壺の中にはご馳走を

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免許更新③

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「通された部屋は近所のコインランドリーくらいの広さで、そこにも受付がいました。

 受付のおばさんは、異常に大きな長方形の頭をしていました。

 標準体型の体に、畳1枚を載せている感じです。

 髪の毛はピンク色の天然パーマでした。


『じゃあ、好きなのを選んでね』

 差し出された紙には、3つの選択肢が書かれていました。


『トゲに挟まれる』
『グッとくる話をしても、後ろの水が貯まる』
『ハリネズミを背中に入れられる』


 部屋の奥を見ると、既に1人椅子に座っています。

 彼女は『トゲに挟まれる』を選んだようで、椅子の両サイドには床から生えたバラの茎がグニャグニャと伸びていました。

 後方には大きなタンクがあります。

 水を貯める場所なのでしょう。


 トゲは既に選ばれているし、ハリネズミは痛そう。
 
 グッとくる話さえすれば何とかなるのかな……、とそれが一番マシに思えました。

 選ぼうとすると、ふと嫌な考えが頭に浮かびました。

(さっきのブロックをやっておけば良かった)


 迷っている私におばさんが

『大丈夫だよ。本当に苦しかったらあの人が助けてくれるから。手を挙げてね』

 あの人とは、このやり取りを遠くで監視しているウィリアム・スミスのことです。


 その瞬間、全身に悪寒が走りました。

(この人たちは絶対に助けてくれない! 私は水責めに遭って死ぬ! この人たちは免許更新とは何も関係ないゲームを楽しんでいる!)


 私は全速力で走りました。

 細い通路はいくつも曲がり角があって、走るスピードが遅くなりますし、迷路のように方向感覚が失われます。

 しかし幸運なことに私は追いかけるウィリアム・スミスを振り切って、最初の受付までたどり着いたのです。

 受付には誰もおらず、そのまま階段を駆け下りました。


 後ろから

「待てーー!!」

 と聞こえ、振り返るとヤヌシュが追いかけていました。


 ヤヌシュはハンプティダンプティのように真ん丸な胴体に、頼りなく細い足がついていました。

 ヨタヨタと追いかけるヤヌシュを振り切り、私は気付くと自宅の庭先に立っていました。


 母親に起こったこと全てを話しましたが、全然信じてくれませんでした。

 ついには病院に連れて行かれ、私は統合失調症と診断されました。


 お二人も私の頭がおかしくなったと思いますか?

 せっちゃんなんて友人は存在しないと?

 私は撃たれたせっちゃんがどうなったか心配でしょうがないんです」


 海部夏希が帰り、茉美が問いかけた。

「お前は母親や医者の言うことを信じるか?」

 真也はうーん、と唸るだけだった。


 以前までの真也なら統合失調症で片付けただろう。

 しかし何度も人ならざる物が引き起こす出来事を耳にしたことで、現実と虚像を見分けられなくなっていた。


「人間は訳のわからぬ事象にも原因を見出したがり、名前を付けるものだ。昔の人間は神や鬼のせいにして、今の人間は科学や医学で解明しようとする。お前は今の時代を生きているのだから、に傾倒するのは良くない」

 こちら側――。

 茉美と真也を線引きするものとは一体?


 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。
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