スキルメーカー ~運命を変えた非常識なスキル~

いけお

文字の大きさ
上 下
4 / 58

第4話 一時の別れ

しおりを挟む
「あの祈祷師はサチ達家族に悪い事をしてしまったと謝罪してくれたよ、それと故郷の家族にお金を送っていたらしくて残りがこれだけしか無い事も詫びていた。最後に村中に迷惑を掛けて住めなくなったから、このまま村を出て行くと言っていたよ」

「そうですか、あの人にも多少は人の心が残っていたようですね」

サチはウィルの説明をそのまま信じてしまった。ウィルが嘘を言う筈が無いと信頼しているからこそ、その言葉を鵜呑みにする。だが、サチの父親コウはウィルがサチの為に嘘を言ってくれている事に気付いていた。

(娘が傷つかない様に、本当は言いたくない嘘を言ってくれるなんて。有難うウィル君)

その日の晩はウィルはサチ達家族の温かい歓迎を受けた、サチの弟ラックには命の恩人だと感謝されサチの母親ツキには娘をぜひ嫁にと押し切られそうになって困惑するが明るい笑顔の戻った家族の姿に助けた甲斐が有ったと感慨に耽っていた。

夜遅くに目が覚めてしまったウィルは、静かに家を出て外の空気を吸っていた。そこへコウがやってくると、ウィルに杯を渡し酒を注ぐ。

「まあ、飲め。軽く飲めばすぐに寝付ける」

「有難うございます」

ウィルとコウは互いに酒を酌み交わす、その影ではウィルが居ない事に気が付いたサチが2人の様子を見守っていた。

(2人は何を飲みながら話しているのかしら?)

サチはそっと聞き耳を立てる。

「ウィル君、サチの為に言いたくも無い嘘を言ってくれて有難う。お陰で娘が傷つかずに済んだよ」

(!?)

「やはり、バレちゃってましたか?」

「あの様な男が謝罪などする訳も無いし、金を返す訳も無い。君はあの男がお金は家族に送ったと言っていたが本当は酒と女に使い込んでいたんじゃないのか?」

「おっしゃる通りです、本来であれば真実を話すべきなのですが事実を言えばサチさんがきっと傷つくと思ったので嘘をつく事にしました」

(私の為に嘘をついていたの!?)

サチが真実を知って動揺する中、静寂が周囲を包み込む。そして静寂を消す様にコウからウィルに質問を投げかけた。

「ウィル君、君はサチの事をどう思っているのかな?」

「どうって?」

「君は我々家族にとって命の恩人だ、君がサチを嫁に望むのなら誰も反対する者は居ないだろう。サチも君の事を多少なりとも意識している様だしね」

(父さん、何を言っているの!?)

「サチさんは・・・とても可愛いと思います。こんな可愛い人を嫁に貰えるなら物凄く幸せでしょう・・・ですが」

「ですが?何か娘に不服でも有るのかい!?」

「不服なんて有りませんよ!彼女ではなくて俺自身が問題なんです」

「君自身が問題とはどういう事だ?」

「実は俺、数日前までスライム1匹倒せない最弱の冒険者だったんです」

「はあ!?」

「それが今のステータスを教える事は出来ませんが、竜に近いレベルのモンスターまで1人で倒せる強さを手に入れてしまいました」

「にわかには信じられないよ」

コウの言う事は至極当然だ、なのでウィルは真摯に質問に答えた。

「俺の得た力は異質であり異常です、この力を欲して利用しようとする輩がきっと出てくる。その時彼らは拒否出来ない様に身近な人間を人質に取るでしょう。サチさんを俺なんかの為に巻き込みたくは無い、だからこのお話は聞かなかった事にしておきます」

「そうか・・・君なりに娘の事を考えていてくれるのだね。唐突に質問してしまって済まなかった、寒くなってきたから家に戻って寝る事にしよう」

「はい」

ウィルとコウが家の中に戻っていくのを見ながら、サチは己の無力さを実感していた。

(今の私ではウィルさんの足手まといにしかならない、ウィルさんの隣を一緒に歩きたいと少しでも願うなら行動を起こさないといけない!)

翌朝、ウィルはサチ一家に見送られてルトの村を出発した。徐々に離れていく村と手を振るサチ達を見ながらウィルは別れ際に言っていたサチの言葉を思い出していた。

「ウィルさん、もしも私があなたの隣に立てるだけの力を身に付ける事が出来たら仲間にして頂けますか?」

サチの夢を壊すには忍びなくその時は曖昧ながらもこう答えていた。

「力じゃなくても構わない、君の適正に合った役割を理解し会得出来たと認める事が出来れば喜んで歓迎するよ」

「本当ですね!?では私が追い付く時までしばらくお別れです」

サチの目はきらきらと輝いていた、その澄んだ眼差しがウィルにはとても眩しく見えた。そして村の方ではウィルを見送りながら、コウが娘に静かに尋ねていた。

「サチ、お前はウィル君の後を追いかけるつもりなのかい?」

「はい、実は私は昨晩の父さんとウィルさんの会話を聞いてしまったの」

「そうか、お前には辛い現実だと思う。済まなかった」

「父さんが謝る事じゃないわ、それにウィルさんの気持ちも理解出来るから。ただ隣に居たいと思うだけでは駄目、それでは彼の足枷にしかならない。だから、これから私はさっきウィルさんが言ってくれた適正に合った役割を見付けようと思う。そして必ず会得して彼の所へ行くわ」

娘は親の手を離れて知らぬ間に大人へと成長していた、娘をたった1日で変えてしまったウィルという若者にわずかに嫉妬心を抱きつつもコウは娘の行く末に幸有らん事を願う。ウィルは自分の運命だけでなく、1人の娘の未来の運命までスキルの力によって変えていたのだった。

「次はどんな出会いや出来事が待っているのかな?」

ウィルは期待に胸を膨らませて道を歩く、そしてあの澄んだ眼差しを見せてくれた娘と一緒に歩ける日が来る事を心の底で願っていた。2年後、サチの願いは成就する。希代の神聖魔法の遣い手としてサチは国内にその名を轟かせウィルにパートナーとして認められるのだ。2人が何処で運命的な再会を果たすのかはいずれ語る機会が来るだろう。

冒険者のウィルの名が国中に広まったのはこのルトの村での出来事からわずか3日後、ルトの村から更に南の商業都市シェルナーグを訪れた際に立てた功績がきっかけだった。この日、小国アルストの中でも有数の商業都市に辿り着いたウィルの目の前に広がっていたのはオークの大群に襲撃され壊滅寸前にまで陥ったシェルナーグの姿であった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 56

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...