スキルメーカー ~運命を変えた非常識なスキル~

いけお

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第18話 馬車の購入

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「それで・・・?ダンジョンの中で沸いていたモンスターを狩り尽くした結果、ボスのサイクロプスに怒られた上に出入り禁止を言われたと」

「・・・状況的には、そんな感じです」

ダンジョンから出てきたウィルを待っていたのは、冒険者ギルドの簡易出張所での係員から受ける事情聴取だった。ウィルがサイクロプスの居た大広間を出た直後にダンジョン内に居た全てのパーティーが強制的に入り口まで転移させられ、更に入り口には【都合によりしばらくの間、ダンジョンの営業は休ませて頂きます】と看板が立てられ誰も入れなくなってしまったのだ。

ダンジョンに入れなくなってしまった冒険者達は、すぐに簡易出張所に居た係員を問い詰めるが事情が分からない係員は困惑するだけだった。しかしサイクロプスから転移札を貰って帰還してきたパーティーの数人が事の次第を係員に報告した結果、犯人(?)のウィルを事情聴取する事となったのである。

「繰り返し聞かせて頂きたいのだが・・・今、呼び出した分身の数を何体と言った?」

「えと・・・100体」

係員は思わず天を仰いでしまった、今までに100体もの分身を呼び出した者など見た事が無かったからだ。更にはダンジョンに入ってから約半日でクリアされたのも初めてだ。

「係員!ちょっと来て下さい、ダンジョンの入り口に新たな看板が増えました」

「何だって!?ちょっと一緒に来なさい、多分お前が元凶に違いないから」

入り口に行くと看板が1枚増えていた。

【ダンジョン再開時にルールを一部変更します、ダンジョン内で呼び出せる分身の類は5体までとさせて頂きます】

「なんとまあ、律儀なダンジョンボスだな。ルールの変更をわざわざ告知するとは」

感心している係員の目の前で更にこれまでの看板よりも一際大きく目立つ看板が姿を現した、それを見た瞬間ウィルはこの場から逃げ出したくなった。

【冒険者ウィルの入場お断り!!】

ダンジョン側から名指しで出入り禁止を言われた冒険者が出た事は前代未聞である。だが係員は無論だが他の冒険者達もこれ以上被害が大きくなる心配が無くなったのでホッとした部分も有った。

「今回の場合、俺に何かペナルティは発生するのですか?」

「ダンジョン側の定めたルールを破った訳では無いが、非常識なスピードクリアを果たした事を鑑みてダンジョン側の要望通り今後このダンジョンには近付かない様にしてくれ」

「分かりました・・・そうだ!係員さん、ここの簡易出張所には少し大きめの倉庫とか有りますか?」

「有るといえば有るが、それがどうかしたのか?」

「でしたら、今回のお詫びも兼ねてお願いしたい事が有ります」

そう言いながらウィルは携帯保管庫からダンジョン内のドロップで手に入れた装備類の山を取り出した。

「うわ、これだけの数を一体どこに収納していた!?」

「これは分身達が倒したモンスターが落とした装備品なのですがギルドに提供しますので、もし良かったら装備が心許ないパーティー限定でダンジョン内に居る間だけ貸し出しして頂けませんか?」

「売れば結構良い値が付くのも混ざっているが、これを全部貸し出しして良いのか?」

「はい、このダンジョン内のモンスターを倒していればいずれ手に入る装備です。冒険者にとっても現実的な目標になると思います。同じ装備を落とすモンスターが中に居る訳ですから」

係員は少しの間考えていたが、ウィルの申し出を別の形で受ける事にした。

「己の力量も弁えずに、奥に進んで命を落としたのがこれまでに何人も出ていた。お前の申し出は大変有り難いが強さを過信する者が増えても困るから、この装備類の山の中から各種類1つずつ受け取りこのダンジョン内で入手可能な装備として出張所の中に展示しておこう。きっとお前の言っていた目標も持てるだろうしな」

貸し出し以外の方法でも向上心を育てる事が可能だとウィルは係員から教わった気がした。簡単に強い武器や防具を貸し出してもそれがその冒険者にとって本当に有益になるとは限らない、むしろ過信を招き死に場所へ誘う恐れも有る事を失念していた。考えが甘かったかもしれない。

「自分の考えよりももっと良い知恵を出してくれて有難うございました、残る装備品は回収していきますので、お手数掛けました」

「まあ、何でも試してみるのは大事かもしれないが自重する心は常に意識しておく様に」

ダンジョンを後にしたウィルは、1度アーレッツに戻る事にする。ダンジョンクリアの報酬として貰った魔動馬を繋げる馬車を探す為だ。けれど折角なので試しにアーレッツまで1人で乗ってみる事にしたが、一応安物の鞍と鐙も付いていたので乗り心地は良くは無かったが悪くも無かった。

「え~っと、MPを消費して動く馬って事だから試しに1与えてみるか」

手綱を通じてMPを与える事が出来るらしく、MPを1だけ与えてみると魔動馬は4歩だけ進んで止まった。どうやらMP1につき4歩進むらしい。

「ある程度まとめて与えておいた方が移動する時便利そうだな、なら先にMPを1000与えてみるとどうなるかな?」

早速MP1000を与えてみると、馬は先程の2倍のスピードで駆け足で進み始める。

「こうなってくると、手持ちのMPを全部与えた場合どうなるかも調べてみるか。どうせ10秒でMP全快するし」

先程、係員から言われた事をすっかり忘れていたウィルがMP約52万を与えてみた。MP1000で2倍のスピードになるのに更に520倍の量のMPを与えればどうなるか?ウィルは自重しなかった罰を受けた。

「うわああああああ!?誰か止めて~!!」

魔動馬は通常のおよそ1040倍ものスピードで走る暴走状態となりウィルは馬にしがみ付くだけで精一杯になる。それでもアーレッツに到着するまでに何とかスピードを調節する方法も見つかったので町のどこかに衝突して止まるオチをしなくて済んだ。

魔動馬を保管庫に入れてからアーレッツの市場に向かったウィルは、買い物をしている住人に声を掛けて馬車を売っている店を訪ねる事にした。

「あの~すいません?」

「どうかしたのか?」

「1頭の馬を繋ぐタイプの馬車を探しているのですが、売っている店をご存知ではありませんか?」

「馬車なら目の前の細い通りを進んで突き当りを右に曲がれば、メドルの爺さんの店が在るぞ。多少値が張るかもしれないが結果的にきっと安い買い物をしたと思える筈だ」

「そこの細い通りを進んで突き当りを右ですね、どうも有難うございました!」

ウィルは礼を言うと住人が紹介してくれたメドルの店へ向かう、入り口は何やら怪しい雰囲気だったが中に入ってみると思ったよりも綺麗に整理されていて色んな馬車が置かれていた。

「いらっしゃい、今日はどんな馬車をお探しかな?」

「馬車の知識がほとんど無いので一緒に探して欲しいのですが、馬1頭で引くタイプで人が4人位まで乗れて横になって寝られる雨風も凌げる馬車って有りますか?」

「1頭で4人が十分寝られるサイズを引かせるのか?有るには有るが、馬もそれなりに優秀な奴じゃないと引いて進む事は出来ないが大丈夫かい?」

「それなら多分大丈夫です、引いてくれる馬はコレなんで」

そう言いながらウィルはメドルの前に魔動馬を出した。

「ほ~こりゃ魔動馬じゃないか!イスタブのダンジョンをクリア出来る奴が減った所為か最近見かけてなかったがコイツなら何も問題無いな。普通の馬車よりも高くなってしまうがお勧めのが有るよ」

メドルに1台の馬車の前まで案内された、やや細長い木製で黒塗りの馬車だが中に入ってみると天井も高く居住性も良かった。

「普段乗って移動する際は両側をベンチの状態にして座り、いざ寝る時はベンチの背もたれを横にずらせば1人分のベッドに早変わり。更に窓の上の板を倒す事でもう2人分の寝床も確保出来る仕組みだ」

「ちなみに値段は幾らかな?」

「このクラスの馬車になると金貨50枚になってしまうが払えそうかい?」

「あ、それなら今手持ち150枚ほど有るから大丈夫です!」

ウィルは保管庫から金貨50枚を取り出すとメドルに渡した。

「まいどあり!これでこの馬車はお前さんの物だが御者は用意出来ているのかい?」

「御者?とりあえず自分で手綱を握ろうと思っていたんだけど」

「御者は雇っておいた方が良いよ、もし賊達に襲われた時に馬を操縦するだけじゃ無抵抗と一緒だ。確か金貨も残り100枚近く有る筈だよな?」

「そうだけど?」

「ならば、純粋な御者を雇うよりも奴隷を1人買っちまった方が安いかもな。中には馬の扱いだけでなく多少剣や魔法の腕も立つのも居るから」

メドルから奴隷市場の場所を聞くと、馬車の受け取りは翌日にして御者になってくれそうな奴隷を1人買う事にした。

(奴隷とは言っても、すぐに解放するから旅の仲間を見つける意味合いの方が大きいかな?)

ウィルは軽い気持ちで考えていたが、サチには及ばないが運命の相手に近い存在が待っていようとは思ってもいなかった。
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