壺の中にはご馳走を

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エピソードトーク②

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「夢の中で、僕の様子がおかしいんですよ。

 最初はどっかの祭りで、ビール買ってかき氷食べて。

 遠くで彼女かなぁ、誰かを見つけて駆け寄るんですけど、そこには誰もいない。

 振り返った僕が怪訝そうな顔をしてるんです。


 次は自宅におって、僕は台所で料理してる。

 数日前にペペロンチーノを作った影響か、パスタを作ってるんです。

 出来上がったパスタを持ってリビングへ向かおうと体を左に向けた時、皿を

 ガシャーンッッ!!

 落としてしまって。

 びっくりしたんは僕の方で、なんと夢の中の僕は顔面蒼白!

 皿落としたくらいで、そんな顔します?


 また別の日の夢では僕は後輩と飲みに行ってる。

 ちょっとトイレ行ってくるわーって個室から出た途端に、腰抜かしよる。


 それでね、僕気づいたんですよ。

 何で自分の夢なのに第三者視点で見てんやろって。

 そら、そないな夢を見る人もいますよ?

 でも僕は今まで一人称視点でしか見たことないし、何か夢の中で自分の顔がエライ引き攣ってるんですよ。

 夢の中の僕は、それを見てる現実の僕の方を向いてるんですよ。

 
 今こうやって話してる、この僕を見て恐怖してたってことでしょ?

 で、僕も夢の中で僕をストーキングしてるんですよ。


 しかもね、視点は段々と夢の中の僕に近づいてて。

 現実の僕は、夢の中では化け物になってんちゃうんかって――。


 ……まあ、考えすぎっちゅうこともあるやろし、上手いこと脚色してネタの1つにでもさせてもらいますわ。

 その時まで生きてたらの話ですけどねッ」


 飯田和吉は漫才が終わった時のようなお辞儀をして店を出た。

「真也、お前は夢を見るか?」

 真也はコクりと頷いた。

「なら、お前も他人事じゃない」


「ほとんどの人間にとって、夢は安らぎを得ながら、非日常の世界に触れる刹那でしかない。ノスタルジックな校舎も、死に別れた親との再会も、夢から覚めてしまえば終わりだ。人間が見ることのできる夢は、まさに儚いものさ。

 しかし、夢と霊界・異界は深いつながりがある。夢を喰らう妖怪もいれば、夢から未来を予測する人間もいる。彼らは他とは違う特別な力を持っている。彼らにとっての夢は、凡人とは違う意味を持つだろう。

 では飯田が見た夢はどちら側の夢か。アタシは後者だと思うねぇ。飯田は『夢の中の僕』と言っていたが、本当にそうだろうか。側の世界の飯田は、自分と瓜二つの人間、つまりドッペルゲンガーを見たと怯えていたんじゃないか?

 飯田が特別な力に目覚めたきっかけは分からないが、祓いを受けに来たのは正解だ。ただのつまらない芸人だとしても、あちら側では祓うべき対象になってしまう。立場を変えれば見方が大きく変わるからな。ここに来る前に、あちら側の飯田が強力な祓いを受けていれば、飯田は存在していなかった可能性がある。

 こちら側の飯田とあちら側の飯田が、同じ物を恐れ適切な祓いを受ければ、均衡が保たれる。どちらの世界の飯田も、生存していくことに矛盾は生じない。

 自分が存在する世界だけしか認めなければ、この世はシンプルだ。だが、そうじゃないからこの世は面白い」

 茉美は最後に付け加えた。

「だが、飯田はダメだな」

「何か問題でも? 向こうの飯田さんに負けちゃうんですか?」

「あいつの間抜けな声と話し方は、ホラーに向いていない。話もつまらないし、芸人で一花咲かせるはもう見ない方がいい」


 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。
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