スキルメーカー ~運命を変えた非常識なスキル~

いけお

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第39話 シャイカの大英雄

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「ええい、まだか!まだ奴らを屠ったという連絡は来ないのか!?」

「申し訳有りません!いまだその様な報告はありません」

シャイカの主都ヴェルガの宮殿内は混乱していた、生き残りの兵士の報告からアルストの宣戦布告を知った閣僚達は即座にアルストに使者を送る一方で討伐の為の兵士も送り込んでいた。しかし、送る兵士の悉くが破れ帰還する事は無かった。

「しかし、この報告書に書いてある光の兵士を1度に2万以上召喚する男など居る訳が無かろう。敗れた責任を取らされるのが嫌で嘘を言っているのではないか?」

「だが、送り出した兵士が誰1人戻らない以上敵の戦力を過小評価するのは危険と思えるが」

「それならば、私が出向きましょう!」

閣僚達の煮え切らない議論に痺れを切らしたのか、話を聞いていた1人の冒険者が名乗りを上げた。

「おお、そなたは我が国が誇る大英雄ジャムドではないか!大英雄が相手となれば、敵の侵攻もここまでだな。護衛の兵士も好きな者を連れて行くが良かろう。すぐに出立するのだ」

「ははっ!では、リザードマンの中隊を連れて行きます」

「あのトカゲ人間共が役に立つのか?」

「砂漠の地では素早く移動出来る者が有利となります、彼らにとってはこの場合最も活躍出来る場と言えましょう」

他にも騎馬の部隊や他国には無い重装の象兵部隊も有るのだが、この大英雄はこれまでも奇抜な作戦で数多くの勝利を国に齎してきたので閣僚達はその言葉を信じる事にした。

「では全てお前に任せよう、シャイカの力を見せてくるのだ!」

ヴェルガを出立したジャムドは主都が見えなくなると一時停止して連れて来たリザードマンの部下達に話しかける。

「いいか、ここから2日の距離の場所にシャイカで1番の大河シャイカム川が流れている。お前らは川を渡るフリをしてそのまま川を下り海岸沿いを通りながら故郷へ帰るなり他の国に逃げるなり好きにしろ」

ジャムドの言っている意味がリザードマン達には最初よく理解出来なかった。

「いいか、もう1度だけ言うぞ。お前らは大河に飛び込んで逃げろ。こんな場所で無駄死になどするな、他にやるべき事が有るだろう?」

「隊長はどうされるおつもりですか?」

「俺か?俺はアルストの連中と戦う、死んだらそれまでだがお前らをこんな砂の地まで連れてきちまった罪滅ぼしにはなるかもな」

「罪滅ぼしだなんて、我々はあなたが庇ってくれなければ既に死んでいた身。恩は有りますが恨みなど誰も抱いていません」

「国の命令だったとはいえお前達の故郷を襲い、捕虜として連れてきた。その為にお前らは人間の奴隷以下の扱いを受け、これまでも猛獣との戦いを見せる見世物にされて大勢を死なせてしまった。その罪は償うべきだ」

リザードマン達はこの大英雄の謝罪を聞き入れながらも戦士としての己の矜持も示す。

「戦で勝者と敗者が出るのは世の常、敗者である我々の力があなたに及ばなかっただけ。ですが、奴隷以下の扱いを受けたとしても戦士としての誇りまで失った訳ではありません。同じ戦士として、あなたに従います。共に戦わせてください」

「ったく!女房子供の手前、アルストの連中に味方する訳にもいかねえからよ。せめてお前らだけでも逃がそうと思っていたのに予定が狂っちまったぜ」

頭を掻きながらジャムドはぶっきらぼうに言う、リザードマンはそれを見ながら笑った。

「俺に付いてくるのは構わないが絶対に俺より前に出るんじゃねえぞ。俺より前に出て攻撃しようとすれば、お前らに待っているのは確実な死だ。みっともなくても良い、絶対に死なない事だけを考えるんだぞいいな?」

「はい!」

その後、ジャムド達の部隊は翌日の夕刻にシャイカム川を渡河してアルストの者が来るであろうコースを目指す。その途中で立ち寄る町や村では奇妙な情報が幾つも転がり込んできた。

まず1つ目にアルストの者は最初4人なのだが、いざ戦闘になると5分も経つと数十万の大軍勢になっているという物。目の錯覚か幻影ではないかと最初思ってしまったが、どうやら事実らしい。

そして2つ目はアルストの者は、途中の町や村を襲う事をしないそうだ。しかも、食料が不足していたり病気や負傷している住人を見つけると治療や食料の配布までしているらしい。

最後の3つ目が1人の男が、立ち寄る先々でこう告げて回っているらしい。

「反省せずに向かってくるなら容赦せず倒し殺す、残される家族には申し訳無いと思うけど他の国を攻めて人の命や物資を奪って良い道理が無い。反省して2度と他国に攻め込まないと約束してくれる様なら、この国の人が攻め込む必要が無い様にしてあげるつもりだよ」

(この男は一体何者だ?国を救うつもりなのか滅ぼすつもりなのかさっぱり分からん。ただ1つだけ言えるのは、この男が今回の無茶とも取れる宣戦布告を簡単にさせている原因なのだろう)

ジャムドはこれまでの経験から違和感を拭い去る事が出来なかった、これまで戦ってきた相手と違う決して戦ってはならない相手だとカンが告げていた。そして3日後、ついにジャムドはウィル達と遭遇した。情報通り、相手はたったの4人しか居なかった。何故4人しか居ないのにこれまで送られた部隊は全て倒されてきたのだろうか?

「俺はシャムカの大英雄ジャムド!こちらから先に名乗るんだ、そちらも名乗り位上げて欲しいもんだね」

「俺はアルストの自由騎士ウィル、先に言っておくが攻撃してくる様なら容赦無く叩き潰し殺す。だが、今までの連中の様に戦わずに済むならそれに越した事は無い」

ジャムドは名乗りを上げるフリをしながら、実は相手のステータスを確認していた。相手の細かい情報を先に知っておく事が生死を分ける時が有るのを知っている為だ。そしてジャムドの出した結論は至極簡単だった、戦えば全員死ぬ。リザードマンの連中を死なせる訳にいかないから、ここは投降するに限ると。

「それじゃ、俺達全員投降するわ。お前らみたいな化け物と戦えるかっての!皇太女にすら勝ち目が無いのに大英雄を名乗るのが恥ずかしくなってきちまうよ」

その場に座り込み、頭を掻き始める敵の隊長らしき男。どうやら頭を掻くのが癖の様だ。

「部下のリザードマン達は俺が国の命令で他国を攻めた時に捕虜として連れて来た連中だ。ここに来る途中で逃がそうと思っていたのに馬鹿だから付いてきちまった。俺の首を刎ねるなり好きにして構わないが、出来ればこいつらだけは故郷に返してやってくれないか?」

ウィルはジャムドが座ると武器を捨て一緒に座るリザードマン達を感慨深げに見ていた、そして後ろに居たタツトに問いかける。

「なあタツト、リザードマン達って力自慢多い?」

「そりゃあ、力が無ければ重い槍や斧とかを振り回せないしな。主よ、何か考えが有るのか?」

リザードマン達は目の前に現れた上位種に腰が抜けそうになった。

「ド、ド、ドラゴニュートが何でこんな場所に?それに人間を主って!?」

「まあ色々と有ってね、それじゃあジャムドさんだったかな?全員を助ける代わりに1つお願いが有るんだけど良いかな?」

「全員を見逃してくれるのは有り難い、この国の町や村を襲えって願い以外なら多少は聞いてやっても良いぞ」

「そんな事はしないし、させないから安心して。俺からのお願いはこのままどこかの村か町で待機していてもらって、この国が反省して周囲の国々に謝罪した後で復興させるのを協力して欲しいんだ」

「復興に協力とは願っても無いお願いだが、具体的に何をするつもりなんだ?」

「えとね、他国に攻め入る必要が無い様にこの国に水源となるオアシスを20個以上候補地を選んで作ろうと思う」

「オアシスの候補地を選ぶ、そして作るだって!?」

ジャムドは非常識な復興計画を聞いて混乱しそうになった。だが逆に納得した事も有る、この男こそこの世で最も非常識な存在である事に。
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