異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお

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第49話 故郷の風景とレミアの決意

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「よし、村が人で溢れかえる前に草原を見に行こう」

まだ日が昇らない内に周囲で寝ているバレッジやラームの住人を起こさない様にしながら、俺達はツオレの村に入った。まだ少し肌寒いがレミアに朝日が昇る1番良い景色を見せたかったのでそんなに気にならなかった。

『いつ景色を見せてくれるのよ?』

レミアが不機嫌そうな声を上げているが、内心は不安と期待が入り混じっている事だろう。

「もうすぐ見せてあげる、俺も最初に見た時はあまりの綺麗さに声も出なかった。喜んでもらえると思うよ」

レミアには家を出る時から目隠しをしてある、ただ景色を見せるだけかもしれないがレミアがこの景色を見るのは100年以上ぶりなのだから俺以上に感動するだろう。やがて雄大な草原の先から日の光が現れようとした瞬間に、俺はレミアの目隠しを外しながらこう言ってやった。

「レミア、お前が願っていた素晴らしい故郷の景色だ。そしてお前の幸せに続く道も見つかると良いな」

朝露で濡れている草が日の光を浴び、雄大な草原全体が光り輝いている。この景色を毎日の様に見ながらレミアは村で生活してきたのだ、村の為に出来る事を考えそして行動しようとした。きっと祈りにも似た気持ちでこの景色を眺めていただろう。俺はレミアの顔を見ると、彼女は隠す事もせずに涙を流していた。

『これが私の故郷から見る今の景色なのね・・・残っている記憶の通り、いえそれ以上に素晴らしいわ。この景色が残る限り私が村を助けるなんて夢は自意識過剰が過ぎるわね。私の助けなんかが無くても、この村は護達のお陰でより豊かになろうとしている』

「そんな事は無い!レミアの気持ちこそが村にとって何よりの助けになるんだ、そしてレミアを助けたいと願う者達が集まって更に大きな力になる。既にお前には2人も助けようとしている者が居るじゃないか」

レミアのすぐ傍らにはタケミカヅチとラメルの姿が有った。

『レミア殿、あなたの願いを叶える為の助けがしたい。本当ならば護を守らねばならないが、俺は俺の今の気持ちを大切にしたい。あなたがこの村に残ると言うのなら俺もここに残りあなただけを守護する存在となろう』

「レミア、君が自身の幸せを望まないのは怪となってから幾人もの人の命を奪ってきてしまった罪の意識からだと思う、だが君は奪った命以上に救った命も有る事を忘れないで欲しい。確かに罪を犯したかもしれないが君が今見せたその涙がきっと罪を洗い流してくれた筈だ。人を殺す化け物がそんな涙を流すものか、君は怪では無いれっきとした人間で私の愛する女性だ」

タケミカヅチとラメルがレミアに想いを告白する。レミアは2人に振り返り微笑み返した。

『有難う2人とも、とても嬉しいわ。でも私はまだ少女で2人の想いを受け止めるには尚早よ。それにちょっと試してみたい事が有るから、それが成功したら考えてあげるわ。それから護、以前私に怪の神様になる事を提案してきたけど別の存在になったとしても気にならないかしら?』

確かに、レミアがラメルと出会った時に己の死を望んでいたからそれを忘れさせる為に思いつきで言ってしまったが別の存在って一体何になるつもりだ!?

『この景色を見ていて思ったのだけれど、スパウダの隊長の最期のあの蒸発の神術。チィさんの体内で発動してくれたお陰で無事だったけれども外で発動していればバレッジやラームの住人だけじゃなくツオレの人々やこの景色も全て奪い去っていた。それなのに、私はあの戦いの最中ただ見ていただけ・・・。私もスパウダと戦う為の力が欲しいの!』

「力が欲しいって、どうやって手に入れるつもりだ?そんな簡単に手に入る物じゃないだろう!?」

『そうかしら?ヤミとチィさんがヒントをくれたと思っていたけれど気付いたのは私だけだったみたいね』

ヤミとチィが一体どんなヒントをくれたっていうんだ?

『竜族って1体が引き継ぎを繰り返して永い刻を生きているのだけど、純血の個体数をどうやって増やしていたのか考えた事は無かった?』

「!?」

『おそらく始祖の竜は1体だけだったかもしれないけど、その卵に私の様な怪が中に入る事で竜の身体を手に入れ数を増やしたのかもしれないと考えている。その考えに至った理由がチィさんが怪の状態で卵に入り引き継ぎを行えた事。怪は壁を通り抜ける事が比較的容易に出来るけど、その理由が竜の卵の中に入りやすくする為と考えれば合点がいくわ』

レミアの言っている事が事実だとすればチィが奇跡だと思っていたのは奇跡でも何でも無いって事になるよな?

「それだとヤミやチィが竜となった時の記憶も残っている筈じゃないのか?引き継ぎで記憶と力を受け継ぐのだから」

『多分、竜となる時に怪となる原因となった負の感情を捨てるのよ。その結果竜となる時の記憶も一緒に忘れてしまっているのかもしれないわね。ただ、私の場合成功すれば負の感情の原因も分かっているしそれも既に無いからこの記憶を持ったまま竜の身体を手に入れられるかもしれないわ』

「それじゃあ、レミアは人の身体を捨て竜族になりたいと言うのか!?」

『人の身体を捨てるつもりは無いわ、あらかじめヤミから人化の術を教わっておくから。スパウダの連中と本気で戦う時だけ竜の姿になるだけ』

レミアの意思は固い様だ、だがタケミカヅチとラメルはこのレミアの意思をどう思っているのだろう。

『レミア殿のなさりたい様にしてくれ、俺はその全てを受け入れ害する者達からあなたを守る』

「その意志の強さは生きていた時と全く変わっていないよ、好きにするといいさ。これからは君の傍には私が居る、1人になんて決してさせない」

タケミカヅチとラメルはレミアの意思を尊重する様だ、なら俺がとやかく言うのは筋違いだ。

「レミアの気持ちは固い様だから俺はもう何も言わない、それでいつ試してみるのかな?」

『チィさんも引き継ぎ終えたばかりだし、ヤミも疲労が物凄いわ。だから今すぐはしない、2人の体調も戻っている頃合に竜族になれるか試してみようと思う。行うのに相応しい場所は既に決まっているし』

「そこはどこなんだ?」

『ロレッツ』

「本当にいいんだな?」

『もちろん、罪を償うのに永い刻は丁度良いしね。怪だけじゃない、人も妖精も魔族も獣族も全てを神族の手から守ってみせる。それが私の出来る最善の道よ』

「なら、このツオレの村で出来る事を全て終えたらマルトさんの様子を見に行きながらロレッツを目指すとするか」

『お願いするわ、そうそうタケミカヅチとラメル。今まで私に合わせてイギリス料理を食べさせてしまって悪かったわね。イギリス料理をいくら極めても神族から世界を守る事なんて出来ないから、納得出来るイギリス料理を作るのはしばらく凍結させるわ』

(いや、あの料理を神族の連中に無理やり食わせれば世界を救えると思うぞ)

レミアとチィそしてラメルを除く全員が同じ事を考えた、チィはイギリス料理の凄さをヤミから教えられ戦慄と共に食べずに済んだ幸運を喜んでいた。

『それで申し訳無いのだけど、今の私が作れる最高の料理を食べてみて欲しいの2人だけに』

『レミア殿の作られる物でしたら何でも頂きます!』

「レミアの作る料理を食べるなんて本当に久しぶりだ、喜んで頂くよ」

それからレミアはキッチンを借りて、料理を作り出した。中々思い通りに調理器具を動かせないのでタケミカヅチ達も手伝おうとするがレミアに1人で作らせてと言われ大人しく待っていた。待つ事数時間、2人の前にレミアの作った料理が並べられた。

『味に自信はまだ無いけれど、今の私が作れる最高の料理よ。どうぞ召し上がれ』

『「いただきます!」』

タケミカヅチとラメルは一斉に料理を口に運ぶと直後に凄く驚いた。

『「これは・・・イギリス料理じゃ無い!?」』

『このツオレの景色とあなた達2人のお陰でここに住んでいた頃に食べていた料理の記憶も思い出せたわ。これが今の私に出来る精一杯の感謝の気持ち、おもてなし出来る最高の料理よ』

レミアは竜族となる決意と共に、将来的に2人の想いを受け入れる気持ちも固めていたのだった。
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