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第31話 【ダイナス恐怖の10日間】~2日目午前の部その2~
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「ハジメ、あともう少しで血抜きが終わりそうなのでそうしたら下ろして大丈夫ですからね」
「あ、ああ、分かった」
視線の先にはハジメの糸によって逆さに吊るされ、首筋を切られて血を抜かれているミノタウロスの姿が有った。セシリアがその血を指先で掬って舐めると調味料セットの空き瓶を取り出して中に入れた。
「ハジメ、このミノタウロスの血は焼いた肉にかけるととても美味しくなりそうですよ」
小皿に移し変えた血を差し出されたのでハジメも舐めてみると納得した。
「ああ、これは焼肉のタレだ。ってことはこのミノタウロスは牛の肉の味になりそうだね」
「きっとそうですわ、ふふふ食べ応え有る量を振舞えそうです♪」
セシリアのその言葉がトドメになったのか血抜きは無事に終わった、そしてミノタウロスはオークと違い全身が牛肉でバラ・ロース・ヒレ・サーロイン等さまざまの部位を取る事が出来た。
「ハジメ様、このミノタウロスの血と肉は美味いな!ブラウンスライムも美味かったがやはり噛み応えや満足感はこちらの方が遥かに上だわ」
「ああ、そうだな。まだ肉はたくさん有るから、ジャンジャン食べて良いぞ」
「無論じゃ!こんな美味い肉なら毎日でも食べたい♪」
「その前に探して欲しい物が有るのですが?」
「どうかしたのか、セシリア?」
セシリアは何か物足りなそうな顔をしていた。
「ええ、オークのお刺身は確かに美味しいのですがしばらくすると口の中が油っぽくなってしまいます。何か合う調味料はないものかと・・・」
「それはきっと、醤油とワサビだな」
「醤油とワサビ?」
「醤油は大豆から取れる調味料で、ワサビは清流で生える植物の根を摩り下ろした物で刺身や鉄火丼に良く合うんだ」
「ハジメの世界にはそんな物まで有るのですね、それの代わりになる様なモンスターとか居ればもっと美味しく食べられるのに」
残念そうな顔をするセシリア、だが確かにワサビ醤油で食べる刺身の方が美味いに決まっている。そこでバーベキュー兼お刺身食べ放題パーティーの内容に一部変更を加える事となった。
「よ~っし、これから醤油とワサビの味がしそうなモンスターを探しに行くぞラン、ミリンダ!」
「え~!?食べ終えてからじゃ駄目なのかハジメ様?」
「もう少し食べていたいです・・・」
「醤油とワサビが加われば、その刺身が更に何倍も美味くなるとしてもか?」
ハジメの言葉に反応するランとミリンダ、目の色が変わるとはよく言ったものだ。別人の様に目がキラキラしている。
「して、どの様なモンスターを探すつもりなのだハジメ様?」
「そうだな、多分植物系のモンスターだと思うんだけど。でもマンドラゴラは無しな」
「ハジメ様、マンドラゴラを試しに食べてみるのも良いかもしれません。あの美声が更に素晴らしくなるやもしれません」
「ミリンダお前な・・・・俺に更に音痴になれと言うのか!?」
「聞くだけで意識が更に遠退く声・・・ああ、考えるだけでゾクゾクします♪」
絞首台に向かおうとするミリンダを引きずる様にハジメとランはパーティー会場を離れ、近くに在った森の中に入ってみる事にした。ちなみにまだゴブリンやオークの生き残りが居るが、始が倒した先からマジックバッグに食材(ゴブリン達の新鮮な死体)として保管してくれている。一方その頃城壁の内側では・・・
「団長!奴らは分かれて行動するみたいです、今が背後を襲う絶好の好機なのでは!?」
「駄目だ!残っている奴は先程から串をここまで投げている男だ迂闊に近づけば全滅するぞ、死にたいのか!?」
口論を始める部下達を前にして、近衛騎士団の団長は判断に迷っていた。確かに人数が減った今こそ襲う好機かもしれない、だが残っている男は王城を半壊させた勇者だという事も既に把握している。そんな化け物相手に大事な部下を死地に飛び込ませる命令を出せる筈が無かった。
「ねえ、あなたちょっと良いかしら?」
悩んでいた団長の馬の隣に何時の間にかアーシュラが立っていた。
「貴様、何者だ?」
「真横に立たれても動揺を見せない所は褒めてあげる、でも私と戦って勝てるかどうか位は分かるわよね?」
団長の額に汗が流れた、動けば殺される。しかも周囲の部下達は何故かアーシュラの存在に気付いていないのだ、暗に部下の生殺与奪も好きに出来ると言っているのかもしれない。
「部下達の命まで握られていては勝てる筈無かろう、私の命はどうなっても良い。だが部下達の命は見逃してやって欲しい」
「へ~そこまで分かるなんて、見所有るわね気に入ったわ。別にあなた達の命が欲しくてこうして来た訳じゃないのよ。ほら、あそこ見えるかしら?私が昨日壊した城壁なんだけど、あそこを暫くの間あなた達だけで守っておいて貰えないかしら?」
「どういう事だ?」
「婿殿達はモンスターの襲撃に意識が向いてしまっているみたいだけど、壊れた城壁を見て周囲を根城にしていた賊達が忍び込もうとしているのよ」
「何だと!?」
そのような報告は全く上がっていなかった、真偽を確かめようと振り向くとアーシュラの身体が一瞬霞んだかの様に見えると右手に1人の賊が握り締められていた。
「とりあえず縛り上げてある賊の1人を連れてきたわ、これが証拠。正規兵が守りを固めているとアピールしないと賊達はどんどん集まってきちゃうけどどうする、皇太子様の命令の方がそんなに大事?」
ほんのわずかな時間、団長は目を瞑り思考を巡らせた。そして至った結論は・・・
「我が部隊はこれより壊れた城壁から侵入しようとする賊共から王都を守るべく現地へ急行する!殿下の命令も大事だが、我らがまず仕えているのは国家だ。国家の礎たる民を守る事の方が急務である」
「お見事、素晴らしい采配だわ。そんなあなたにはご褒美をあげる。私の手に触れてみて」
言われるままアーシュラの手に触れると周囲の時が止まった。
「これは!?」
「ふふふ、あなたへのご褒美は私よ。その決断に見合うだけの至福の時間をプレゼントして、あ・げ・る♪」
アーシュラの時間停止が解けた時、団長はアーシュラの虜となっていて皇太子はわずか1日で側近のナリウスと直属の近衛騎士団に離反され手駒を失っていた。
さて森の中に入ったハジメ達だが、そんなに都合良くモンスターが現れる筈も無くうろうろと彷徨っていた。
「なあ、ハジメ様。そろそろ戻らぬか?少し腹が減ってきた」
「それかハジメ様の素晴らしい歌声をラン様に聞かせてあげれば、すぐに元気になりますよ」
「嫌じゃ!元気になるどころかトドメを刺されるわ!!」
魔王の娘にトドメを刺されると言わせるレベルの凶器の歌声・・・もう2度と仲間とカラオケに行けそうも無いな。ハジメは涙が出そうになった。
『何を泣きそうな顔をしているの?折角の色男が台無しじゃないの』
「誰だ!?」
茂みの奥から急に声がしたので、ハジメが叫ぶとガサガサと音を立てながら緑色の髪で頭に葉っぱを生やした全裸の女性型モンスターが姿を現した。
『私の名はドリアード、悲しい出来事が有ったのなら慰めてあげても良いわよ』
モンスターに慰めた方が良いか聞かれる男って一体・・・ハジメは始と同様に体育座りしたい心境に駆られた。
『余程悲しい気持ちを抱いているのね、良いわ私の胸でその心を癒して差し上げます』
ハジメはドリアードに誘われるままその胸に顔を埋めた、だが次の瞬間ハジメは両目と鼻を押さえながら地面をのた打ち回る羽目になった。
「ぎあぁ~!!目が、目が沁みる!鼻がツーンとする、何じゃこりゃ~!?」
『失礼ね!私の体臭は虫除けになるし身体だって食べれば殺菌効果が有るって言われているのよ、鼻の通りだって良くなった筈よ!』
食べれば殺菌効果って一体誰が食うんだよ、こいつを!?
『モンスターに決まってるでしょ、人族が私を食べた話なんて聞いた事も無いわ』
尤もな理屈だ、だがこれはハジメ達相手には通用しない。
「一応聞いておきたいんだけど、君は人を襲ったりするの?」
『そんな面倒な事する訳無いでしょ、本体の根から水と養分を吸い上げているし光合成だってこうして分体の私が歩き回る事で行われるから人を襲う必要はありません』
なるほど、ってあれ?今、分体って言わなかったか?
「ねえ、今分体って言ったけど君自身の本体は別の所に有るの?」
『そうだけど、本体を探そうとしても無駄だからね。私を引き抜いて本体を見つけようとしても途中で根を切ってしまえば、探しようが無いわ』
「じゃあ、分体の君をもし食べても本体が死ぬ事は無いんだね?」
『変わった事を聞くのね、それじゃあついでに樹液の味も確かめてみる?』
樹液だって?
『ええ、私を食べようとするモンスター達って何故か樹液と一緒に口に入れるのよね。何百年か前にドラゴンがオークと一緒に喰うと美味いって言ってたわ』
話を聞く限り、探し物はこの方でほぼ間違いないだろう・・・。
「試しに樹液を舐めさせてもらっても良いかな?俺達が探していたのは多分君だと思うから」
『ええっ!?私のこの身体が目的だなんてワイルドな方♪良いわ、好きにして頂戴』
そう言ってドリアードは指先をほんの少しだけ切るとこちらの世界に来てから見てなかった懐かしい濃い茶色の液体が出てきた、それを舐めてみるとやはりあの味で間違い無かった。
「醤油だ、醤油で間違いない!じゃあ、今度はその指先をちょっとだけ摩り下ろしても良いかな?」
『まあ、好きにして頂戴とは言ったけどこの身体を全部摩り下ろそうだなんて・・・。そんな凶悪さに更に惹かれちゃうわ~♪』
もしも~し!指先だけですよ~全身摩り下ろすとは一言も言ってないですからね~!!
ドリアードの指先を摩り下ろそうとした時にハジメは大事な事に気が付いた。
「ラン!急いで戻ってセシリアから空いている調味料セットの空き瓶を2つ貰ってくるんだ、そうすれば何時でも醤油とワサビを使える様になる筈だから」
「分かった!ワサビ醤油の為ならば全力で行こう、すぐに戻るから待っておるのだぞ~!」
土煙を上げて走り去るラン、待っている間にドリアードの摩り下ろした指先を食べてみたがやはりワサビだった。
「ハジメ様~持ってきたぞ~!」
5分もしない内にランが帰ってきた、ハジメはドリアードの樹液と摩り下ろした身をそれぞれの瓶に入れて蓋をする。
「ありがとう、これで欲しかった物が手に入ったよ。でもこれからはうっかり人を抱き寄せたりしない方が良いよ、さっきの俺みたいに地面をのた打ち回るから」
『分かったわ、今度から気を付ける。普段はこの辺りをうろついているから、また樹液が欲しくなったら何時でも来てね。雨季の時期になれば樹液も少しだけ味が薄くなるからこっちの方が好きだって言う変わり者のモンスターも居るのよ』
今の時期が濃口醤油で雨季だと薄口醤油になるのか、セシリアに頼めば関東と関西の味付けを楽しめそうだな。煮物とか・・・。
ハジメ達が立ち去った後、ドリアードはその場で瞑目し本体と話を始めた。
(ねえ、本体。人族にも変わった者が居るのね)
(そうね、分体。今度、恥ずかしがり屋のあの娘にも教えてあげたいわね)
(アルラウネね。マンドラゴラみたいに絞首台付近でで引き抜かれるのを待っていれば良いのに、どこかで身を隠して死にそうになったら男を誘い精を吸って命を繋ぐ生活なんて私だったら退屈して枯れてしまうわ)
(彼女には彼女なりの生き方が有るのよ、でも分体が会ったという男と実際に会ってみれば生き方を少しは変えるかもしれないわね)
(それじゃあ、本体。アルラウネに会いに行きたいからダイナスの墓地まで根を伸ばしてもらっても良い?)
(それくらいお安い御用よ)
ハジメと接触した事がキッカケとはいえ、ワサビ醤油(ドリアード)がダイナスで余計な事を始めようとしていた・・・。
「あ、ああ、分かった」
視線の先にはハジメの糸によって逆さに吊るされ、首筋を切られて血を抜かれているミノタウロスの姿が有った。セシリアがその血を指先で掬って舐めると調味料セットの空き瓶を取り出して中に入れた。
「ハジメ、このミノタウロスの血は焼いた肉にかけるととても美味しくなりそうですよ」
小皿に移し変えた血を差し出されたのでハジメも舐めてみると納得した。
「ああ、これは焼肉のタレだ。ってことはこのミノタウロスは牛の肉の味になりそうだね」
「きっとそうですわ、ふふふ食べ応え有る量を振舞えそうです♪」
セシリアのその言葉がトドメになったのか血抜きは無事に終わった、そしてミノタウロスはオークと違い全身が牛肉でバラ・ロース・ヒレ・サーロイン等さまざまの部位を取る事が出来た。
「ハジメ様、このミノタウロスの血と肉は美味いな!ブラウンスライムも美味かったがやはり噛み応えや満足感はこちらの方が遥かに上だわ」
「ああ、そうだな。まだ肉はたくさん有るから、ジャンジャン食べて良いぞ」
「無論じゃ!こんな美味い肉なら毎日でも食べたい♪」
「その前に探して欲しい物が有るのですが?」
「どうかしたのか、セシリア?」
セシリアは何か物足りなそうな顔をしていた。
「ええ、オークのお刺身は確かに美味しいのですがしばらくすると口の中が油っぽくなってしまいます。何か合う調味料はないものかと・・・」
「それはきっと、醤油とワサビだな」
「醤油とワサビ?」
「醤油は大豆から取れる調味料で、ワサビは清流で生える植物の根を摩り下ろした物で刺身や鉄火丼に良く合うんだ」
「ハジメの世界にはそんな物まで有るのですね、それの代わりになる様なモンスターとか居ればもっと美味しく食べられるのに」
残念そうな顔をするセシリア、だが確かにワサビ醤油で食べる刺身の方が美味いに決まっている。そこでバーベキュー兼お刺身食べ放題パーティーの内容に一部変更を加える事となった。
「よ~っし、これから醤油とワサビの味がしそうなモンスターを探しに行くぞラン、ミリンダ!」
「え~!?食べ終えてからじゃ駄目なのかハジメ様?」
「もう少し食べていたいです・・・」
「醤油とワサビが加われば、その刺身が更に何倍も美味くなるとしてもか?」
ハジメの言葉に反応するランとミリンダ、目の色が変わるとはよく言ったものだ。別人の様に目がキラキラしている。
「して、どの様なモンスターを探すつもりなのだハジメ様?」
「そうだな、多分植物系のモンスターだと思うんだけど。でもマンドラゴラは無しな」
「ハジメ様、マンドラゴラを試しに食べてみるのも良いかもしれません。あの美声が更に素晴らしくなるやもしれません」
「ミリンダお前な・・・・俺に更に音痴になれと言うのか!?」
「聞くだけで意識が更に遠退く声・・・ああ、考えるだけでゾクゾクします♪」
絞首台に向かおうとするミリンダを引きずる様にハジメとランはパーティー会場を離れ、近くに在った森の中に入ってみる事にした。ちなみにまだゴブリンやオークの生き残りが居るが、始が倒した先からマジックバッグに食材(ゴブリン達の新鮮な死体)として保管してくれている。一方その頃城壁の内側では・・・
「団長!奴らは分かれて行動するみたいです、今が背後を襲う絶好の好機なのでは!?」
「駄目だ!残っている奴は先程から串をここまで投げている男だ迂闊に近づけば全滅するぞ、死にたいのか!?」
口論を始める部下達を前にして、近衛騎士団の団長は判断に迷っていた。確かに人数が減った今こそ襲う好機かもしれない、だが残っている男は王城を半壊させた勇者だという事も既に把握している。そんな化け物相手に大事な部下を死地に飛び込ませる命令を出せる筈が無かった。
「ねえ、あなたちょっと良いかしら?」
悩んでいた団長の馬の隣に何時の間にかアーシュラが立っていた。
「貴様、何者だ?」
「真横に立たれても動揺を見せない所は褒めてあげる、でも私と戦って勝てるかどうか位は分かるわよね?」
団長の額に汗が流れた、動けば殺される。しかも周囲の部下達は何故かアーシュラの存在に気付いていないのだ、暗に部下の生殺与奪も好きに出来ると言っているのかもしれない。
「部下達の命まで握られていては勝てる筈無かろう、私の命はどうなっても良い。だが部下達の命は見逃してやって欲しい」
「へ~そこまで分かるなんて、見所有るわね気に入ったわ。別にあなた達の命が欲しくてこうして来た訳じゃないのよ。ほら、あそこ見えるかしら?私が昨日壊した城壁なんだけど、あそこを暫くの間あなた達だけで守っておいて貰えないかしら?」
「どういう事だ?」
「婿殿達はモンスターの襲撃に意識が向いてしまっているみたいだけど、壊れた城壁を見て周囲を根城にしていた賊達が忍び込もうとしているのよ」
「何だと!?」
そのような報告は全く上がっていなかった、真偽を確かめようと振り向くとアーシュラの身体が一瞬霞んだかの様に見えると右手に1人の賊が握り締められていた。
「とりあえず縛り上げてある賊の1人を連れてきたわ、これが証拠。正規兵が守りを固めているとアピールしないと賊達はどんどん集まってきちゃうけどどうする、皇太子様の命令の方がそんなに大事?」
ほんのわずかな時間、団長は目を瞑り思考を巡らせた。そして至った結論は・・・
「我が部隊はこれより壊れた城壁から侵入しようとする賊共から王都を守るべく現地へ急行する!殿下の命令も大事だが、我らがまず仕えているのは国家だ。国家の礎たる民を守る事の方が急務である」
「お見事、素晴らしい采配だわ。そんなあなたにはご褒美をあげる。私の手に触れてみて」
言われるままアーシュラの手に触れると周囲の時が止まった。
「これは!?」
「ふふふ、あなたへのご褒美は私よ。その決断に見合うだけの至福の時間をプレゼントして、あ・げ・る♪」
アーシュラの時間停止が解けた時、団長はアーシュラの虜となっていて皇太子はわずか1日で側近のナリウスと直属の近衛騎士団に離反され手駒を失っていた。
さて森の中に入ったハジメ達だが、そんなに都合良くモンスターが現れる筈も無くうろうろと彷徨っていた。
「なあ、ハジメ様。そろそろ戻らぬか?少し腹が減ってきた」
「それかハジメ様の素晴らしい歌声をラン様に聞かせてあげれば、すぐに元気になりますよ」
「嫌じゃ!元気になるどころかトドメを刺されるわ!!」
魔王の娘にトドメを刺されると言わせるレベルの凶器の歌声・・・もう2度と仲間とカラオケに行けそうも無いな。ハジメは涙が出そうになった。
『何を泣きそうな顔をしているの?折角の色男が台無しじゃないの』
「誰だ!?」
茂みの奥から急に声がしたので、ハジメが叫ぶとガサガサと音を立てながら緑色の髪で頭に葉っぱを生やした全裸の女性型モンスターが姿を現した。
『私の名はドリアード、悲しい出来事が有ったのなら慰めてあげても良いわよ』
モンスターに慰めた方が良いか聞かれる男って一体・・・ハジメは始と同様に体育座りしたい心境に駆られた。
『余程悲しい気持ちを抱いているのね、良いわ私の胸でその心を癒して差し上げます』
ハジメはドリアードに誘われるままその胸に顔を埋めた、だが次の瞬間ハジメは両目と鼻を押さえながら地面をのた打ち回る羽目になった。
「ぎあぁ~!!目が、目が沁みる!鼻がツーンとする、何じゃこりゃ~!?」
『失礼ね!私の体臭は虫除けになるし身体だって食べれば殺菌効果が有るって言われているのよ、鼻の通りだって良くなった筈よ!』
食べれば殺菌効果って一体誰が食うんだよ、こいつを!?
『モンスターに決まってるでしょ、人族が私を食べた話なんて聞いた事も無いわ』
尤もな理屈だ、だがこれはハジメ達相手には通用しない。
「一応聞いておきたいんだけど、君は人を襲ったりするの?」
『そんな面倒な事する訳無いでしょ、本体の根から水と養分を吸い上げているし光合成だってこうして分体の私が歩き回る事で行われるから人を襲う必要はありません』
なるほど、ってあれ?今、分体って言わなかったか?
「ねえ、今分体って言ったけど君自身の本体は別の所に有るの?」
『そうだけど、本体を探そうとしても無駄だからね。私を引き抜いて本体を見つけようとしても途中で根を切ってしまえば、探しようが無いわ』
「じゃあ、分体の君をもし食べても本体が死ぬ事は無いんだね?」
『変わった事を聞くのね、それじゃあついでに樹液の味も確かめてみる?』
樹液だって?
『ええ、私を食べようとするモンスター達って何故か樹液と一緒に口に入れるのよね。何百年か前にドラゴンがオークと一緒に喰うと美味いって言ってたわ』
話を聞く限り、探し物はこの方でほぼ間違いないだろう・・・。
「試しに樹液を舐めさせてもらっても良いかな?俺達が探していたのは多分君だと思うから」
『ええっ!?私のこの身体が目的だなんてワイルドな方♪良いわ、好きにして頂戴』
そう言ってドリアードは指先をほんの少しだけ切るとこちらの世界に来てから見てなかった懐かしい濃い茶色の液体が出てきた、それを舐めてみるとやはりあの味で間違い無かった。
「醤油だ、醤油で間違いない!じゃあ、今度はその指先をちょっとだけ摩り下ろしても良いかな?」
『まあ、好きにして頂戴とは言ったけどこの身体を全部摩り下ろそうだなんて・・・。そんな凶悪さに更に惹かれちゃうわ~♪』
もしも~し!指先だけですよ~全身摩り下ろすとは一言も言ってないですからね~!!
ドリアードの指先を摩り下ろそうとした時にハジメは大事な事に気が付いた。
「ラン!急いで戻ってセシリアから空いている調味料セットの空き瓶を2つ貰ってくるんだ、そうすれば何時でも醤油とワサビを使える様になる筈だから」
「分かった!ワサビ醤油の為ならば全力で行こう、すぐに戻るから待っておるのだぞ~!」
土煙を上げて走り去るラン、待っている間にドリアードの摩り下ろした指先を食べてみたがやはりワサビだった。
「ハジメ様~持ってきたぞ~!」
5分もしない内にランが帰ってきた、ハジメはドリアードの樹液と摩り下ろした身をそれぞれの瓶に入れて蓋をする。
「ありがとう、これで欲しかった物が手に入ったよ。でもこれからはうっかり人を抱き寄せたりしない方が良いよ、さっきの俺みたいに地面をのた打ち回るから」
『分かったわ、今度から気を付ける。普段はこの辺りをうろついているから、また樹液が欲しくなったら何時でも来てね。雨季の時期になれば樹液も少しだけ味が薄くなるからこっちの方が好きだって言う変わり者のモンスターも居るのよ』
今の時期が濃口醤油で雨季だと薄口醤油になるのか、セシリアに頼めば関東と関西の味付けを楽しめそうだな。煮物とか・・・。
ハジメ達が立ち去った後、ドリアードはその場で瞑目し本体と話を始めた。
(ねえ、本体。人族にも変わった者が居るのね)
(そうね、分体。今度、恥ずかしがり屋のあの娘にも教えてあげたいわね)
(アルラウネね。マンドラゴラみたいに絞首台付近でで引き抜かれるのを待っていれば良いのに、どこかで身を隠して死にそうになったら男を誘い精を吸って命を繋ぐ生活なんて私だったら退屈して枯れてしまうわ)
(彼女には彼女なりの生き方が有るのよ、でも分体が会ったという男と実際に会ってみれば生き方を少しは変えるかもしれないわね)
(それじゃあ、本体。アルラウネに会いに行きたいからダイナスの墓地まで根を伸ばしてもらっても良い?)
(それくらいお安い御用よ)
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