6 / 127
アツモリ、見知らぬ世界に立つ
第6話 「冒険者だろ?経験値も知らないのかあ?」 「だーかーら、経験値って何?まさかとは思うけど・・・」
しおりを挟む
「ちょ、ちょっと待ってくれ!これって何だあ?・・・」
「これがお宝?俺から見たらゴミの山だぞ!」
「こんな物の為に500年もの間に数千人の人々が命を落としていたなんて、私は信じたくありません・・・」
鉄人形が守っていた部屋の扉を開けた途端、エミーナは絶句したし、敦盛もルシーダも絶句した。
敦盛の感覚からしたら、剣道場くらいの大きさの部屋の床には、壁の棚だけでなく床一面に壊れた道具や武器、木箱や布袋が散乱していて、足の踏み場も無いほどだった。誰もが金銀財宝があると思っていたから落胆の表情を隠せなかった。
だが・・・
エミーナはその時、何かに気付いた!
「も、もしかして!」
そう言うとエミーナは右手に持った杖を掲げた。
そのまま古代語の詠唱を始めたが、それを聞いていた敦盛はエミーナが何を言ってるのかサッパリ分からず、隣にいたルシーダに「あいつは何をやってるんだ?」と聞いたくらいだ。
「・・・私だってエミーナが何を唱えているのか全然分かりませんよ」
「マジ!?」
「そうです。でも、どの呪文を唱えるにしても1つの1つの古代語魔法は全て別の言葉を使います。同じ物が無いから、魔術師は相当な知力と古代語を正確に発音できる語学力が無いと無理です。私のように神に祈りを捧げるだけで使える神聖魔法とは、根本的に違ってます」
「そうなんだ・・・」
敦盛は落胆したけど、逆に自分が全く別の世界に来てしまったというのを痛感せざるを得ず、「はーー」と短くため息をついて肩を落とした。それをルシーダは「まあまあ」と言って慰めていた。
【・・・永遠の魔力を与えられし物よ、我が言葉に従い自らの存在を示せ!】
エミーナの呪文は完成し、その途端、ガラクタの山の一部が青白く光った。
「やっぱりそうだ!」
そう言ってエミーナは歓喜の表情になって大声を上げたけど、敦盛とルシーダはエミーナがなぜ歓喜しているのか全然分からなかった。
「・・・この別荘は魔法工房だったんだ!」
「「魔法工房?」」
「そう、魔法工房。付与魔法と呼ばれる古代語魔法の系統の1つだけど、簡単に言えば剣や槍、盾や鎧と言った武器や防具だけでなく、指輪や腕輪などを魔法のアイテムに変える場所だったんだ!誰もがそうだけど、自分の作った新発明を自分の留守中に盗まれたら困るだろ?だから盗まれないように、色々な仕掛けを作ってあったんだよ!」
そう言うとエミーナは歩き出し、青白く光る物だけを取り出して、それを部屋の片隅にあったテーブルの上に並べて行った。もちろん、ルシーダも手伝ったが・・・敦盛はやりたくても出来なかった!なぜならば・・・
「おーい、エミーナ。何でもいいから履く物がないか?」
「はあ!?アツモリは何を言いたんだ?」
「だーかーら、俺は自宅にいる時にこの世界に強制的に連れてこられたんだぞ!裸足なんだから、こんな中を歩かせるのは勘弁してくれ!」
そう言ってアツモリは自分の右足を前に突き出して「これを見ろ!」と言わんばかりにエミーナに文句を言った。それを見たエミーナもルシーダも目が点になっている。
「うっそー、アツモリの世界には靴が無いのかよ!」
「だーかーら、靴が無いのではなくて、家の中では靴を脱ぐのが俺の世界、いや、俺の住んでいた国では常識なんだよ。丁度靴を脱いで裸足でいた時に誰かさんが無理矢理俺をこの世界に引っ張ってきたから靴を履いてないんだよ!」
「あー、スマンスマン。魔法が付与されてる、されてないに関わらず、使える靴があるか探してみる」
「頼むぞ!最悪、サンダルでもスリッパでもいいから早くしてくれ!俺は他の連中が来ないか外を見てるから、とにかく早くお宝を集めてくれ!」
「りょーかい」
敦盛はそう言ってエミーナたちに背中を向けたけど・・・室内ではエミーナとルシーダが「うわっ、これってもしかして・・・」「こ、これは伝説の・・・」などと大騒ぎしている。どうやら相当な収穫があったようだ。
結局・・・敦盛が心配していた他のパーティは誰も来なかった。
「・・・おーいアツモリ、終わったよー」
エミーナに声を掛けられたから敦盛は後ろを振り向いたけど、そこにはニコニコ顔で巾着のような物を持ったエミーナと、同じくニコニコ顔で靴を持ったルシーダがいた。
「あれっ?お宝は?」
敦盛は素朴な疑問を言った。なぜなら、先ほどまでエミーナとルシーダの歓喜の声が騒々しいほどに響いてたから、かなりの収穫があった筈なのに、それらしい物を持ってないのだ。
「いやー、ボクも最初は『これをどうやって持ち帰ればいいんだ?』って真面目に心配してたけど、伝説の魔法道具『魔法の巾着袋』があったんだよ!」
「はあ?何だあ、その『魔法の巾着袋』とは?」
「信じられない位の量の物を詰め込む事が出来る袋の事だよ!今の時代では作れない、失われた魔法遺産の1つで、これは魔法王国時代の終盤に量産されていた物より型が古いから間違いなく初期型だけど、これを普通にギルドや古道具屋で買うには庶民が5年くらい飲まず食わずで働かないと無理だぞ!」
「マジ!?それって、もしかして『ネコえもん』の五次元ポケットの事?」
「ネコえもん?ごじげんポケット?何だそれは?」
「あー、スマンスマン、これも俺の世界にある空想上の道具の名前だけど、信じられないくらいに道具を入れられるポケットなんだけど、当たり前だけど実在しないやつだ。でも、そんな道具を手に入れたという事は、それだけでも超掘り出し物じゃあないか!」
「うん!他にも結構な数の魔晶石も手に入った。魔王が出現してからは魔晶石の値段が急騰してるから、魔王出現の前だったら借金が返せる程の金額にならなかっただろうけど、恐らく魔晶石だけで借金が返せるよ」
「ほおー、ある意味、魔王様に感謝だな」
「その1点に関しては魔王ウーノに感謝してもいいけど、それ以外の事に感謝する気はないと言っておくよ」
「ま、そりゃあそうだ」
「それ以外にも長剣や短剣のような武器も盾もあったし、指輪や腕輪もゴロゴロ出てきたんだよ。これでボクもルシーダも借金を返せるし、新しい装備を揃える事が出来る!」
エミーナはニコニコ顔で敦盛に話しながら『魔法の巾着袋』を腰に当てたけど、その途端に『魔法の巾着袋』が勝手にエミーナの腰ベルトに自分の紐を結び付けてぶら下がったから、敦盛は「嘘だろ!」と目を丸くしたほどだ。
「アツモリ、これを履いてみて!」
ルシーダはニコニコ顔でそう言って靴をアツモリの目の高さにまで上げたけど、その靴は明らかに敦盛の足のサイズより小さい!
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺には小さすぎるぞー」
敦盛は極々普通の感想を言ったけど、ルシーダはニコニコ顔だ。
「大丈夫大丈夫!この靴は使い手の体に合わせてサイズが勝手に変わるから、絶対にアツモリでも履けるよ」
そう言うとルシーダは敦盛の前にその小さな靴を置いたけど、敦盛は「本当に大丈夫かよ!?」と呟いてしまったほどだ。
「まあ、騙されたと思って『幸せの靴』を履いてみてよ」
そう言ってルシーダは「ささっ、どうぞ」と言って右手を差し出しながら敦盛を促している。
最初、敦盛は「勘弁してくれよなあ」とボヤいてたけど、突然、『ハッ!』という表情に変わった!
「お、おいルシーダ!もしかして『幸せの靴』の事かあ?」
「えっ?」
「だーかーら、この靴は『幸せの靴』なのか?」
「えーと、たしかにアツモリの言う通りで、『幸せの靴』を『幸せの靴』と呼ぶ事もあるけど、それがどうかしたの?」
「うっそー、ドナクエⅢの幻のアイテム『幸せの靴』が本当に履けるとは、これで俺は歩くだけでレベルアップだあ!」
そう言うと敦盛は喜び勇んで『幸せの靴』を履いてニコニコ顔だ。でも、エミーナもルシーダも首を傾げている。
「いやー、俺もゲームブックの挿絵しか見た事が無かったからなあ。あの本では、先端がくるっと丸まった可愛らしいデザインだったし、金色で優雅な装飾が施されていて、履き心地も文句なしに良く、踵に着けられた鈴が歩くたびに鳴って、なんとも幸せな気分にしてくれると書いてあったけど、本物は大違いだよなあ。まさに俺の為に作られたようなカッコいい靴で、俺、一目惚れしたぜ!」
敦盛はニコニコ顔でホールの中をグルグルと走り回って絶叫しているから、エミーナもルシーダも互いの顔を見合わせながら首を傾げているくらいだ。
でもその時、エミーナが『ハッ!』という表情をした。
「おいアツモリ!まさかとは思うけど、君のいた世界にある『幸せの靴』とは・・・」
「おー、そのまさかだ!ゲーム『DKQⅢ』で『きまぐれメタル』が持ってる超レアアイテムだ!何しろ、これを履いて歩くだけで経験値が増えてレベルアップし放題の、まさに幸せ一杯になれるアイテムなのだあ!」
敦盛は走りながら右手をグーにして突き上げて絶叫してるけど、それを見たエミーナとルシーダは顔を見わせて「はーー」とため息をついた。
「あ、あのさあアツモリ・・・」
「ん?エミーナ、何か言いたいのか?」
敦盛はニコニコ顔でエミーナの方を向いたけど、そのエミーナはもう1回「はーー」とため息をついた。
「だいたいさあ、その経験値って何だあ?レベルアップって何だあ?」
「はあ!?エミーナもルシーダも冒険者だろ?経験値も知らないのかあ?」
「だーかーら、経験値って何?まさかとは思うけど、ギルドや商人からの依頼をしたりとか、魔王をやっつけたりしたら技能や知識がどんどん向上するとか言い出さないよねえ」
「あれっ?違うの?」
「当たり前だあ!そんな便利なシステムがあるなら誰も苦労しない!冒険者クラスだって、ある一定以上の実績を上げたのをギルドが認めない限りランクアップしないし、だいたい、技能や知識レベルを何らかの形で数値化できるなら、ボクだって純粋な古代語魔法の実力だけなら、今より1つ上の『青銅』いや、2段階上の『銀』クラスに認定されても全然おかしくないけど、実際には一番下の『紙』クラスなんだからさあ」
「マジ!?」
「結局、アツモリの『この世界の常識』とやらは、さっき言ってた『あにめ』だか『げえむ』だか知らないけど、いわゆる空想上の物の設定を、この世界の常識だと勘違いしてないか?」
「・・・・・」
敦盛はエミーナの鋭い指摘に足を止めざるを得なかった・・・いや、それっきり何も言えなくなった。エミーナに一番痛いところを突かれて沈黙せざるを得なかったのだ・・・
「・・・この『幸せの靴』は、普段の2、3倍以上も高く跳ね上がる事が出来るんだよ。だから結婚式で新郎新婦が互いに相手に履かせる靴として定番なのさ」
「えーっ!俺、結婚どころか、この世界から自分の世界に戻れるかどうかも分からないんだぞ!」
「まあまあ、もし戻れないと分かったら、ボクが責任を取ってその靴を履いてやるよ」
「「へっ?」」
いきなりのエミーナの発言に敦盛もルシーダも固まった・・・
最初、エミーナは何故二人が固まっているのか全然分かってなかったが・・・その意味を理解した!
「ちょ、ちょーっと待ってくれ!冗談に決まってる!冗談だよ」
エミーナは顔を真っ赤にして慌てて弁解したけど、その額からは汗が出ていて、明らかにアセアセだ!
「・・・ったくー、まさかとは思うけど『終末の聖騎士』様を自分一人の願望の為に使うのかと本気で思っちゃったわよー」
「わりーわりー、調子に乗っちゃいましたあ!」
「だいたい、エミーナのように自分の部屋もロクに片付けられない人に『終末の聖騎士』様を任せられません!私の方が相応しいです!」
「「へっ?」」
今度は敦盛とエミーナがその発言に固まった・・・
ルシーダが顔を真っ赤にしながら「冗談にしては言い過ぎました!すみませんでした!!」と平謝りしたのは言うまでもなかった。
「・・・ま、まあ、話を元に戻すけど、魔晶石を売った金でボクとルシーダの借金を返しても、それ以外にも剣や魔法道具が幾つかあるから、それを売った金でアツモリの服や靴も買ってあげるよ。ボクだって、今でも魔術師学校の制服を着ているのはお金が無かったからだからね」
「私もよ。さすがに修道院の制服を着ている冒険者は私だけだからね」
「はーーー・・・靴の正体が分かって逆に悲しくなってきたけど、無いよりマシかあ」
「「アツモリー、元気だしてよー」」
「はあああーーー・・・」
「これがお宝?俺から見たらゴミの山だぞ!」
「こんな物の為に500年もの間に数千人の人々が命を落としていたなんて、私は信じたくありません・・・」
鉄人形が守っていた部屋の扉を開けた途端、エミーナは絶句したし、敦盛もルシーダも絶句した。
敦盛の感覚からしたら、剣道場くらいの大きさの部屋の床には、壁の棚だけでなく床一面に壊れた道具や武器、木箱や布袋が散乱していて、足の踏み場も無いほどだった。誰もが金銀財宝があると思っていたから落胆の表情を隠せなかった。
だが・・・
エミーナはその時、何かに気付いた!
「も、もしかして!」
そう言うとエミーナは右手に持った杖を掲げた。
そのまま古代語の詠唱を始めたが、それを聞いていた敦盛はエミーナが何を言ってるのかサッパリ分からず、隣にいたルシーダに「あいつは何をやってるんだ?」と聞いたくらいだ。
「・・・私だってエミーナが何を唱えているのか全然分かりませんよ」
「マジ!?」
「そうです。でも、どの呪文を唱えるにしても1つの1つの古代語魔法は全て別の言葉を使います。同じ物が無いから、魔術師は相当な知力と古代語を正確に発音できる語学力が無いと無理です。私のように神に祈りを捧げるだけで使える神聖魔法とは、根本的に違ってます」
「そうなんだ・・・」
敦盛は落胆したけど、逆に自分が全く別の世界に来てしまったというのを痛感せざるを得ず、「はーー」と短くため息をついて肩を落とした。それをルシーダは「まあまあ」と言って慰めていた。
【・・・永遠の魔力を与えられし物よ、我が言葉に従い自らの存在を示せ!】
エミーナの呪文は完成し、その途端、ガラクタの山の一部が青白く光った。
「やっぱりそうだ!」
そう言ってエミーナは歓喜の表情になって大声を上げたけど、敦盛とルシーダはエミーナがなぜ歓喜しているのか全然分からなかった。
「・・・この別荘は魔法工房だったんだ!」
「「魔法工房?」」
「そう、魔法工房。付与魔法と呼ばれる古代語魔法の系統の1つだけど、簡単に言えば剣や槍、盾や鎧と言った武器や防具だけでなく、指輪や腕輪などを魔法のアイテムに変える場所だったんだ!誰もがそうだけど、自分の作った新発明を自分の留守中に盗まれたら困るだろ?だから盗まれないように、色々な仕掛けを作ってあったんだよ!」
そう言うとエミーナは歩き出し、青白く光る物だけを取り出して、それを部屋の片隅にあったテーブルの上に並べて行った。もちろん、ルシーダも手伝ったが・・・敦盛はやりたくても出来なかった!なぜならば・・・
「おーい、エミーナ。何でもいいから履く物がないか?」
「はあ!?アツモリは何を言いたんだ?」
「だーかーら、俺は自宅にいる時にこの世界に強制的に連れてこられたんだぞ!裸足なんだから、こんな中を歩かせるのは勘弁してくれ!」
そう言ってアツモリは自分の右足を前に突き出して「これを見ろ!」と言わんばかりにエミーナに文句を言った。それを見たエミーナもルシーダも目が点になっている。
「うっそー、アツモリの世界には靴が無いのかよ!」
「だーかーら、靴が無いのではなくて、家の中では靴を脱ぐのが俺の世界、いや、俺の住んでいた国では常識なんだよ。丁度靴を脱いで裸足でいた時に誰かさんが無理矢理俺をこの世界に引っ張ってきたから靴を履いてないんだよ!」
「あー、スマンスマン。魔法が付与されてる、されてないに関わらず、使える靴があるか探してみる」
「頼むぞ!最悪、サンダルでもスリッパでもいいから早くしてくれ!俺は他の連中が来ないか外を見てるから、とにかく早くお宝を集めてくれ!」
「りょーかい」
敦盛はそう言ってエミーナたちに背中を向けたけど・・・室内ではエミーナとルシーダが「うわっ、これってもしかして・・・」「こ、これは伝説の・・・」などと大騒ぎしている。どうやら相当な収穫があったようだ。
結局・・・敦盛が心配していた他のパーティは誰も来なかった。
「・・・おーいアツモリ、終わったよー」
エミーナに声を掛けられたから敦盛は後ろを振り向いたけど、そこにはニコニコ顔で巾着のような物を持ったエミーナと、同じくニコニコ顔で靴を持ったルシーダがいた。
「あれっ?お宝は?」
敦盛は素朴な疑問を言った。なぜなら、先ほどまでエミーナとルシーダの歓喜の声が騒々しいほどに響いてたから、かなりの収穫があった筈なのに、それらしい物を持ってないのだ。
「いやー、ボクも最初は『これをどうやって持ち帰ればいいんだ?』って真面目に心配してたけど、伝説の魔法道具『魔法の巾着袋』があったんだよ!」
「はあ?何だあ、その『魔法の巾着袋』とは?」
「信じられない位の量の物を詰め込む事が出来る袋の事だよ!今の時代では作れない、失われた魔法遺産の1つで、これは魔法王国時代の終盤に量産されていた物より型が古いから間違いなく初期型だけど、これを普通にギルドや古道具屋で買うには庶民が5年くらい飲まず食わずで働かないと無理だぞ!」
「マジ!?それって、もしかして『ネコえもん』の五次元ポケットの事?」
「ネコえもん?ごじげんポケット?何だそれは?」
「あー、スマンスマン、これも俺の世界にある空想上の道具の名前だけど、信じられないくらいに道具を入れられるポケットなんだけど、当たり前だけど実在しないやつだ。でも、そんな道具を手に入れたという事は、それだけでも超掘り出し物じゃあないか!」
「うん!他にも結構な数の魔晶石も手に入った。魔王が出現してからは魔晶石の値段が急騰してるから、魔王出現の前だったら借金が返せる程の金額にならなかっただろうけど、恐らく魔晶石だけで借金が返せるよ」
「ほおー、ある意味、魔王様に感謝だな」
「その1点に関しては魔王ウーノに感謝してもいいけど、それ以外の事に感謝する気はないと言っておくよ」
「ま、そりゃあそうだ」
「それ以外にも長剣や短剣のような武器も盾もあったし、指輪や腕輪もゴロゴロ出てきたんだよ。これでボクもルシーダも借金を返せるし、新しい装備を揃える事が出来る!」
エミーナはニコニコ顔で敦盛に話しながら『魔法の巾着袋』を腰に当てたけど、その途端に『魔法の巾着袋』が勝手にエミーナの腰ベルトに自分の紐を結び付けてぶら下がったから、敦盛は「嘘だろ!」と目を丸くしたほどだ。
「アツモリ、これを履いてみて!」
ルシーダはニコニコ顔でそう言って靴をアツモリの目の高さにまで上げたけど、その靴は明らかに敦盛の足のサイズより小さい!
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺には小さすぎるぞー」
敦盛は極々普通の感想を言ったけど、ルシーダはニコニコ顔だ。
「大丈夫大丈夫!この靴は使い手の体に合わせてサイズが勝手に変わるから、絶対にアツモリでも履けるよ」
そう言うとルシーダは敦盛の前にその小さな靴を置いたけど、敦盛は「本当に大丈夫かよ!?」と呟いてしまったほどだ。
「まあ、騙されたと思って『幸せの靴』を履いてみてよ」
そう言ってルシーダは「ささっ、どうぞ」と言って右手を差し出しながら敦盛を促している。
最初、敦盛は「勘弁してくれよなあ」とボヤいてたけど、突然、『ハッ!』という表情に変わった!
「お、おいルシーダ!もしかして『幸せの靴』の事かあ?」
「えっ?」
「だーかーら、この靴は『幸せの靴』なのか?」
「えーと、たしかにアツモリの言う通りで、『幸せの靴』を『幸せの靴』と呼ぶ事もあるけど、それがどうかしたの?」
「うっそー、ドナクエⅢの幻のアイテム『幸せの靴』が本当に履けるとは、これで俺は歩くだけでレベルアップだあ!」
そう言うと敦盛は喜び勇んで『幸せの靴』を履いてニコニコ顔だ。でも、エミーナもルシーダも首を傾げている。
「いやー、俺もゲームブックの挿絵しか見た事が無かったからなあ。あの本では、先端がくるっと丸まった可愛らしいデザインだったし、金色で優雅な装飾が施されていて、履き心地も文句なしに良く、踵に着けられた鈴が歩くたびに鳴って、なんとも幸せな気分にしてくれると書いてあったけど、本物は大違いだよなあ。まさに俺の為に作られたようなカッコいい靴で、俺、一目惚れしたぜ!」
敦盛はニコニコ顔でホールの中をグルグルと走り回って絶叫しているから、エミーナもルシーダも互いの顔を見合わせながら首を傾げているくらいだ。
でもその時、エミーナが『ハッ!』という表情をした。
「おいアツモリ!まさかとは思うけど、君のいた世界にある『幸せの靴』とは・・・」
「おー、そのまさかだ!ゲーム『DKQⅢ』で『きまぐれメタル』が持ってる超レアアイテムだ!何しろ、これを履いて歩くだけで経験値が増えてレベルアップし放題の、まさに幸せ一杯になれるアイテムなのだあ!」
敦盛は走りながら右手をグーにして突き上げて絶叫してるけど、それを見たエミーナとルシーダは顔を見わせて「はーー」とため息をついた。
「あ、あのさあアツモリ・・・」
「ん?エミーナ、何か言いたいのか?」
敦盛はニコニコ顔でエミーナの方を向いたけど、そのエミーナはもう1回「はーー」とため息をついた。
「だいたいさあ、その経験値って何だあ?レベルアップって何だあ?」
「はあ!?エミーナもルシーダも冒険者だろ?経験値も知らないのかあ?」
「だーかーら、経験値って何?まさかとは思うけど、ギルドや商人からの依頼をしたりとか、魔王をやっつけたりしたら技能や知識がどんどん向上するとか言い出さないよねえ」
「あれっ?違うの?」
「当たり前だあ!そんな便利なシステムがあるなら誰も苦労しない!冒険者クラスだって、ある一定以上の実績を上げたのをギルドが認めない限りランクアップしないし、だいたい、技能や知識レベルを何らかの形で数値化できるなら、ボクだって純粋な古代語魔法の実力だけなら、今より1つ上の『青銅』いや、2段階上の『銀』クラスに認定されても全然おかしくないけど、実際には一番下の『紙』クラスなんだからさあ」
「マジ!?」
「結局、アツモリの『この世界の常識』とやらは、さっき言ってた『あにめ』だか『げえむ』だか知らないけど、いわゆる空想上の物の設定を、この世界の常識だと勘違いしてないか?」
「・・・・・」
敦盛はエミーナの鋭い指摘に足を止めざるを得なかった・・・いや、それっきり何も言えなくなった。エミーナに一番痛いところを突かれて沈黙せざるを得なかったのだ・・・
「・・・この『幸せの靴』は、普段の2、3倍以上も高く跳ね上がる事が出来るんだよ。だから結婚式で新郎新婦が互いに相手に履かせる靴として定番なのさ」
「えーっ!俺、結婚どころか、この世界から自分の世界に戻れるかどうかも分からないんだぞ!」
「まあまあ、もし戻れないと分かったら、ボクが責任を取ってその靴を履いてやるよ」
「「へっ?」」
いきなりのエミーナの発言に敦盛もルシーダも固まった・・・
最初、エミーナは何故二人が固まっているのか全然分かってなかったが・・・その意味を理解した!
「ちょ、ちょーっと待ってくれ!冗談に決まってる!冗談だよ」
エミーナは顔を真っ赤にして慌てて弁解したけど、その額からは汗が出ていて、明らかにアセアセだ!
「・・・ったくー、まさかとは思うけど『終末の聖騎士』様を自分一人の願望の為に使うのかと本気で思っちゃったわよー」
「わりーわりー、調子に乗っちゃいましたあ!」
「だいたい、エミーナのように自分の部屋もロクに片付けられない人に『終末の聖騎士』様を任せられません!私の方が相応しいです!」
「「へっ?」」
今度は敦盛とエミーナがその発言に固まった・・・
ルシーダが顔を真っ赤にしながら「冗談にしては言い過ぎました!すみませんでした!!」と平謝りしたのは言うまでもなかった。
「・・・ま、まあ、話を元に戻すけど、魔晶石を売った金でボクとルシーダの借金を返しても、それ以外にも剣や魔法道具が幾つかあるから、それを売った金でアツモリの服や靴も買ってあげるよ。ボクだって、今でも魔術師学校の制服を着ているのはお金が無かったからだからね」
「私もよ。さすがに修道院の制服を着ている冒険者は私だけだからね」
「はーーー・・・靴の正体が分かって逆に悲しくなってきたけど、無いよりマシかあ」
「「アツモリー、元気だしてよー」」
「はあああーーー・・・」
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ヘリオポリスー九柱の神々ー
soltydog369
ミステリー
古代エジプト
名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。
しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。
突如奪われた王の命。
取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。
それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。
バトル×ミステリー
新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる