異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお

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第21話 レミアの新しい道

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俺達はワイトの街を出る事にした。街のあちこちでお互いを罵る声が聞こえてくる、遠くない内にこの街はきっと廃れるだろう。天照も最初の内は己の行いを反省し、そして先祖の遺してくれた物に感謝する気持ちを取り戻せば川の流れをまた町に戻すつもりでいたが最早期待出来ないと見捨てる決断を下した。

ご先祖と同じ偉業を行う選択をしようとしない者に手を差し伸べる奴は居ない。天照も全て自分達の手でさせる気など無かった。川の流れを人の手だけで行おうとすれば、当然死者が出る可能性も有るからだ。

「お前があの時、あの怪に物を投げさえしなければ!」

「何を!?お前だって罵っていたじゃないか!」

「俺達は何も悪い事なんてしていないのに、何でこんな目に!?」

聞こえてくるのは、胸糞悪くなる物ばかり。他の者に責任を押し付けようとするだけで自分の悪かった所を認めようと決してしない。人と怪だって話し合えば必ず分かり合えると信じていたが、この街に来たお陰で信じられなくなった。レミアもショックが大きかった筈だ。

「立ち寄るべきじゃなかったな、この街に・・・」

『そうですね、人の醜い部分をあれほど見る事になるとは思いませんでした』

『そんな街の住人の祈りで喜んでいるあの天使とやらも腐っていたがな』

天使・・・オッサンにボコボコにされて国に帰っていったが、これからどうなるのだろうか?もしも、スパウダが攻めてくるならせめてこれまでに立ち寄ってきた最初の村やドードの町にリッツさんの葡萄畑と獣人の里だけでも何とかして守ってやりたいな。

「レミア、ちょっといいかしら?」

それまで黙っていたトリーが口を開いた。

『何、トリー?』

レミアの返事もどこか弱々しい。

「今回の件ではっきりと分かったけど、神族の連中は怪であるあなたに祈りを捧げられるのを汚らわしいと感じている。それでも、あなたはロレッツまで行って祈りを捧げるつもり?」

「おい、ちょっと待てトリー!」

「護は少し黙ってて!これから話す事はあなたを更に傷付ける事になるのは分かってる、だけど今言っておかないときっと手遅れになってしまうと思うの」

『これ以上、私が傷付く様な事って何が有るのよ?』

「ロレッツの街はもう存在しない、大分昔に神族の連中が破壊しまくって廃墟となったからよ」

『!? 嘘、嘘よ。嘘だと言って!!』

「護はね、ロレッツの街が既に無い事を私から聞いて知っていた。けれど、あなたの心残りを何とかしてあげようとその廃墟の街に向かおうとしてくれていたの」

『護、本当なの?』

「・・・ああ。俺は卑怯者でお前が傷つくのを見たくなかったから問題を先延ばしにしようとしていただけだ。詰られたって文句は言わないよ」

『そんな事無い!護は・・護は私の事を認めてくれた!怪でも人と話し合えば分かり合えるって教えてくれたじゃない!?』

「けど、俺は結局この街でお前を傷付けさせる事になった。済まなかった」

俺はレミアに頭を下げる、社交辞令なんかじゃなく本当に申し訳無い気持ちで一杯だった。

「それで、レミア。あなたはこれからどうしたい?」

トリーは容赦無くレミアにすぐに答えを出す様に促す、甘やかしたりはしない毅然とした母親の様にも見えた。

『今はロレッツに向かうのは諦めます』

それがレミアの出した答えだった。

「今は?」

『ええ、今の私が他の街の教会に行ったとしても同じ様な扱いをされるでしょう。祈りを捧げる事は出来ません、ならば私なりに村の為に出来る事を見つけるべきだと思います』

「これからは別の道で村の為に出来る事を探したいのね?」

『はい、そしてそれが見つかった時には昔の私とお別れする意味で廃墟となっていると言うロレッツの街の教会を訪れて最後の祈りをしたいと思います』

「よし!それじゃあ、お姉さんが付き合ってあげる!!」

『え!?』

「ごめんね、あの状態のあなたを見ていられなくてね。かなり辛くなる様な事を言ってしまったけど、あなたに早く立ち直って欲しかったのよ」

『いえ、このままズルズルと引きずっていても良い事は無かった筈です。トリーさんのしてくださった事がきっと正しいんです』

「そう言ってもらえると私も救われるわ」

レミアとトリーはお互いに肩を寄せ合って慰めあっている。ハイエルフと怪だってこうして心を通い合わせる事が出来るのに何でワイトの住人はそれに気付けなかったのだろうか?

「それはそうと、護。あなたはこれからどうする?私はレミアの新しい道を見つける旅に出来れば同行したいのだけど」

答えの分かりきっている質問をトリーが俺に聞いてきた、レミアにも聞かせてやって安心させたいのだろう。

「当然、俺達も同行するさ。目的地がロレッツから特に予定無しに変更になっただけだしな!」

『それで良いの、護!?』

「気にするなって、俺達は仲間だろ?新しい出来る事がすぐに見つからなくても俺達と一緒に旅をしていればいずれ見つかるさ」

『有難う、皆さん』

「とりあえずレミア、ロレッツ以外でどこか見ておきたい場所は在るかい?」

『それなら・・・今の私の生まれ故郷の景色を見ておきたいわね』

「生まれ故郷の景色?」

『うん、もう私が死んで大分時が流れてしまったから村も無くなっているかもしれない。けれど、今の村の景色だけでも目に焼き付けておきたいかな?』

「それじゃあ、今度の新しい目的地はレミアの生まれ故郷って事で皆いいかな?」

『それは良い事です、きっと楽しい旅になるでしょう』

『我輩も異論は無い、何か問題があっても我輩達も協力するからな!』

「レミア、これまで通り宜しくね」

「それじゃあ、向かおうと思うけどレミアその村の名前は思い出せるかな?」

『生憎と名も無いに等しい小さい集落に過ぎなかったからよく思い出せないわ。けど、目の前に広がる雄大な草原の景色だけは忘れていない』

ん、草原?これまでに俺達が通ってきた道程で思い当たる場所は1つだけだ。

「ちょっとだけ心当たりがある、俺や天照も最初見て感動を覚えた草原の景色を見られる村を。レミアには別の意味でショックを与えかねない物を見せるかもしれないけど許してくれ」

『何それ!?』

『もしかして、護さん。あの村の事を言っているのですか!?』

「多分、あの村で合っていると思うんだけど偶然にしては出来すぎに思えるよね」

『「?」』

レミアとトリーは良く分かっていない顔をしている。あの村・・・名前も確かに知らないが俺達がこの世界に来て最初に立ち寄った村だろうと何故か確信を持てた。
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