上 下
64 / 84

第64話 黒い奴

しおりを挟む
「オークはこんなに美味かったのか!」

「ゴブリンも中々だな」

「だろ?殺してそのままにしておくなんて勿体無いよ、今度からは倒したらきちんと食べる事。これで少なくなっていたって言う食料の問題はクリアで良いんだよな?」

「「ああ、問題無い!」」

ハジメが話していたのはキングブラウンスライム討伐の為に駐屯していた魔族の皆さんだ。アーシュラさんの案内で到着した時備蓄の食料が残りわずかとなっていた、そこでハジメはすぐに手に入る食料としてゴブリンやオークを食べる事を推奨したのだ。

最初は嫌がっていた魔族の皆さんもセシリアが差し出したオークの刺身やゴブリンの唐揚げを食べるとその評価は一変し周辺のオークを我先に倒し始める。その後魔王カルーラから訓示を受ける事となったが、魔王不在の間持ち堪えさせていた功労やハジメが止めに入った為アーシュラさんのお叱りを受ける事は無かった。



魔族の皆さんが落ち着いた所で現状の確認をすると、カルーラさんが危惧していた通りの状況になり始めていた。魔王一家がシスティーナに行ってしまった事で士気が低下してしまい、その間に倒したキングブラウンスライムの数よりも増殖した方が多いそうで幸い包囲までは突破されなかったので一般人には被害は出ていないらしい。

「実は問題が他にも発生しておりまして・・・」

現場を任されていた代理指揮官が言葉を濁した。

「食料が少なくなって疲労も出始めた我々を狙ってオークの集団が襲ってきまして、無論オーク如きにやられる我らでは無いのですが問題はオークの死体を喰わずに放置してしまいそれに惹き寄せられる様に別のモンスターが現れてしまったのです」

「そんなに厄介な相手なのか?」

ハジメが問い質すと少しだけ悩んでいたが指揮官がようやく口を開いてくれた。

「モンスター自体は大した強さでは無いのですが数が多くて・・・。あと女性の魔族が取り乱してしまうので混乱状態に陥りそうにもなりました」

(数が多くて、女性が特に嫌がる存在・・・まさかね)

「そのモンスターの名前を良かったら教えてくれないか?」

大体の予想が付いたがハジメも正直に言えばこの存在が苦手だ、むしろ好きだなどと言う奴は変な目できっと見られるだろう。

そんなハジメの期待を裏切らない答えを指揮官は答えてくれた。

「モンスターの名はブラックバグズ、黒くてしかも素早く動き回る嫌な奴です」



「い、嫌ぁあああああ!!無理無理無理無理無理無理無理無理無理、試食なんて絶対に無理です!」

怪物料理人(モンスターコック)のセシリアが珍しく取り乱す、目の前にGの姿をしたモンスターを突き付けられたらそうなるわな。

「ブラックバグズってただの◯キブリじゃないですか!?そんな物喰える訳無いでしょ!」

セシリアの拒否反応は尋常じゃない、ハジメも一応念の為に調べてみた。


ブラックバグズ=ゴキブリとは似て非なる物、しかし見た目はどう見てもG。喰っても喰わなくても何かに負ける・・・。生命力と繁殖力はG並もしくはそれ以上。


(これ、セシリアに教えたらどうなるんだ?怪物料理人のプライドがボロボロになるのでは無いだろうか?)

ハジメは調べた結果を教えるのを止めた、怪物料理人である以前にセシリアはハジメにとって大切な恋人であり近日中に妻となる女性だ。その彼女のプライドを傷つける真似をしたくはなかった。

「試しに俺が食べてみるよ、もしかしたら凄い能力が手に入るかもしれないしね」

「ごめんなさいハジメ、どうしてもあの黒いのだけは苦手で」

「いや、謝らなくて良いよ。駄目なものを我慢して食べてもきっと美味しく感じられないしね。とりあえず口直しに何か作っておいてもらえないか?」

「分かりましたハジメ、美味しい刺身の盛り合わせを作っておきますね」

セシリアがオークを切り分け始めるのを見ながらハジメは覚悟を決めた、念の為ブラックバグズを火で炙ってから焼けたものを口に入れる・・・。

サクッ! 軽い食感と共にバグズの汁が口の中に広がる、しかし見た目に反してその味はハジメの良く知っている物だった。

(これは・・・中濃ソースかタルタルソースが欲しくなるな)

焼いたブラックバグズの味は何とカキフライだったのである。試しに焼かずに生のまま食べてみると今度は生カキとなり体液は何故かポン酢。実物と同じで運が悪ければ当たるかもしれないので焼く方がベストかもしれないとハジメは思った。

「ハジメさん、大丈夫ですか?」

サリーネが心配そうに聞いてきた、食っても問題は無いが女性がゴ○ブリを食べる姿を正直見たいとは思えない。しかし、ここでハジメは日頃のお返しとばかりにアーシュラさんの眼前にバグズを差し出してみた。

「アーシュラさん、これカキフライの味がするよ。生で食えば生カキだし、懐かしい味だと思うけど食べる?」

だがアーシュラの反応は全く無い、いやそれどころか瞬きすらしなくなってしまった。

「お~い、アーシュラさん何か考え事?」

軽く肩を叩いてみるとアーシュラはそのまま後ろに倒れ後頭部を打つがそれでも反応が無い、もしかして・・・。

「ねえ、カルーラさん。アーシュラさんってブラックバグズと遭遇したのは初めて?」

「そうかもしれん、何しろアーシュラの奴はとても綺麗好きで厨房や水回りを特に清潔にしていたな」

カルーラさんの言葉でハジメは確信した、自由奔放で弱点など存在しないと思われていたアーシュラさんだが実はゴ○ブリが大の苦手だったらしい・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

処理中です...