雑文エッセイ

23、日照権

都市の高層化 不燃化はもう時代の必然で、日当たりが悪くなるからといってマンション建築に反対するのは、少数の家もち階層のわがままだ、ぜいたくだという論がある。 建築業者がいうのならわかるが、このぜいたく論は、あんがい世間に支持者があるらしい。
ひとつは、便利なところに庭のある家を持つ望みは遠すぎるし、せめてマンションがどんどん建って安くなればと願う人が多いからだろう。 もっともだとは思うけれど、日照権というのが、ただ縁側でネコと一緒にひなたぼっこする権利だけだ、と考えてはいけない。
冬、日当たりの良い部屋と日の当たらない部屋とでは五度から六度違う。 家全体が日陰にはいれば、東京から仙台に引っ越したのと同じくらい寒くなる。 夏は夏で通風が悪くて暑い。悪臭がこもる。 湿気で家中カビがはえる。若い人でもからだをこわす。 家がいたむ。 庭の花は開かず、木も育たない。
奪われるのは太陽と風と自然だけにとどまらない。いつも隣の無数の窓から見おろされているという心理的圧迫感がある。窓をしめて暮らすようになり、いらいらし、安らぎを失う。 日陰暮らしというが、実感は縁の下暮らしのようですと体験者がいうのを聞いたことがある。
それでもなお、ぜいたくだとアパート暮らしになれた人ならいうかも知れない。しかし、もともと一戸建ての日本家屋は開放的である点を思うべきだろう。それに、中層マンションの住民が南隣に新しく建つ高層マンションと日照権争いをしている例がある。湿気の多い日本で、人々が直射日光を渇望するのは同じことなのだ。人それぞれ立場と環境で論も感情も違い、すばっと割り切れないのが日照権問題の特徴だといえる。
だからますます、 一方的なぜいたく論で他人の暮らしを破壊してははならないと考える。