スキルメーカー ~運命を変えた非常識なスキル~

いけお

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第10話 待ち伏せ作戦開始

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「何、それは本当か!?」

リンザから急いで戻ってきたウィルの報告を聞いてジェイクは愕然とした、最近シェルナーグとリンザの間で行方不明者が出るという連絡を受け一応警戒はしていたのだが犯人を捕まえるまでには至っていなかった。だが、ウィルの報告を全て信じるとこの件の裏にはこの街に住む下級貴族が関与していた事になる。

「それで盗賊は次の受け取りの日時を教えてくれたのか?」

「うん、一昨日の日付から換算すると8日後だね。盗賊達のアジトで待ち伏せする事も可能だよ」

「分かった。なら、急ぎ街に居る冒険者達に召集を掛けようじゃないか」

「待った!出来れば少人数で行動した方が良いと思う。急に街中が騒がしくなれば貴族達も警戒して受け取りに来ない可能性も有るから動き出すなら7日後、雇われている騎士達が街を離れたのを確認してからがいいんじゃないかな?」

ジェイクは、ほんのわずかな間考える素振りを見せたがすぐに返事を返してくれた。

「君の言う通りだ、主人を護衛する筈の騎士が2人も任務を放棄して街を出る事自体不自然だからな」

「あと騎士達を捕らえても、貴族が騎士に責任を擦り付けて身の安全を図る可能性も捨てきれないからその対策は俺の方で考えてみます」

「ほとんど君に丸投げになってしまうが、よろしく頼む。冒険者が悪事に加担しているなんて、とんだ恥さらしだ!」

「待ち伏せの件ですが、俺とジェイクさんの2人だけで行くのはどうですか?オークの残党がまだ周辺に潜んでいないかルトの村への道を調べてみるとか言って。リンザ方面とは別方向に出たと思えば警戒心も多少は緩むでしょう」

ジェイクは感心した様に何度も頷いた。

「確かに騎士を相手に並みの冒険者が挑んでも勝ち目は無いが、君と俺の2人だけなら隠れるのも簡単だし万が一戦いになっても負けないだろうしな」

「それじゃあ、市場で水と食料を買い込んできます。その時に2人でルトに向かうと話しておけば、住人の口伝で貴族の耳にも入るでしょう」

「抜け目無いな君は、それなら今回の待ち伏せで使う水と食料の費用はギルドで負担しようじゃないか。ただ2人で持っていけるのは3日分位が限界だから途中で誰かに運んでもらうとするか」

「あ、それなら大丈夫ですよ。20日分位は余裕で保存出来ますから」

ウィルはジェイクの目の前で来客用のイスやテーブルを保管庫に入れたり出したりしてみせた、目の前に有った物が出たり消えたりするのを見てジェイクは腰を抜かしそうになった。

「ウ、ウィル君!これは一体何なんだね!?」

「これは俺しか持っていないスキルで携帯保管庫と言います。水や食料も入れておけば何時までも腐ったりしないので便利ですよ」

「あ、ああ、そうだな」

「とりあえず、12日分の代金をください。捕らえた騎士を街まで連れ帰るのに水と食料が余計必要になりますから」

「今、用意する。少し待ってくれ」

ジェイクは奥のテーブルから金貨を10枚取り出した。

「これで出来るだけ節約して買う様に。残った金額の全てはオークから街を救ってくれた事に対する君への礼金だ」

断るのはジェイクの顔に泥を塗ってしまうから、素直に金貨10枚を受け取った。そして市場で安い露天を探しながら、ジェイクとしばらく街を出る事を広めて回った。翌日準備が整ったので2人でギルドの建物から出て行こうとした時、ジェイクは受付の女性に声を掛けていた。

「それじゃあ、打ち合わせ通りに頼んだぞ」

「分かりました、ジェイクも気を付けて」

「心配する必要は無い!こっちにはウィルも居るんだからな!?」

ギルドの建物を後にすると、真っ直ぐルトに繋がる道へ向かった。途中、背後からウィル達2人の様子を伺う2人組が付いてきているのに気が付いた。

「ジェイク、後ろ」

「ああ、振り返って顔を確認する事は出来ないが十中八九アズシエルの野郎が雇った騎士だろう。俺達が本当にルトに向かうのか確かめようとしているんだろう」

「仕事熱心なのは良いんだけど、悪事まで熱心に手伝っちゃ本末転倒だよね」

「全くだ、でも捕縛されれば最悪死罪も有り得るから後戻り出来なくなっているのかもしれないな」

そこら辺の事情は正直どうでも良い、受け取りに行った際にこれまでにも攫われた女性が何人も居た筈だ。だが、この騎士達は助けようともしなかった。罰せられるのは当然だ。

「受け取りの日程も有るから、本気でルトまで付いてくる事は無い筈なんだがな」

ジェイクは騎士達がルトまで同行するんじゃないのか心配になっていた、実際の所は街の門の所でウィル達の姿が見えなくなるのを確認しただけで引き返していたが・・・。

「それなら問題無いですよ、騎士達は門の所から引き返してみたいですから」

「何でそんな事が分かるんだ!?」

ジェイクが興味深そうに聞いてくるので仕方なくMAPを見せてあげた。今回は騎士達に目印を付けて赤い点でいつでも表示される様に細工した。騎士達の目が完全に離れた事をMAPで確認するとウィル達はそのままシェルナーグの外周を回る様に迂回して盗賊達のアジトへ向かった。2日後、アジトに着いたウィルとジェイクはまず奥に残してあった盗賊の死体を片付ける事にした。野犬か何かが死肉の臭いに引かれて来ていたのか喰われた形跡が残っていた。

「シェルナーグとリンザの途中の森の中にアジトが隠されていたとはな。道からだいぶ外れているから過去の捜索で見つからなかったみたいだ」

ジェイクの話からすると、以前にもこの森付近を捜索した事が有ったらしい。その時に発見されていれば、それ以降の被害者は出なかったかもしれない。ジェイクの顔に悔しさが滲み出ていた。

「犠牲者は俺が助けたので最後だよ、これから考えるべき事は未だに貴族に玩具にされているかもしれない人達をどうやって助けるかだ」

「そうだ、そうだよな。落ち込んでいる暇が有ったら、1人でも多く助ける方法を考えないとな」

アジトの奥で待ち伏せを始めてから2日、そろそろ何らかの動きが有っても良い頃合だ。ジェイクと受け取りの日付前からここで待ち伏せしている理由の1つに2人が街から離れている隙に早めに受け取りを済ませて屋敷に連れ込もうとするかもしれないと思ったからだ。そして、もし貴族が騎士達に責任を擦り付けようとしても出来ない様にするスキルは既に作ってある。このスキルを使うのは今回限りのつもりだ、正直自分が1番やりたくない方法だが衆人環視の前で貴族の罪を暴く為には仕方なかった。

その日の晩、2人で夜食を食べているとジェイクがウィルに質問してきた。

「そういえば、聞くのを忘れていたがどうしてリンザの村へ行こうとしたんだい?」

「ははは・・・実はリンザの米が美味いのはカサッポでも有名でしたから、折角だから保管庫に大量に買い込んでおこうと思い向かってました」

「君らしいな・・・カサッポとは違いシェルナーグの住人達から勇者の様に扱われるとまだ気恥ずかしいか?」

「!?」

「済まないが君の経歴を少しだけ調べさせて貰ったよ、ついこの間までスライム1匹さえ倒す事が出来なかったとはね」

「俺を脅すつもりですか?」

「いや、逆だ。今回の件が片付いたらすぐにでもカサッポに戻り母親を連れて国を出るんだ。君の勇名はあと半月もしない内に国王の耳にも届いてしまう。そうなったら国王はどんな手段を使ってでも君を騎士として手に入れようとするだろう」

「俺が断ればそれで済む話では無いのですか?」

「断れない様にするのが王だ、君が気付かない間に強制的に母親を王都に移住させて監視下に置くとか平気でするかもしれない」

「そんな事をしたら、王に忠誠なんて誓える訳無いじゃないですか!?」

「忠誠心など求めていない、王にとっては自分の命令通りに動く駒でさえあれば良いのだから。仮に断った場合は王の騎士になれという命令に背いた反逆者として母親も連座させて捕らえた上で再度母親を助けたければ騎士になれと言ってくるだろう」

ジェイクは俺と母ちゃんの事を心配してくれている、けれど他の国に仮に移ったとしても結局は同じ様な事が起きるだろう。為政者は力を誇示したがる生き物だから。

「ジェイク、心配してくれるのは本当に有り難いと思うし感謝しています。だけどきっと他の国に移り住んでも同じ様な事がきっと起きます。だから、この件が終わったら俺は王に自分の家族に手を出したら痛い目に遭うって事を先に理解させようと思います」

「どうするつもりなんだ!?」

「誰も傷つける事無く、俺の力を見せ付けます」

「力を見せ付ける・・・か。自分の力に絶対の自信が無いと出てこないセリフだな、これ以上説得するのは無駄だろうから止めておくよ」

「ごめんなさい、折角のご好意に対して」

「優秀な冒険者が王に無理やり騎士にさせられる場面を見たくなかっただけだ、気にしなくていい」

2人の間で会話が途切れ静寂に包まれる、しかしその静寂はアジトの外から聞こえてきた人の声でかき消されてしまった。

「おい俺だ、マクスハイトだ。アズシエルが今回だけは早目に受け取りを済ませたいと言うので荷物運びも連れてきた。捕まえている女を早くここまで持ってくるんだ」

どうやらアズシエルは上手く騙されてくれた様だ、既にこの世に居ない盗賊達から物や人を受け取りに来た騎士達は背後から忍び寄るウィル達に全く気付いていなかった。
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