのに、言葉がはっきり伝わってきたんだ。


 気持ち悪いなと思っていたら、奈々が戸を開いて小屋に入った。

『ひっ!』

 奈々の引き攣った声で俺も中に入ると、愛理ちゃんがどこを見ているか分からない白目で突っ立っている。

 変な歌を歌いながら、まるで天井から糸で吊るされているような感じだった。


 高橋は

『急に立ち上がって歌い出したと思ったら、ずっとこうなんだよ。この歌何なんだよ……。どっかの民謡か? 愛理は何かに取り憑かれたんじゃないか?』

 泣きそうな声で俺たちを見た。


 俺もどうして良いか分からなかったけど

『とりあえず愛理ちゃんをコテージに連れて行こう。高橋、愛理ちゃん運べるか?』

 高橋が背負っている間も、ずっと歌っていた。


 コテージまでの道中、他の客からは酔っ払った女を介抱しているように見えていたのかもしれない。

 俺たちは必死だったけど。


 コテージに着くと、太田と香澄ちゃんが部屋の隅っこで固まっていた。

 2人がくっついてたのは、別に俺たちが良いところを邪魔したわけじゃない。

 2人はガタガタ震えていた。


 香澄ちゃんは

『さっきからコテージの周りで変な歌を歌っている人たちがいたの。高橋君たちのイタズラだと思ってたんだけど、段々声が違うことに気付いて……』

 って涙を浮かべながら、俺たちに説明した。


 愛理ちゃんはその間も歌ってたから、

『この歌?』

 と俺は聞いたが、

『ううん。そうじゃなくて――』

 香澄ちゃんが言いかけた時、外から歌が聞こえてきた。

『舌切り雀が空を飛ぶ。釜で茹でられ血に染まる』

 
 愛理ちゃんの歌う声がさらに大きくなった。

『地獄へ帝に会いに行け。天下の大泥棒に会いに行け』
 
 俺たちはパニックになるが、歌は繰り返される。


 何度か繰り返された後、愛理ちゃんの歌と外の歌が繋がった。

『地獄へ帝に会いに行け。舌切り雀が空を飛ぶ。
 天下の大泥棒に会いに行け。釜で茹でられ血に染まる』


 高橋が愛理ちゃんの肩を激しく揺らす。

『愛理、しっかりしろよ!!』

 愛理ちゃんはさっきと違う歌詞を歌った。

 どう言葉にして良いか分からないけど、とにかく別の歌詞だった。

 そして目を閉じ、嘘みたいに静かに眠った。

 外の歌が遠ざかっていくのが分かり、俺たちは恐怖の夜から解放された」
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