壺の中にはご馳走を

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仲直り②

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「今まで何もなかったかように和気あいあいとした夕食。

 義父は相変わらず寡黙でしたが、夫と久しぶりに交わす酒を美味しそうに飲んでいました。


 夫がお風呂へ行っている時、用意された部屋に義母が来ました。

『疲れたでしょう? 慣れない環境は気を遣うものねぇ』

 そう言いながら、皿にちょこんと乗ったチョコレートを差し出しました。

『これ好きかしら? ご近所さんからもらったチョコレートなんだけど、……何て言ったかしらねぇ。 どこか有名なブランドの高級チョコレートなんですって。私もさっき食べたけど美味しかったわ。男連中には内緒よ?』


『ありがとうございます』

 口に入れ噛むと、中からジュレのようなものが溶け出しました。

 高級チョコレートはプラリネやガナッシュのように、外側と内側で異なる味わいになったものが人気ですよね。

 このジュレもそれかなと、口の中でモゴモゴさせながら味わいました。


『ゆっくり休んでね』

 チョコレートを食べ終わったのを満足そうに見てから、義母は部屋から出ました。


 私もお風呂から上がって布団に入りながら、夫婦で義両親のことを話しました。

 かつてのように意地悪ではないこと。

 関係を改善するなら、介護なども考えていかなければならないこと。


 私たちはいつの間にか疲れて寝てしまいました。

 しばらくしてから、障子が開く音で目を覚ましました。


 私たちが寝ていた部屋は、ちょうど家の中央に位置しています。

 寝ていた私の左手にある襖を開ければリビング、枕元の襖と足元の襖はそれぞれ別の部屋へと繋がります。

 右手だけは引き戸の障子になっており、そこから廊下へ出られます。

 廊下はお風呂場やトイレへと続き、私たちの部屋からトイレへはすぐの距離です。

 普段は義両親が寝室として使っていると事前に聞いていました。


 夫が消灯したのでしょうか。

 寝る前は点いていた電気が消え、部屋は真っ暗。

 私は義父あるいは義母がトイレに起き、いつもの癖で間違って部屋に入ったのだと思いました。


 部屋を間違えてますよ、と伝えようとして気付きました。

 体を自由に動かせないのです。

 疲れが溜まって金縛りに遭うことがありましたが、意識ははっきりとしているのに目すら動かせないことは初めてでした。

 視界は天井を凝視した状態で、夫の寝息とミシミシと歩く誰かの足音に耳を澄ませました。

 段々と目が暗闇に慣れ、布団に近づくモノの姿を捉えました。


 それは義両親ではなく、天井に頭をぶつけそうになるくらい巨大な猿でした。

 目は赤く、生臭い息――。

 それが寝ている私たちを見下ろしていました。


 猿は私の方へ顔を近づけ、低く、くぐもった声で

『……イ……エ……デ……ス……カ……? ……イ……エ……デ……ス……カ……?』

 と言いました。


 得体の知れないモノの生臭いヨダレが顔にかかっても、私は全く動けず、それと見つめ合いました。

『……イ……エ……デ……ス……カ……? ……イ……エ……デ……ス……カ……?』

 口を開けないので、必死に心の中で

(家です。ここは家です。ですから許してください!)

 と叫びました。

 
 巨大な手が私の頭を包むと、グッと力を入れ始めました。

(助けてください。助けてください)

 ググッ、ググッ。

 これ以上押されれば、脳を握り潰され死んでしまうと思った時――」
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