雑文エッセイ

20、タサデー

フィリビン群島ミンダナオの密林で、石器時代そのままの生活をしている部族、名を「タサデー」がいた。
「タサデー」族の人々は、米やトウモロコシを知らない。 作物を耕作したことがないのだ。土器、砂糖、塩を知らず、タバコも吸わない。 野生の芋や動物の肉を石の刃で切りさき、火にあぶって竹の容器で食べていた。五百年か、もしかすると二千年以上も他の世界から隔絶されていたらしいという。
おなじ少数部族のニュースでは、アフリカ東部ウガンダ共和国に住む「カラモジャ」族が大騒ぎしている話がある。もともと裸族で一年じゅう裸で暮らしてきたのに、最近、近代化政策をとる中央政府が彼らにズボンをはかせようとしたことから混乱が起こった。
「カラモジャ」族の一部の文化人はズボンをはき始めた。ところが裸の伝統派は承知しない。裏切り者の家の家畜を殺したり、みせしめにズボン党をつかまえては無理やり自分のズボンを食べさせて、中央政府に抵抗していたそうだ。
このような世界を、ふつう未開社会という。しかし「カラモジャ」族にズボンをはかせるような、そういう近代化に一体どんな意味があるのだろう。また砂糖もタバコも知らぬ「タサデー」族に比べて、一方の文明社会がどれほど住みごこちの点ですぐれているか。 未開と文明とをはかる物差しは果たして絶対だろうか。