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第4話 一時の別れ
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「あの祈祷師はサチ達家族に悪い事をしてしまったと謝罪してくれたよ、それと故郷の家族にお金を送っていたらしくて残りがこれだけしか無い事も詫びていた。最後に村中に迷惑を掛けて住めなくなったから、このまま村を出て行くと言っていたよ」
「そうですか、あの人にも多少は人の心が残っていたようですね」
サチはウィルの説明をそのまま信じてしまった。ウィルが嘘を言う筈が無いと信頼しているからこそ、その言葉を鵜呑みにする。だが、サチの父親コウはウィルがサチの為に嘘を言ってくれている事に気付いていた。
(娘が傷つかない様に、本当は言いたくない嘘を言ってくれるなんて。有難うウィル君)
その日の晩はウィルはサチ達家族の温かい歓迎を受けた、サチの弟ラックには命の恩人だと感謝されサチの母親ツキには娘をぜひ嫁にと押し切られそうになって困惑するが明るい笑顔の戻った家族の姿に助けた甲斐が有ったと感慨に耽っていた。
夜遅くに目が覚めてしまったウィルは、静かに家を出て外の空気を吸っていた。そこへコウがやってくると、ウィルに杯を渡し酒を注ぐ。
「まあ、飲め。軽く飲めばすぐに寝付ける」
「有難うございます」
ウィルとコウは互いに酒を酌み交わす、その影ではウィルが居ない事に気が付いたサチが2人の様子を見守っていた。
(2人は何を飲みながら話しているのかしら?)
サチはそっと聞き耳を立てる。
「ウィル君、サチの為に言いたくも無い嘘を言ってくれて有難う。お陰で娘が傷つかずに済んだよ」
(!?)
「やはり、バレちゃってましたか?」
「あの様な男が謝罪などする訳も無いし、金を返す訳も無い。君はあの男がお金は家族に送ったと言っていたが本当は酒と女に使い込んでいたんじゃないのか?」
「おっしゃる通りです、本来であれば真実を話すべきなのですが事実を言えばサチさんがきっと傷つくと思ったので嘘をつく事にしました」
(私の為に嘘をついていたの!?)
サチが真実を知って動揺する中、静寂が周囲を包み込む。そして静寂を消す様にコウからウィルに質問を投げかけた。
「ウィル君、君はサチの事をどう思っているのかな?」
「どうって?」
「君は我々家族にとって命の恩人だ、君がサチを嫁に望むのなら誰も反対する者は居ないだろう。サチも君の事を多少なりとも意識している様だしね」
(父さん、何を言っているの!?)
「サチさんは・・・とても可愛いと思います。こんな可愛い人を嫁に貰えるなら物凄く幸せでしょう・・・ですが」
「ですが?何か娘に不服でも有るのかい!?」
「不服なんて有りませんよ!彼女ではなくて俺自身が問題なんです」
「君自身が問題とはどういう事だ?」
「実は俺、数日前までスライム1匹倒せない最弱の冒険者だったんです」
「はあ!?」
「それが今のステータスを教える事は出来ませんが、竜に近いレベルのモンスターまで1人で倒せる強さを手に入れてしまいました」
「にわかには信じられないよ」
コウの言う事は至極当然だ、なのでウィルは真摯に質問に答えた。
「俺の得た力は異質であり異常です、この力を欲して利用しようとする輩がきっと出てくる。その時彼らは拒否出来ない様に身近な人間を人質に取るでしょう。サチさんを俺なんかの為に巻き込みたくは無い、だからこのお話は聞かなかった事にしておきます」
「そうか・・・君なりに娘の事を考えていてくれるのだね。唐突に質問してしまって済まなかった、寒くなってきたから家に戻って寝る事にしよう」
「はい」
ウィルとコウが家の中に戻っていくのを見ながら、サチは己の無力さを実感していた。
(今の私ではウィルさんの足手まといにしかならない、ウィルさんの隣を一緒に歩きたいと少しでも願うなら行動を起こさないといけない!)
翌朝、ウィルはサチ一家に見送られてルトの村を出発した。徐々に離れていく村と手を振るサチ達を見ながらウィルは別れ際に言っていたサチの言葉を思い出していた。
「ウィルさん、もしも私があなたの隣に立てるだけの力を身に付ける事が出来たら仲間にして頂けますか?」
サチの夢を壊すには忍びなくその時は曖昧ながらもこう答えていた。
「力じゃなくても構わない、君の適正に合った役割を理解し会得出来たと認める事が出来れば喜んで歓迎するよ」
「本当ですね!?では私が追い付く時までしばらくお別れです」
サチの目はきらきらと輝いていた、その澄んだ眼差しがウィルにはとても眩しく見えた。そして村の方ではウィルを見送りながら、コウが娘に静かに尋ねていた。
「サチ、お前はウィル君の後を追いかけるつもりなのかい?」
「はい、実は私は昨晩の父さんとウィルさんの会話を聞いてしまったの」
「そうか、お前には辛い現実だと思う。済まなかった」
「父さんが謝る事じゃないわ、それにウィルさんの気持ちも理解出来るから。ただ隣に居たいと思うだけでは駄目、それでは彼の足枷にしかならない。だから、これから私はさっきウィルさんが言ってくれた適正に合った役割を見付けようと思う。そして必ず会得して彼の所へ行くわ」
娘は親の手を離れて知らぬ間に大人へと成長していた、娘をたった1日で変えてしまったウィルという若者にわずかに嫉妬心を抱きつつもコウは娘の行く末に幸有らん事を願う。ウィルは自分の運命だけでなく、1人の娘の未来の運命までスキルの力によって変えていたのだった。
「次はどんな出会いや出来事が待っているのかな?」
ウィルは期待に胸を膨らませて道を歩く、そしてあの澄んだ眼差しを見せてくれた娘と一緒に歩ける日が来る事を心の底で願っていた。2年後、サチの願いは成就する。希代の神聖魔法の遣い手としてサチは国内にその名を轟かせウィルにパートナーとして認められるのだ。2人が何処で運命的な再会を果たすのかはいずれ語る機会が来るだろう。
冒険者のウィルの名が国中に広まったのはこのルトの村での出来事からわずか3日後、ルトの村から更に南の商業都市シェルナーグを訪れた際に立てた功績がきっかけだった。この日、小国アルストの中でも有数の商業都市に辿り着いたウィルの目の前に広がっていたのはオークの大群に襲撃され壊滅寸前にまで陥ったシェルナーグの姿であった。
「そうですか、あの人にも多少は人の心が残っていたようですね」
サチはウィルの説明をそのまま信じてしまった。ウィルが嘘を言う筈が無いと信頼しているからこそ、その言葉を鵜呑みにする。だが、サチの父親コウはウィルがサチの為に嘘を言ってくれている事に気付いていた。
(娘が傷つかない様に、本当は言いたくない嘘を言ってくれるなんて。有難うウィル君)
その日の晩はウィルはサチ達家族の温かい歓迎を受けた、サチの弟ラックには命の恩人だと感謝されサチの母親ツキには娘をぜひ嫁にと押し切られそうになって困惑するが明るい笑顔の戻った家族の姿に助けた甲斐が有ったと感慨に耽っていた。
夜遅くに目が覚めてしまったウィルは、静かに家を出て外の空気を吸っていた。そこへコウがやってくると、ウィルに杯を渡し酒を注ぐ。
「まあ、飲め。軽く飲めばすぐに寝付ける」
「有難うございます」
ウィルとコウは互いに酒を酌み交わす、その影ではウィルが居ない事に気が付いたサチが2人の様子を見守っていた。
(2人は何を飲みながら話しているのかしら?)
サチはそっと聞き耳を立てる。
「ウィル君、サチの為に言いたくも無い嘘を言ってくれて有難う。お陰で娘が傷つかずに済んだよ」
(!?)
「やはり、バレちゃってましたか?」
「あの様な男が謝罪などする訳も無いし、金を返す訳も無い。君はあの男がお金は家族に送ったと言っていたが本当は酒と女に使い込んでいたんじゃないのか?」
「おっしゃる通りです、本来であれば真実を話すべきなのですが事実を言えばサチさんがきっと傷つくと思ったので嘘をつく事にしました」
(私の為に嘘をついていたの!?)
サチが真実を知って動揺する中、静寂が周囲を包み込む。そして静寂を消す様にコウからウィルに質問を投げかけた。
「ウィル君、君はサチの事をどう思っているのかな?」
「どうって?」
「君は我々家族にとって命の恩人だ、君がサチを嫁に望むのなら誰も反対する者は居ないだろう。サチも君の事を多少なりとも意識している様だしね」
(父さん、何を言っているの!?)
「サチさんは・・・とても可愛いと思います。こんな可愛い人を嫁に貰えるなら物凄く幸せでしょう・・・ですが」
「ですが?何か娘に不服でも有るのかい!?」
「不服なんて有りませんよ!彼女ではなくて俺自身が問題なんです」
「君自身が問題とはどういう事だ?」
「実は俺、数日前までスライム1匹倒せない最弱の冒険者だったんです」
「はあ!?」
「それが今のステータスを教える事は出来ませんが、竜に近いレベルのモンスターまで1人で倒せる強さを手に入れてしまいました」
「にわかには信じられないよ」
コウの言う事は至極当然だ、なのでウィルは真摯に質問に答えた。
「俺の得た力は異質であり異常です、この力を欲して利用しようとする輩がきっと出てくる。その時彼らは拒否出来ない様に身近な人間を人質に取るでしょう。サチさんを俺なんかの為に巻き込みたくは無い、だからこのお話は聞かなかった事にしておきます」
「そうか・・・君なりに娘の事を考えていてくれるのだね。唐突に質問してしまって済まなかった、寒くなってきたから家に戻って寝る事にしよう」
「はい」
ウィルとコウが家の中に戻っていくのを見ながら、サチは己の無力さを実感していた。
(今の私ではウィルさんの足手まといにしかならない、ウィルさんの隣を一緒に歩きたいと少しでも願うなら行動を起こさないといけない!)
翌朝、ウィルはサチ一家に見送られてルトの村を出発した。徐々に離れていく村と手を振るサチ達を見ながらウィルは別れ際に言っていたサチの言葉を思い出していた。
「ウィルさん、もしも私があなたの隣に立てるだけの力を身に付ける事が出来たら仲間にして頂けますか?」
サチの夢を壊すには忍びなくその時は曖昧ながらもこう答えていた。
「力じゃなくても構わない、君の適正に合った役割を理解し会得出来たと認める事が出来れば喜んで歓迎するよ」
「本当ですね!?では私が追い付く時までしばらくお別れです」
サチの目はきらきらと輝いていた、その澄んだ眼差しがウィルにはとても眩しく見えた。そして村の方ではウィルを見送りながら、コウが娘に静かに尋ねていた。
「サチ、お前はウィル君の後を追いかけるつもりなのかい?」
「はい、実は私は昨晩の父さんとウィルさんの会話を聞いてしまったの」
「そうか、お前には辛い現実だと思う。済まなかった」
「父さんが謝る事じゃないわ、それにウィルさんの気持ちも理解出来るから。ただ隣に居たいと思うだけでは駄目、それでは彼の足枷にしかならない。だから、これから私はさっきウィルさんが言ってくれた適正に合った役割を見付けようと思う。そして必ず会得して彼の所へ行くわ」
娘は親の手を離れて知らぬ間に大人へと成長していた、娘をたった1日で変えてしまったウィルという若者にわずかに嫉妬心を抱きつつもコウは娘の行く末に幸有らん事を願う。ウィルは自分の運命だけでなく、1人の娘の未来の運命までスキルの力によって変えていたのだった。
「次はどんな出会いや出来事が待っているのかな?」
ウィルは期待に胸を膨らませて道を歩く、そしてあの澄んだ眼差しを見せてくれた娘と一緒に歩ける日が来る事を心の底で願っていた。2年後、サチの願いは成就する。希代の神聖魔法の遣い手としてサチは国内にその名を轟かせウィルにパートナーとして認められるのだ。2人が何処で運命的な再会を果たすのかはいずれ語る機会が来るだろう。
冒険者のウィルの名が国中に広まったのはこのルトの村での出来事からわずか3日後、ルトの村から更に南の商業都市シェルナーグを訪れた際に立てた功績がきっかけだった。この日、小国アルストの中でも有数の商業都市に辿り着いたウィルの目の前に広がっていたのはオークの大群に襲撃され壊滅寸前にまで陥ったシェルナーグの姿であった。
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