壺の中にはご馳走を

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おばあちゃん家

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 真也は再び大学に通い始め、ボサボサに伸びていた髪の毛を整えた。

 この調子なら単位を落とさずに済みそうだ。

 手始めの短期バイトで、しばらく小遣いにも困らない。

 量産型男子大学生として、充実した夏を送っている。

 
 ただ普通の男子学生と異なるのは、科学では説明できない壺を抱えた店「ティサ」で無給で働いているということだ。

 無給で働かせるのは労働基準法に抵触している。

 が、客にお茶を出すという簡単な仕事内容に、何より茉美により命を助けられたという恩がある。

 茉美はやけに古風なところがあり、経験豊かな雰囲気が溢れ出ている。

 人々は今日も彼女に祓って欲しい邪悪を連れてティサを訪れる。

 
 真也は笑顔で、デパ地下で購入した紅茶とマドレーヌを出した。

「どうぞ~」

「ありがとうございます」

 清楚な若い女性だ。


 紅茶を一口飲んで、女性が切り出した。

「佐藤奈緒と申します。ここの方がお祓いをしてくれると聞いて……。」

 実際に祓っているのは茉美ではなく壺だが。

「話しを聞かせてくれるだけで良い。必ず恐怖から解放される」

 茉美は壺をテーブルの真ん中に置いた。


「私が小さい時の話です。

 私は両親が共働きで家にいなかったので、おばあちゃんの家で過ごすことがありました。

 おばあちゃんは私のことをよく可愛がってくれて、料理や裁縫を習いました。


 おばあちゃんが大好きでした。

 でもおばあちゃん家では時々怖いことが起こりました。


 仏壇に飾られたおじいちゃんの写真が倒れたり、屋根裏からゴンゴンと音がしたり……。

 お昼寝中に金縛りに遭ったことも数え切れません。

 それはいつもおばあちゃんが私の傍を離れた時に起こります。


 ある日おばあちゃんに聞いたのです。

『この家にはオバケがいるの?』

 おばあちゃんは頭を撫でてくれました。

『オバケなんて怖いものはいないよ。奈緒ちゃんを守ってくれる神様がいるんだよ』


 神様を信じてなどいませんが、幼い私はそれで満足しました。

 それからは変な音がしても、神様がやっていることだと思い込むようにしたのです。


 やっぱり神様がじゃなかったと知ったのは、小学3年生のことでした。

 私は同級生から風邪をもらってしまい、熱で寝込んでいました。

 おばあちゃんは自分が看病するからと、両親を仕事に行かせました。


 おばあちゃんのお粥を食べて薬を飲み眠っていると、また屋根裏から音がします。

 でも熱に浮かされていたので、音はそこまで気になりませんでした。

 そのまま眠って目が覚めた時、私は大きなふすまの前に立っていました」
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