壺の中にはご馳走を

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35歳まで生きられない

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 珍しく茉美は不機嫌である。

 はっきりとしない天気が、茉美の顔を一層どんよりさせている。

 実は最近、バラエティ番組では「すっとこどっこい庄吉」の飯田和吉が、怪談芸人としてプチブレイク中なのだ。


「飯田さん、元気そうですね~」

 短い時間だったとはいえ、関わりのあった人間がテレビで活躍するのを素直に応援したい真也。

 対して茉美は

「最近のテレビはつまらん。お笑いも落ちたもんだ」

 と不貞腐れている。


 扉が開き、

「茉美さん、顔っ、怖いですよ!」

 と小声で注意され、いつものミステリアスな茉美に戻った。


「堂本遼太と申します。よろしくお願いします。

 
 信じてもらえないかもしれませんが、僕は今日死ぬんです。

 変な話ですよね。

 こんな爽やかな晴天の日に、人生の終焉を見ている……。


 一族の男子は35を迎える前に死ぬ――。

 一族に伝わる言い伝えです。


 会ったことすらない祖父は、32歳で川に流されて死にました。

 生前趣味は屋内で行うものばかりで、水難事故とは程遠い人だったそうです。

 その日だけ家族に

『川を見に行ってくる』

 と言ったのだとか。


 叔父は5歳の時に、アパートから転落死しました。

 アパートには転落防止の柵がありましたが、何者かによって捻じ曲げられ、小さな子供なら通れるだけの隙間ができていたそうです。


 父も既に他界しています。

 どんな風に命を落としたのか、母は言いたがりません。

 分かっているのは僕が1歳の時、24で死んだということだけです。


 親戚の集まりで年寄り連中が、あまりに惨たらしい最期だったと話していたのを小耳に挟みました。

 母にとって忘れたい悲惨な出来事だったのでしょう。

 僕は母を傷つけたくはありませんから、父の死を詮索することはできません。

 ひとつ分かっていることは、一族の男子は35歳を迎える前に、非業の死を遂げているのです。


 親戚の集まりでは、男は丁重に扱われます。

 長くない命を哀れんでのことです。


 僕が20歳になった時、祖母が話をしてくれました。

『お前はもう20歳になったのか。そうかい。婆ちゃんより長生きするんだよ』

『でも男は早死にするらしいじゃん』
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