壺の中にはご馳走を

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もの言う花③

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 憑き物が取れた南川莉歩は、颯爽と店を出た。


 真也は第一印象とは異なる美しさを感じ取っていた。

「とてもかっこいい人でしたね……!」


「莉歩は霊力の高さから、鍾乳洞の主、濁女じょくめを見たのだろう。

 濁女という妖怪は、元は人間の女だった。特別な力など持たぬ普通の女さ。

 ただその美しさは評判で、将来は権力者に娶られるものだと誰もが考えていた。父親は豪族の仲間入りを目論み、娘を利用した。娘は当時の女性観に疑問を持たず、父親の道具としての役割を受け入れた。

 しかしまつりごとは、女1人の美貌で支配できるものではない。いくら町一番の美人だからといって、庶民の生まれを正妻に据える者はいなかった。

 娘はある豪族の妾となった。父親の期待を少々裏切る形ではあったものの、父親の野心は潰えていなかった。

 豪族には娘しかおらず、跡継ぎを望んでいた。娘が跡継ぎさえ産めば、一気に権力を集中させることができる。

 だが、それも儚く散った。娘が最初に身ごもったのは女、次も女。ようやく男が生まれたが、虚弱体質で1歳を迎える前に死んでしまった。

 父親は諦めていなかったが、娘は知っていた。もう容姿は衰え、跡継ぎも産めなかった自分を気にかける者などいないことを。豪族は娘の後にも何人もの妾を作り、その者たちはずっと若く美しく見えた。

 寵愛が薄れていることを知った父親は、娘に生薬を煎じて飲ませた。様々な生薬を混ぜ合わせて作られた高級品で、若さを取り戻せると信じられていた。

 娘がそれをゴクリと飲むと、顔や喉を掻きむしり、のたうち回りながら死んだ。生薬は毒薬と取り替えられていたのさ。取り替えたのは、以前娘に好意を抱くも、富や地位を持たないために父親から足蹴にされた男だった。

 娘の無念や嫉妬は死後も成仏することはなく、妖怪となって美に執着する女をそそのかしている。


 莉歩があのまま祓いを受けなければ、3ヶ月以内に顔が急速に老化し最後には溶けて骨だけになっただろう。すれ違った女たちは、美しさの本質を見失い、自らに迫る悪夢に気付けなかったのさ。

 水には何の効力もない。エメラルドグリーンなどと言っていたが、ただの湧水だ。全ては濁女が見せる幻影に過ぎない。お前が莉歩に鼻の下を伸ばしたのは、自信に満ち溢れた女の色香に誘われたからだ。たかが水で人間が老いから逃れることはできない。

 何でそんなことをするのか? 面白いからねぇ。女たちが美のためにわざわざ洞窟の奥まで足を運び、湧水で顔を洗い、美しくなったと喜ぶ。そして信じがたいほどの老化に恐怖し、皺すら数えられぬ骨として朽ちていくのが、滑稽で堪らないんだよ。

 きっと自分と重ねているんだろうねぇ」

 茉美は、皺ひとつ作らず笑った。
 

 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。
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