スキルメーカー ~運命を変えた非常識なスキル~

いけお

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第12話 後始末と心のケア

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「ウィル君、被害者の女性達を一体何時治療するつもりなんだ!?」

ジェイクが苛立ちを隠せずにギルドの奥の部屋でウィルに詰め寄る。

「とりあえずあの連中の裁判結果が確定してからですね」

あの連中とは当然アズシエル達だが今回の件は想像以上に根が深かった。娼館内の捜索で顧客リストが見つかり、誘拐された被害者と知りながら己の性的欲求を満たす為に黙認していた金持ちや役人などが芋づる式に捕まった。そして裁判当日、アズシエルは勿論だが雇われていた2人の騎士や荷物運び達、娼館の運営にも携わっていた屋敷の使用人も含め悪質と判断された者25人は全員死罪が言い渡され即日執行された。

死罪となった者は通常広場で執行される様子を公開されるのだが、今回は25人と人数も多く1人の執行人に負担を押し付ける訳にはいかないので執行場所を6ヶ所に分けて非公開で行う事が決まった。そしてウィルも執行人の1人に選ばれ4人の死刑を執行する事となった。

「本来ならば引き受けたくも無いと思うが、罪人を処刑する仕事をして生活している者も居る事を理解して欲しいと思い指名させてもらった。罪人の血に塗れた手で家族を養っていくのは並大抵な覚悟では決して出来ない。だがこれも冒険者に秘密裏に依頼される仕事の1つだ、それと君だけでなく俺も別の場所で執行人となる事が決まっている。あと済まないが俺達2人の執行を引き受けた報酬だが全て助ける事が出来なかった女性達の遺族に渡そうと思う」

ジェイクにはこの様に説明された、冒険者はモンスターを倒したり悪事を働いている人を捕らえる手伝いもしたりするが、捕らえた人の最後の後始末はこれまで見て見ぬ振りをしてきた。だが今後は何らかの形で後始末にも関わる様にしていく方針らしい。ウィルはジェイクの方針に賛成はしなかったが反対もしなかった。誰かがこの仕事をしなければならない、冒険者はただ華々しい道を歩んでいる訳では無い事を知る意味ではその後の人生の糧になるだろう。執行場所に案内されたウィルはこれから処刑する4人を見て、後始末の意味を深く考えさせられた。

アズシエル、マクスハイト、タイトスの3人と初めて見る顔だが憲兵隊の副長だそうだ。4人は目隠しの上猿轡をさせられ身体を固定されていた。しかし、4人とも死にたくない為必死に首を落とされない様に振り続けていた。

(首を落とされなくても、胴体を切断されれば同じ事なのに最早そんな事すら考える余裕も無いのか)

ウィルは正直見苦しいと思えてきた、何人もの女性を誘拐し薬漬けにして娼婦として無理やり働かせてきた。女性以外では殺されて金品を奪われた者も居る。なのに、潔く刑に服そうとせずに少しでも生き延びようとする4人の態度を見て無言で刑を執行する事を決めた。

まずは副長の首を落とす、幾ら振り回していても首の根元は動かない。すぐ隣からゴトッと何かが落ちる音がして更に何か液体がポタポタ垂れる音を聞いて残りの3人は処刑が始まった事を悟った。

「むぐぅ!!うぅ!?」

命乞いの言葉を言っているのだろうか?タイトスは何とかして目線を合わせ同情を買おうと首を横に向けた時に動きが止まりその瞬間に首を刎ねられた。また1つ首が落ちる音を聞いて、マクスハイトは己の最期を受け入れた様で首の動きを止めた。それを見逃さずウィルはマクスハイトをすぐに楽にしてやった。だが最後まで残った1人、アズシエルだけは未だに首を振り回し1秒でも長く生き延びようともがいていた。

ウィルは一旦その場を離れ検死官に訪ねた。

「死刑は必ず首を刎ねないといけないのかな?」

「死を与えられれば、残虐な行為をしない限り多少は黙認されます。手足等を切り刻んだりするのは駄目です」

「例えば・・・これは許されるのかな?」

検死官にこれから行う処刑方法について確認してみる。

「この主犯格の男に対してのみでしたら、許されるでしょう。奪われた幾つもの命の重さの分だけ死への恐怖を味わうべきですから」

検死官の許可を得たので、ウィルは再びアズシエルの元へ向かう。近付いてくる足音を聞いてアズシエルはまた首を振り出したがウィルは頭を押さえつけると目隠しを外した。アズシエルはウィルの顔を見た瞬間に驚いたが横を向き首の無い3人の死体を見て暴れ始めた。

「見苦しいぞ、アズシエル。検死官から許可を頂いた、お前は首を刎ねずに死の恐怖を長い時間味わう方法に切り替える」

そう言い放つと、アズシエルの手首の動脈に軽く傷を付けた。痛みに思わず涙を見せたアズシエルだったがそれ以降何もせずにじっと見ているウィルの態度に戸惑った。だが、5分程経っても手首から少しずつ流れ出す血が止まらない事に気付くとウィルが何をしたのかを理解し顔面蒼白になった。そう、ウィルは斬首では無く失血による処刑に変えたのだ。

徐々に重くなる身体と遠くなっていく意識、近付く死への恐怖をアズシエルは誰よりも長く味わいながら死んでいった・・・。後始末を終えてギルドに戻るとジェイクがウィルを待っていた。

「お疲れさん、今までこの後始末を1人で背負ってきた冒険者が居る。処刑した罪人達の目が夜な夜な夢の中に出て気が狂いそうになった事も有ったと言っていた。この街には誰にも気付かれずそうやって家族と共に暮らしている者が居るのを忘れないでやってくれ」

「分かったよ、冒険者はただモンスターを倒すだけじゃない。忌み嫌われる依頼さえも引き受けてくれる者が居るからこそ華々しい活躍が出来る事が理解出来たよ」

「分かって貰えた様で何よりだ、ところでこの前言っていた被害者女性を治療するってのは何時やるんだ?」

「これから、すぐに行います」

ウィルはジェイクと共に被害者の女性達が治療を受けている施設に向かった、アズシエル達の裁判結果を待ったのは結果が出る前に治療してしまうとアズシエル達の名を聞いて誘拐されていた間の出来事を思い出し自死を選んでしまう可能性が有ったからだ。薬漬けの状態を続けさせていた事に物凄く罪悪感を覚えたが、彼女達には絶対に幸せになって貰わないと不幸と帳消しにはならない。だから、そんなスキルを【真実の質疑応答】を消して既に創り出してあった。



スキル名 【心の傷を癒す光】

スキルLV 1(効果範囲5m)

効果 【完治の光】の補助スキル、【完治の光】を使用した際に身体の怪我以外で精神にも傷を負っている者が居た場合発動。日を追う毎に精神に傷を負った出来事の記憶は消え去り、更に共に寄り添い幸せを分かち合う運命の存在と巡り会える。

備考 精神に与えられた傷が深い者又は長い期間与えられてきた者ほど早く運命の存在が現れる。




完治の光と併用可能で、不幸な出来事の記憶は徐々に消えていき運命の人と巡り会う偶然を装った必然も起きる。これで被害者の女性もきっと救われるだろう。

(このスキルをカサッポに居た頃に使えば、俺の運命の人とも出会えてたかな?)

ウィルは何気無くそんな事を考える、カサッポでスライムを倒せず住人に馬鹿にされ続けた生活はウィルの心を長く傷付けていた。このスキルにはウィルのささやかな願いも含まれている。

被害者の女性達が治療を受けていたのはシェルナーグにある教会だった。神聖魔法は神の御心の力によって傷を癒し死者の魂を天へ導いたりする物だが神に導かれた者でしか覚える事が出来ず、教会内でも習得出来た者は少ない。

教会に入るとウィルは早速被害者の女性達を集めた、そしてこれからの人生が幸せになる事を願いスキルを使う。

「完治の光!」

白い光が被害者の女性達を包み込むと、肉体的な怪我と薬漬けとなった状態異常等を癒し誘拐される前の清らかな身体に戻った。そして次にウィルの頭の中にアナウンスが流れ始める。

【精神に傷を与えられた者、長い間心を傷付けられた者が居る為【心の傷を癒す光】を追加発動します】

ウィルを中心にして、更に透明に近い光が重なり合う。心が温まる何かをウィルも感じていた。光が消えると被害者の女性達は皆正気に戻っていた、すぐに戻さなかった事を心の中で詫びながらウィルはジェイクと見つからない様にそっと教会から出ようとした。

「ウィル?もしかして、そこに居るのはウィルなの!?」

聞き覚えのある声がしたので振り返るとそこには

「やっぱりウィルだ!ルトの村で見送ってから結構日数が経っていたのに、まさかこんな所で再開出来るとは思わなかったわ」

「・・・サチ」

ルトの村で弟を助け別れた筈のサチが何故か修道服を着て、ここシェルナーグの教会に居たのだった。
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