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水着回への序曲
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「隊員同士のさらなる連携を図るため、懇親旅行を行うことにいたしました」
「懇親旅行?」
学園長室に呼び集められた陸とクゥ、そしてウミの前で天照が変なことを言い始める。夏休みも近いとはいえ今はまだ一学期の真っ最中であり、学期末のテストも近い。そんな中で、懇親旅行など行えるはずもないのだ。
「学園長。そういう訳で明日から六人で三日間伊豆へ行きますので、旅行費用と宿泊場所を確保するように」
「明日からって姉上、コレは既に決定事項なのですか!?」
須佐之男が驚きあわてる。いきなり全員集めたかと思えば旅行すると言ったり、天照は結構強引な性格なのかもしれない。
「それから……そこの三人は午後の授業を欠席しても構わないので、鐘鳴市のショッピングセンターに行って水着を買ってきなさい。費用はすべて防衛隊で払います」
「何故、旅行に水着が必要なんだ?」
陸がおそるおそる聞いてみると、天照は微笑みながら有無を言わせない答えを返す。
「私が泳ぎたいからです。それと季節ネタとして水着回を入れておいた方が、読者のウケも良いでしょうから」
「姉上、それ以上のメタ発言禁止!!」
「たまには良いではないですか。素戔嗚も弟なのだから、姉上の願いを叶えないと」
須佐之男がメタ発言をする天照の口を塞ごうとすると、一人の男性教諭が須佐之男の肩をつかむと優しく諭した。黒髪長髪で顔もどことなく天照に似ている気もする。
「そういえば自己紹介がまだだったわね、わたしの名は月読(つくよみ) 命(みこと)。高天原の偉大なる主神である天照大神の弟にして、素戔嗚の兄よ」
髪を手で払いながらウインクする月読、正直オネェ言葉で話すのだけは止めてほしい。
八百万の神に対する印象が崩壊しかかっている。食堂のおばちゃんの登場時にすでに崩壊しているが、そこはあえて口に出さない。すると天照が数回手を打つと、陸達に買い物を急がせる。
「はい、おしゃべりはそこまで。ここでいくら喋っても、海が向こうから来てくれる訳がありません。海無し県に住む者として、明日は思いきり泳いで楽しみましょう」
本当に自分が泳ぎたいだけなんだ……。この場にいた誰もが、そう思ったのである。
「しかし授業をサボって水着の買い物とは、こんなことをしていて本当に良いのか?」
「リクは心配性ネ! 司令がOK言ってるのだから、皆で楽しまないと♪」
陸の問いかけに、ウミが陽気に答えた。平日午後のショッピングセンターに学生三人が居るのも変だが、それを見て誰も不思議に感じていないのもおかしい。するとクゥが誰も不思議に思わない理由を教えてくれた。
「今のワタシ達は周りから、OLかサラリーマンに見えている。司令が周囲の認識を阻害する力で、ワタシ達を支援してくれている」
「神様だから何でもできるかもしれないけど、これって公私混同じゃない?」
陸がそう口走ると、ペンダントから天照の声が聞こえてくる。
『そんなことを言うと、あなただけちゃんと認識されるようにしてあげますよ。若いOLをナンパしている不良学生、そんな感じに周囲からは見られるかも……』
最初の頃に須佐之男が言っていた理不尽さが、ひしひしと伝わってきた。こんな神様を姉にもつ須佐之男は、文献に書かれていない部分で苦労してきたに違いない……。その後男女で分かれると、陸は一人で持っていく水着を探し始める。
「おう陸、水着は見つかったか?」
「須佐之男のおっさん、おっさんも水着なんて着るのか?」
ゴンッ! 陸の頭に須佐之男のゲンコツが振り下ろされた。
「おっさんじゃない。お前は俺の養子なんだから、義父上(ちちうえ)とでも呼びなさい」
「はいはい、理不尽な姉に逆らえないお義父上」
ぎりぎりぎり……。背後にまわられた須佐之男にチョークスリーパーをされる陸、親父もこんな感じの付き合いをしていたのだろうか? 須佐之男は首から手を離すと懐かしげな顔を浮かべながら陸に語る。
「国津神の奴とも、こうしてじゃれあっていたっけな。あいつは若かったから、先に逝くのは俺のはずなのに……。おまえは親父のようになるんじゃねえぞ」
「ああ、そのつもりだよ」
談笑をつづける陸と須佐之男の様子を、遠目からウミとクゥが観察していた。
「イイネイイネ、漢(オトコ)達の熱い友情。こういうのを見たかったのヨ!」
「ウミ、すこし行儀悪い」
「そういうクゥだって、リクのことが気になっているんでしょ?」
ウミに指摘され、少しだけ頬を紅く染めながらクゥは小さく答える。
「うん、陸はワタシをデモンから守ろうとしてくれた。出来たらもっと仲良くしたい」
「……だったら! もっと大胆な水着を着て、リクにアピールしないと!!」
ウミはクゥの腕を掴むと、そのまま水着売り場に引き返した。
「店員サ~ン! さっき買ったこの水着を返して、別のを買い直シマ~ス!」
「ちょっとウミ、ワタシはこれでダイジョウブだから」
「シャラップ! アナタは奥手だからもっと積極的に動かないと、リクのハートを誰かに持っていかれてしまうネ!」
ガーン!? クゥの背後が突然暗くなり、落雷のエフェクトまで入る。奥手な人間が急に一念発起すると、大概ろくでもない方向に進むのが世の常。クゥの決意が陸に伝わるのかどうかは、翌日からの懇親旅行の成否にかかっていた……。
「懇親旅行?」
学園長室に呼び集められた陸とクゥ、そしてウミの前で天照が変なことを言い始める。夏休みも近いとはいえ今はまだ一学期の真っ最中であり、学期末のテストも近い。そんな中で、懇親旅行など行えるはずもないのだ。
「学園長。そういう訳で明日から六人で三日間伊豆へ行きますので、旅行費用と宿泊場所を確保するように」
「明日からって姉上、コレは既に決定事項なのですか!?」
須佐之男が驚きあわてる。いきなり全員集めたかと思えば旅行すると言ったり、天照は結構強引な性格なのかもしれない。
「それから……そこの三人は午後の授業を欠席しても構わないので、鐘鳴市のショッピングセンターに行って水着を買ってきなさい。費用はすべて防衛隊で払います」
「何故、旅行に水着が必要なんだ?」
陸がおそるおそる聞いてみると、天照は微笑みながら有無を言わせない答えを返す。
「私が泳ぎたいからです。それと季節ネタとして水着回を入れておいた方が、読者のウケも良いでしょうから」
「姉上、それ以上のメタ発言禁止!!」
「たまには良いではないですか。素戔嗚も弟なのだから、姉上の願いを叶えないと」
須佐之男がメタ発言をする天照の口を塞ごうとすると、一人の男性教諭が須佐之男の肩をつかむと優しく諭した。黒髪長髪で顔もどことなく天照に似ている気もする。
「そういえば自己紹介がまだだったわね、わたしの名は月読(つくよみ) 命(みこと)。高天原の偉大なる主神である天照大神の弟にして、素戔嗚の兄よ」
髪を手で払いながらウインクする月読、正直オネェ言葉で話すのだけは止めてほしい。
八百万の神に対する印象が崩壊しかかっている。食堂のおばちゃんの登場時にすでに崩壊しているが、そこはあえて口に出さない。すると天照が数回手を打つと、陸達に買い物を急がせる。
「はい、おしゃべりはそこまで。ここでいくら喋っても、海が向こうから来てくれる訳がありません。海無し県に住む者として、明日は思いきり泳いで楽しみましょう」
本当に自分が泳ぎたいだけなんだ……。この場にいた誰もが、そう思ったのである。
「しかし授業をサボって水着の買い物とは、こんなことをしていて本当に良いのか?」
「リクは心配性ネ! 司令がOK言ってるのだから、皆で楽しまないと♪」
陸の問いかけに、ウミが陽気に答えた。平日午後のショッピングセンターに学生三人が居るのも変だが、それを見て誰も不思議に感じていないのもおかしい。するとクゥが誰も不思議に思わない理由を教えてくれた。
「今のワタシ達は周りから、OLかサラリーマンに見えている。司令が周囲の認識を阻害する力で、ワタシ達を支援してくれている」
「神様だから何でもできるかもしれないけど、これって公私混同じゃない?」
陸がそう口走ると、ペンダントから天照の声が聞こえてくる。
『そんなことを言うと、あなただけちゃんと認識されるようにしてあげますよ。若いOLをナンパしている不良学生、そんな感じに周囲からは見られるかも……』
最初の頃に須佐之男が言っていた理不尽さが、ひしひしと伝わってきた。こんな神様を姉にもつ須佐之男は、文献に書かれていない部分で苦労してきたに違いない……。その後男女で分かれると、陸は一人で持っていく水着を探し始める。
「おう陸、水着は見つかったか?」
「須佐之男のおっさん、おっさんも水着なんて着るのか?」
ゴンッ! 陸の頭に須佐之男のゲンコツが振り下ろされた。
「おっさんじゃない。お前は俺の養子なんだから、義父上(ちちうえ)とでも呼びなさい」
「はいはい、理不尽な姉に逆らえないお義父上」
ぎりぎりぎり……。背後にまわられた須佐之男にチョークスリーパーをされる陸、親父もこんな感じの付き合いをしていたのだろうか? 須佐之男は首から手を離すと懐かしげな顔を浮かべながら陸に語る。
「国津神の奴とも、こうしてじゃれあっていたっけな。あいつは若かったから、先に逝くのは俺のはずなのに……。おまえは親父のようになるんじゃねえぞ」
「ああ、そのつもりだよ」
談笑をつづける陸と須佐之男の様子を、遠目からウミとクゥが観察していた。
「イイネイイネ、漢(オトコ)達の熱い友情。こういうのを見たかったのヨ!」
「ウミ、すこし行儀悪い」
「そういうクゥだって、リクのことが気になっているんでしょ?」
ウミに指摘され、少しだけ頬を紅く染めながらクゥは小さく答える。
「うん、陸はワタシをデモンから守ろうとしてくれた。出来たらもっと仲良くしたい」
「……だったら! もっと大胆な水着を着て、リクにアピールしないと!!」
ウミはクゥの腕を掴むと、そのまま水着売り場に引き返した。
「店員サ~ン! さっき買ったこの水着を返して、別のを買い直シマ~ス!」
「ちょっとウミ、ワタシはこれでダイジョウブだから」
「シャラップ! アナタは奥手だからもっと積極的に動かないと、リクのハートを誰かに持っていかれてしまうネ!」
ガーン!? クゥの背後が突然暗くなり、落雷のエフェクトまで入る。奥手な人間が急に一念発起すると、大概ろくでもない方向に進むのが世の常。クゥの決意が陸に伝わるのかどうかは、翌日からの懇親旅行の成否にかかっていた……。
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