壺の中にはご馳走を

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呪いの代償②

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「青白い顔をした少女は山内町長にこう述べた。

『人を呪ってやろうか』

 町長は数人の有力者と話し合い、夢見町の抹消を企てた。


『お願いするよ。ところで君はどこの家の子かい?』

 町長が話しかけた時、少女は既に消えていた。


 それからは風で綿毛が飛ぶように、人間たちの命は軽くなった。

 転んで死ぬ、くしゃみをして死ぬ、麦を食べただけでも死ぬ。

 日常生活を送るだけで、いつも死の恐怖と隣り合わせだった。


 それは夢見町だけでない。

 山内町でも不可解な死が続いたのだ。

 少女の呪いだと気付いた山内町長たちは、町で一番の坊主に相談した。


 坊主は多くの人間から信頼される人格者だった。

 道端で遺体の押し付け合いをしていた時、埋葬することを何度も進言したのも彼だ。


 坊主は事情を聞くと、その少女は正月に毒で死んだ娘だと言った。

 町長たちは遺体と突然現れた少女の顔が同じであることに気付けなかったのだ。

 無念の死を遂げ正しく葬られることのなかった少女の霊は、2つの町を呪った。


『一家は私が既にここで供養している。だが呪いを止めるには、呪いに使った道具も祓わなければならない』

 山内町総出で呪いの道具を探したが、見つからない。

 夢見町にあると考えて強盗に入った者もいた。

 どこを探しても見つからず、少女の霊すら現れることがなかった。


 その後も2町に呪いは降りかかり、生き残ったのは坊主だけだった。

 それもずっと昔の話だから、坊主すら生き残っていない」


 古藤千代は、ビー玉に目を落とした。

「町長たちが躍起になって探していたのは、これだよ。私がずっとずっと持ってた。呪いたい相手を見つめながら、これをギュッと握るとね、その人の心臓を握り潰せるんだよ。赤いビー玉は家族の血、青いビー玉は酒に入れられた毒、黄色いビー玉には豚の目が入ってる」

 黄色いビー玉の中で目玉がぎょろりと茉美を見た。

「皆を殺したのは私なんだよ。憎い相手を呪うことばかり考え、醜い感情ばかりをぶつけた彼らが恨めしかった」

 
 古藤千代の頬を涙が伝う。

 同時に体が半透明になり、皺くちゃの老婆から子供の姿へと変わった。

「うわああああ、うわああああああん」

 泣きじゃくる子供の悲痛な叫び声は、体が透明になるにつれ遠くなっていく。

 完全に消えた時、机の上のビー玉がキラリと光った。


 真也は涙を浮かべていた。

 その一方で、茉美はいつもと変わらない。


「呪いには代償が伴う。少女だった千代を老婆に変えたのは、多くの命を奪いすぎたからだ。祓われると知って話したのは、呪う相手がいなくなったか、家族を呪いの道具にしたのは町人ではなく自らであると気づいたか……。壺が呪いを喰らったから、これはもうただのビー玉だ。コレクションに加えよう」 

「千代ちゃん、家族に会えるといいですね」

 涙を拭いながら笑顔で言った真也に対し、茉美はオブラートに包まず言い捨てた。

「人の道を外れた者は地獄行きだ。あどけない少女も、人を殺めれば畜生にも劣る」

 茉美は店内を歩き回り、フランス人形と黒電話の間にビー玉を飾った。

 
 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。
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