異世界で運無し男が手に入れた小さな城と城下町

いけお

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城主1年目

6月その2 褒賞として小さな城と城下町を貰う

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『とりあえず、この国の王宮に転送させて頂いても良いですか?魔王が倒された事は既に王宮にも伝わっている筈ですから。そこで彼女の身の安全を保障させるのが良いかと思います』

ティアラがそんな事を言ってきたが、史男はこの世界について全く知らないので最初に聞いておく事にした。

「転送する前に、この世界の概要を教えてもらえないか?どの程度の数の国や宗教が有ってどれだけの種族が暮らしているかとか」

史男の問いかけにティアラやリンディスは何か拍子抜けした顔になった。

「あなたの居た世界では国が幾つも存在していたの?」

「うん、そうだけど・・・大小合わせて100以上」

「何故それだけたくさんの国が作れたのか逆に不思議に思えてくるわ」

「宗教や思想の違いだって有るし、俺の国じゃ全ての物に神様が宿っているなんて考え方も有る。生きていく上で与えてもらう全ての物に感謝しようって感じだな」

八百万の神なんて考え方は本当に特殊かもしれない、主神は基本万物の創造主で有り1人しか居ない筈だから。

『その様な考え方も有るのですね・・・時間も限られていますから話を戻させて頂きます。まず、この世界には国は1つしか存在しません。セントアース王国、それがこの世界を統べる国の名前です』

「あれ?じゃあ、魔王は国を持っていなかったの?」

『・・・・・』

ティアラは言い辛そうな顔でリンディスを見つめていたが、しばらくしてようやく口を開いた。

『お2人共気付かれていない様なので、申し上げておきます。先程あなたが倒されたリンディスさんの父上、つまり前魔王は前々魔王を倒した魔王討伐者なのです』

「なんだって!?」「なんですって!?」

『彼は魔族の置かれている現状を知り、魔族の住みやすい世界へ少しでも早く変える為に自ら恩恵を悪用して魔王となっていたのです。しかし、一領主に過ぎなかったので地方の小規模な反乱程度でしか認識されていないと思います』

「それじゃあ、勇者のクルーガー達は?」

『地方の反乱を鎮圧する為に結成された義勇兵みたいな扱いです。見事討伐出来た暁には爵位と領土が与えられますが、あなたが倒してしまったので討伐の褒賞を貰う事は出来ません。これまでに費やして消えた時間と仲間の命を無駄にしない為に反乱に参加した領民達を捕らえて差し出すつもりではないでしょうか?』

まるで王国が絶対的な支配者みたいな口ぶりだ、王という存在はそれ程偉いのだろうか?

「俺を王宮に転送するって言ってたけど、転送されたら俺は何か褒賞を貰えるって事なのか?」

『はい、これまでの慣例に則り男爵の地位に城と更地の城下町を下賜される筈です』

「更地の城下町って、もしかして1から町を作れって意味か!?」

『何しろ土地は広大で有り余っていますからね、空いている地に幾つも城と城壁だけ築いておいて後は何か有ればそれを褒賞として渡すだけです』

そんなに幾つも普段使わない城や城壁を築けるだけの人をよく集められるな。

「よくもまあ普段使わない城と城下町を作るのに人が集まるな?」

『魔王の反乱の際に捕らえられた領民達を働かせて作るのです、昼夜を問わず命を落とすまで・・・』

「ちょっと待て、そんな非人道的な事が許されるのかよ?」

『王国に反旗を翻したのですから、その場で処刑されないだけマシかと』

「淡々と話しているが、この世界の有り様は俺からすると異常だぞ。それに魔族はこの世界ではどんな扱いをされているんだ?」

魔王が倒されて逃げていった化け物達、領主が死んだのならば行く当てなど無い筈だ。

『彼らは王国の統治を脅かす反乱分子です、王国の統治に反発する者達は全て魔族として呼称されます』

叛徒とは呼ばないで魔族と呼称しているのか・・・それじゃあ、あの化け物達は一体何だったのだろうか?

『その娘1人位であれば、英雄の小さな戯れとして許されるかもしれませんがそれ以上の魔族を保護しようとは考えない様に。王国の他の城を攻めた時点で、恩恵を悪用されたとみなされます』

「他の城を手に入れる方法は攻めるだけなのか?」

『まあ、空いている城はたくさんありますので空城を王国から買い取る事は出来ると思いますよ。それなりの金貨は用意しないといけませんが・・・』

「あっ買う事は可能なんだ。じゃあ、何とかなりそうだ」

『何か悪い考えでもしているのですか?』

「恩恵を悪用したり、王国の他の城を攻めれば魔王に認定される。じゃあ、それさえしなければ王国側の方から攻める事も出来ないって意味だよな?何もしていないのに向こうから勝手に攻めてきたのなら反撃しても反旗を翻した事にはならないし」

ティアラが何やら考え込んでいる、俺は何も詐欺紛いの事は言っていないぞ。

『とりあえず、恩恵の悪用と自分達から攻めなければ問題有りません。一応、確認しておきますが何をするおつもりですか?』

「まずはこの国の王様とやらに会って、クルーガー達が捕らえた魔族の人達を全て自分の領民として引き取る。その上で魔族と蔑まれている人達が暮らしやすい地を増やしていく」

『そんな事が可能だと!?』

「城下町を発展させてその税収で他の空城を買っていけば領地が増える、それを繰り返していくだけさ!」



半ば呆れているティアラの力で王宮に送られた史男とリンディスは、王都の衛兵に囲まれながら謁見の間の前まで連れてこられた。その間に何度もリンディスを引き離そうとするが共生従者となっているので手出しは出来なかった。

「国王陛下が来られるまでここで待て」

それから30分近く立ったまま待たされた。微動だにしない衛兵達を尻目にあくびをしながらのんびりと待っていると、周囲の衛兵から一斉に睨まれるがそんな事は俺には関係無い。

「陛下が到着された、くれぐれも粗相の無い様に!」

衛兵が念押しすると、謁見の間の重い扉がゆっくりと開いていく。長い通路の両脇には武官や文官が並んでおり通路の先にはやたらと豪華な椅子に踏ん反り返っている偉そうな男が座っていた。どうやら、あれが国王の様だ。

国王の前まで進んでいくと、衛兵が軽く咳払いをした。歩きながら小声で説明を受けたのだが、宰相が『陛下の御前である頭が高い』と言われたら即座に跪拝しなければいけないそうだ。

「陛下の御前である頭が高い」

一斉に跪拝した衛兵とリンディス、しかし史男は跪こうとはしなかった。

「陛下の御前である頭が高い!控えぬか!?」

「悪いが俺は生憎と別の世界から来た人間で、この世界の住人じゃない。跪く理由は存在しない」

「口答えするか、この無礼者め」

「まあ、そこまでにしてやれ。我が王国に反旗を翻した魔王を討伐した勇敢なる者だ、下賎な者の多少の非礼も許せる度量は示さねばな」

嘲笑する国王とそれに倣う臣下達、力を解放すればこの場に居る全員をすぐに始末出来るのだが今は手の内を明かす訳にはいかない。国王の言質を取る為にも・・・。

「運那 史男、魔王討伐の功績に対しまずはウンナシ男爵の称号を授与する。これよりはフミオ・ウンナシ男爵と名乗る様に。また領地としてサイハテの城と城下町を与え、支度金として金貨1000枚を渡そう。拝領し次第、任地へ赴く様に」

「陛下、不躾ではありますがお願いがございます」

「許す、言ってみろ」

「有難う御座います、今回魔王と共に従軍していた魔族の者達が勇者のクルーガー達の手によって捕らえられているかと思います。それを領民として与えて下さい、私が面倒をみたいと思います」

謁見の間が喧騒に包まれた、罵声や非難の声が至る所から挙がる。しかし、国王が手を上げると一斉に静まり返る。

「魔族共には王国を騒がせた罰として、それに相応しいだけの労働という形で示して貰う必要が有る。残念だが、聞き入れる訳にはいかぬな」

「どうしてもですか?」

「くどい」

「そうですか・・・では自分はこれより魔王となりこの場に居る全ての者を殺す事にしましょう」

隣で話を聞いていたリンディスは仰天した、父である前魔王を殺した男が魔王を名乗ると言い出したのだから。

「貴様正気か!?これほどの人数が居る中で可能だと思っているのか?」

「そちらこそ分かっているのか?俺は今ステータス最大化の恩恵を受けている状態なんだぞ、この場に居る全員は殺せなくても国王から先に殺せる事をまだ気付けないのか?」

この場に俺と同じくステータスがMAXになっている者がどれだけ居るかは分からない、だが周囲の慌てようを見る限り俺の邪魔を出来る奴は居ないみたいだ。

「魔族の方達を領民として与えてもらえれば、別に王国と喧嘩するつもりは有りませんから彼らとのんびりと暮らしていきますよ」

「本当だな?」

「ええ、本当ですよ。ただし、こちらに落ち度が無いのにそちらから一方的に攻めてきた場合は領土を守る為の反撃だけはさせて貰いますよ本気でね」

「・・・・・分かった、魔族の者達をそなたの領民として与えよう。連れてゆくがいい」

「寛大な御言葉感謝に絶えません、つきましては王の直筆の念書も頂戴したく思います。文面は【フミオ・ウンナシが他の城を攻めた場合、それを反乱として見なす。ただし反乱を起こしていないにも関わらず他の領地から攻められた場合や領民が不当な扱いを受けた際は自衛の為の戦闘をしても構わない、戦闘地域は国内に限定する。この念書の効力はセントアース王国が続く限り有効で双方の了解無しに無効を宣言する事も侵略行為である】でお願いします」

フミオに言われるままの文面で念書を書かされる国王、この文面の意味する所は・・・

「ほれ、これで良いか?」

「はい、では早速任地に向け出立させて頂きます。行くぞ、リンディス」

「えっ!?は、はい!」

全ての恩賞を受け取ると足早に謁見の間を出て行くフミオとリンディス、この1枚の念書によってフミオの領地は誰も手が出せなくなった。

「リンディス、まずはクルーガー達と会って君の父上が守ろうとしてきた魔族の人達を解放しよう。」

「でも女神ティアラが言っていたではありませんか、こちらから攻めれば恩恵を悪用した事になり魔王と化すと。彼らの暴発を止めれる自信が私には有りません」

「大丈夫大丈夫、この念書を見せれば彼らも絶対に大人しくなるから」

「一体何故ですか?」

「こちらは他の城と書いてあるけど、国王側には領地と書いた。城の無い村などから派兵されても、反撃する事が可能だ。しかもだ戦闘地域は国内限定って事は世界中どこにでも兵を送り込めるのと同じ。王都ももちろん含まれる」

「あっ!?」

リンディスもようやく念書に書かれている意味に気付き始めた。

「今頃、謁見の間の中は大騒ぎだぞ。何しろ、双方の了解無しに念書の無効を宣言したら侵略行為とみなされるのだからな。俺が了解する訳無いから、これで魔族の扱いをされている人達も俺の領内に住む限り誰も虐げられずに済む」

父がやろうとしていた事を仇の男が別の形で代わりに行おうとしている、リンディスはこのフミオという男の事をもっと知りたいと思い始めた。

「・・・リン」

「えっ?」

「私の事は、これからはリンディスではなくリンと呼んで。その方が呼びやすい筈だから」

「分かったよ、リン。町作りは初めてだから任地に到着したら色々と教えてくれ」

「仕方ないわね、父様に負けない位の城主に育ててあげるから覚悟しておきなさい」

任地へ行く為に王宮を出たフミオとリンはまずクルーガー達の元へ向かった、そこでまず最初の戦闘が繰り広げられる事となる。
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