壺の中にはご馳走を

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仲直り

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 茉美は普段は髪の毛を下ろしているが、今日は後頭部で一つにまとめている。

 サラサラと指通りの良さそうな金髪が、頭の動きに合わせて揺れる。

 結ぶと幼く見えるな、と思う真也。


 心の中を読んだように茉美は

「何だ?」

 と上目遣いをした。

 わざとらしく頭を揺らして、ポニーテールを見せつける。

 茉美はこの髪型を大層気に入っているようだ。


 扉が開き、中年女性が入った。

「田島美穂です」

 田島美穂は少し緊張した声で、自らに起こったことを話した。


「15年前に結婚した時、夫の親戚からはあまり良く思われていませんでした。

 夫は海外の名門校卒のエリート、私は小さな会社の事務職員。

 多大な教育費をつぎ込み優秀な経歴を持つ息子を、私のような平凡な女に取られたくなかったのだと思います。

 特に義母からは執拗な嫌がらせを受けていました。


 しかし、私たちは周囲に反対されても、一緒にいるだけで幸せでした。

 夫はいつも私の味方をし、嫁いびりが発覚すると絶縁宣言までしたくらいです。

 ちょうど夫の栄転が決まり引っ越したこともあって、義実家との関わりを持たずに、2人だけの平穏な生活が続きました。


 それが一変したのが、1週間前のこと。

 不仲どころか絶縁していたはずの義両親から夫の携帯電話に連絡が入ったのです。

 夫の友人経由で番号を知ったようでした。


 義母曰く

『申し訳ないことをした。直接謝りたいから顔を見せに来て欲しい』

 とのこと。


 夫は首を縦には振りませんでしたが、続けて

『一人っ子のお前には相続についても話す必要がある』

 と言われ、責任感の強い夫は深く悩みました。


 夫は一人で行くと言いましたが、私は妻として同行することを申し出ました。

 フフッ、例え嫌がらせを受けても、あの頃より私の神経も図太くなっていますしね。


 久しぶりに訪れた義実家は、あの頃と同じままでした。

 大きな平屋で裕福な暮らしぶりが見て分かるんです。

 どこか敷居が高く居心地悪そうな……。

 夫の生家とはいえ、とても気を遣う空間です。


 しかし驚いたことに、義両親は夫だけでなく私も手厚く出迎えたのです。

『久しぶりだねぇ。わざわざありがとう』

 義母は私も見て

『美穂さん、ごめんなさいねぇ。秀一がこんなに立派になったのは、美穂さんの支えがあってこそだよ』

 と人が変わったように柔らかい物言いで、手を握りました。


 歳をとると丸くなるものだと、少し警戒心が和らぎました。

『さぁ、入って。今日は泊まって行きなさいね』

 日帰りのつもりでしたが、夫に長時間運転をさせるのが申し訳なく、さらに義両親の態度が軟化していたことで1泊くらいなら……という気持ちになっていました」
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