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天罰神バステト
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ヴールルを出立してから2日が過ぎた、途中で大勢の男に囲まれたりもしたが小盾のおかげで難なく撃退している。また途中で出会った人との会話の中で、野宿は危険をともなう行為なのだと教えられた。
たき火の火を恐れて魔物は近づかないが、今度はその火を目印にして武装した野盗が襲ってくるらしい。アレクシスは口には出さなかったが、いざというときはミィをすぐに逃がせるように、馬車の荷台で寝させようとしていた訳である。
少しだけカッコ良くも思えたが、先日試着室で下着姿を見られたばかりだったので評価はそれほど上がらなかった。後に発生する恋愛フラグを事前に折っていたようなものだから、屋敷の滞在中に婚約者の話題が出なかったのもうなずける。親切だけどちょっとHで残念なお兄さん。このアレクシスの評価が変化するのは、ライティスでミィと再会してからとなる。
おだやかな風に背中を押されるように歩いていると、前方に町が見えてきた。町の入り口にはチアンワルと名前の書かれた看板が……。
(チアンワル……治安悪。なんだか物騒な町に見えてくる名前よね)
不安を感じながらも町に入るミィ、しかし町の中に特に変わった様子はない。一日歩いた疲れも手伝って、ミィはこの町の宿に泊まることにした。
「クロ、少し早いけど今晩の宿を探そう」
「そうだね、ボクも足が棒になりそうだよ」
さっそく宿を探し始めたミィ達だったが、大通りに面した宿は軒並み満室でさらにお値段も若干高い。そこで大通りから少し外れた宿を探すと、すぐに一軒の大衆宿を見つけることが出来た。
「ごめんください」
「いらっしゃい、お泊まりかな?」
愛想笑いを浮かべながら、受付の奥から中年の男が出てくる。少しうさんくさい気もするが、今夜一晩の辛抱なので多少のことは我慢しようとミィは考えた。
「はい、ちなみに一晩おいくらですか?」
「一泊で銀貨1枚。 お嬢ちゃん可愛いから、夕食と朝食の代金はサービスするよ」
「本当ですか!? じゃあ、お願いします♪」
ミィは制服の内ポケットから財布を取り出すと、男に銀貨1枚を手渡す。男は銀貨を受け取りながら、ミィに夕食に出す飲み物を聞いてきた。
「そうだ、聞くのを忘れていた。 夕食の時に出す飲み物、お嬢ちゃんの場合エールは飲めないだろうからジュースでも構わないか?」
「はい、お酒は飲めないのでジュースでお願いします」
「あいよ、腕によりをかけて作るから楽しみにしておきな」
鍵を受け取ったミィは今晩泊まる部屋へと向かう、その部屋は偶然にも宿の裏口のすぐ近くにあった。
「あ~美味しかった♪ また機会があれば、もう1度泊まりにこようねクロ」
「そうだね、その機会があればね……」
夕食に満足しているミィに対して、クロの様子はどこかおかしい。周囲を警戒しているようにもみえる。理由を尋ねようとしたミィは、急に強い眠気に襲われた。
「あれ? なんだか急に眠くなってきちゃった。 クロ、私このまま寝るね」
「うん、何も心配せずにぐっすりとおやすみ」
ベッドに横になってからわずか数分で、ミィは静かに寝息を立て始める。その寝顔を見ながらクロは、彼女を起こさないように小さく呟いた。
「ジュースの中に眠り薬を混ぜておくとはね……。 ここの宿の従業員達には、ミィに教えられない裏の顔がありそうだ」
暗い部屋の中でクロの瞳が妖しく光る。ミィには内緒にしてあるが封印を施された神の力は、ある条件を満たすと解放されるのだ。その条件とは、罪を犯した者に罰を与える時。クロは招かれざる客を出迎える準備を始める、そしてその客は他の宿泊客が寝静まる深夜になってから訪れた。
「おい、裏にいつもどおり馬車を待機させてあるな?」
「ああ、久々の若い娘だ。 高値で売れるぞ」
「寝てる間に味見をしておくのも悪くないな」
受付の中年男や夕食の調理をしていた者など4人の従業員が、ミィの寝ている部屋の前で相談している。この宿は獲物を見つけては夕食に仕込んだ薬で眠らせ、裏組織に売り渡すという人身売買を行っていたのだ。
そして1人で旅をしていたミィは、彼らにとって格好の獲物である。寝ている間に馬車に乗せて、組織の人間との待ち合わせ場所まで運ぶという楽な仕事。しかしこの日の彼らは運がなかった、人を罰する神の前で悪事を働こうとしたのだから……。
ランプを手に持った中年男が合鍵を使って、部屋のドアを開ける。ベッドで寝息を立てているミィの顔を見て、男達は笑みを浮かべた。
「なるほど、そうやって売れそうな人達を捕まえていたんだね」
「誰だ!?」
中年男が部屋の奥にランプを向けると、そこには黒いゴスロリ服を着たおかっぱ頭のネコ耳娘が立っている。黒いシッポを揺らしながら、ネコ娘は男達に天罰の執行を宣告した。
「ボクの名はバステト、こことは違う世界で過ちを犯した人間を罰してきた神さ。 君たちは、ボクの前で今まさに罪を犯した。 その罪、これまでに犯したものと一緒に償ってもらうよ」
クロに気圧されて男達はその場から動けなくなってしまう、それを見ながらクロは男達に与える罰を決定する。
「君たちと被害者の取り引きをしていた者達全員、ボクがいた世界で同じ目に遭ってもらうとしよう。 牛や豚など家畜として生まれ変わり、今まで売買してきた人の数だけ売られ肉に変わる。 まず最初に取り引きしていた者達の居場所を、全部吐いてもらうよ。 ミィが起きるまでにすべて終わらせておかないといけないから、今夜は眠れそうにないな」
翌朝ミィが目覚めると、宿の従業員は全員消えていた。朝食を食べ損ねて残念そうにしているミィに、ネコの姿に戻ったクロが何事もなかったかのように話す。
「朝食は食べられなかったけど、安く泊まれたんだし文句言わないの。 ところでさミィは牛や豚の肉を使った料理、どんなのが好きだった?」
「すき焼きとトンカツ!」
即答するミィに、クロは思わず苦笑いを浮かべた。
「すき焼きとトンカツね、彼らも今頃はその料理になっているのかな?」
(?)
何を言っているのか分からず首を傾げるミィ、彼女の知らない間にチアンワルの町の治安は良くなっていたのである……。
たき火の火を恐れて魔物は近づかないが、今度はその火を目印にして武装した野盗が襲ってくるらしい。アレクシスは口には出さなかったが、いざというときはミィをすぐに逃がせるように、馬車の荷台で寝させようとしていた訳である。
少しだけカッコ良くも思えたが、先日試着室で下着姿を見られたばかりだったので評価はそれほど上がらなかった。後に発生する恋愛フラグを事前に折っていたようなものだから、屋敷の滞在中に婚約者の話題が出なかったのもうなずける。親切だけどちょっとHで残念なお兄さん。このアレクシスの評価が変化するのは、ライティスでミィと再会してからとなる。
おだやかな風に背中を押されるように歩いていると、前方に町が見えてきた。町の入り口にはチアンワルと名前の書かれた看板が……。
(チアンワル……治安悪。なんだか物騒な町に見えてくる名前よね)
不安を感じながらも町に入るミィ、しかし町の中に特に変わった様子はない。一日歩いた疲れも手伝って、ミィはこの町の宿に泊まることにした。
「クロ、少し早いけど今晩の宿を探そう」
「そうだね、ボクも足が棒になりそうだよ」
さっそく宿を探し始めたミィ達だったが、大通りに面した宿は軒並み満室でさらにお値段も若干高い。そこで大通りから少し外れた宿を探すと、すぐに一軒の大衆宿を見つけることが出来た。
「ごめんください」
「いらっしゃい、お泊まりかな?」
愛想笑いを浮かべながら、受付の奥から中年の男が出てくる。少しうさんくさい気もするが、今夜一晩の辛抱なので多少のことは我慢しようとミィは考えた。
「はい、ちなみに一晩おいくらですか?」
「一泊で銀貨1枚。 お嬢ちゃん可愛いから、夕食と朝食の代金はサービスするよ」
「本当ですか!? じゃあ、お願いします♪」
ミィは制服の内ポケットから財布を取り出すと、男に銀貨1枚を手渡す。男は銀貨を受け取りながら、ミィに夕食に出す飲み物を聞いてきた。
「そうだ、聞くのを忘れていた。 夕食の時に出す飲み物、お嬢ちゃんの場合エールは飲めないだろうからジュースでも構わないか?」
「はい、お酒は飲めないのでジュースでお願いします」
「あいよ、腕によりをかけて作るから楽しみにしておきな」
鍵を受け取ったミィは今晩泊まる部屋へと向かう、その部屋は偶然にも宿の裏口のすぐ近くにあった。
「あ~美味しかった♪ また機会があれば、もう1度泊まりにこようねクロ」
「そうだね、その機会があればね……」
夕食に満足しているミィに対して、クロの様子はどこかおかしい。周囲を警戒しているようにもみえる。理由を尋ねようとしたミィは、急に強い眠気に襲われた。
「あれ? なんだか急に眠くなってきちゃった。 クロ、私このまま寝るね」
「うん、何も心配せずにぐっすりとおやすみ」
ベッドに横になってからわずか数分で、ミィは静かに寝息を立て始める。その寝顔を見ながらクロは、彼女を起こさないように小さく呟いた。
「ジュースの中に眠り薬を混ぜておくとはね……。 ここの宿の従業員達には、ミィに教えられない裏の顔がありそうだ」
暗い部屋の中でクロの瞳が妖しく光る。ミィには内緒にしてあるが封印を施された神の力は、ある条件を満たすと解放されるのだ。その条件とは、罪を犯した者に罰を与える時。クロは招かれざる客を出迎える準備を始める、そしてその客は他の宿泊客が寝静まる深夜になってから訪れた。
「おい、裏にいつもどおり馬車を待機させてあるな?」
「ああ、久々の若い娘だ。 高値で売れるぞ」
「寝てる間に味見をしておくのも悪くないな」
受付の中年男や夕食の調理をしていた者など4人の従業員が、ミィの寝ている部屋の前で相談している。この宿は獲物を見つけては夕食に仕込んだ薬で眠らせ、裏組織に売り渡すという人身売買を行っていたのだ。
そして1人で旅をしていたミィは、彼らにとって格好の獲物である。寝ている間に馬車に乗せて、組織の人間との待ち合わせ場所まで運ぶという楽な仕事。しかしこの日の彼らは運がなかった、人を罰する神の前で悪事を働こうとしたのだから……。
ランプを手に持った中年男が合鍵を使って、部屋のドアを開ける。ベッドで寝息を立てているミィの顔を見て、男達は笑みを浮かべた。
「なるほど、そうやって売れそうな人達を捕まえていたんだね」
「誰だ!?」
中年男が部屋の奥にランプを向けると、そこには黒いゴスロリ服を着たおかっぱ頭のネコ耳娘が立っている。黒いシッポを揺らしながら、ネコ娘は男達に天罰の執行を宣告した。
「ボクの名はバステト、こことは違う世界で過ちを犯した人間を罰してきた神さ。 君たちは、ボクの前で今まさに罪を犯した。 その罪、これまでに犯したものと一緒に償ってもらうよ」
クロに気圧されて男達はその場から動けなくなってしまう、それを見ながらクロは男達に与える罰を決定する。
「君たちと被害者の取り引きをしていた者達全員、ボクがいた世界で同じ目に遭ってもらうとしよう。 牛や豚など家畜として生まれ変わり、今まで売買してきた人の数だけ売られ肉に変わる。 まず最初に取り引きしていた者達の居場所を、全部吐いてもらうよ。 ミィが起きるまでにすべて終わらせておかないといけないから、今夜は眠れそうにないな」
翌朝ミィが目覚めると、宿の従業員は全員消えていた。朝食を食べ損ねて残念そうにしているミィに、ネコの姿に戻ったクロが何事もなかったかのように話す。
「朝食は食べられなかったけど、安く泊まれたんだし文句言わないの。 ところでさミィは牛や豚の肉を使った料理、どんなのが好きだった?」
「すき焼きとトンカツ!」
即答するミィに、クロは思わず苦笑いを浮かべた。
「すき焼きとトンカツね、彼らも今頃はその料理になっているのかな?」
(?)
何を言っているのか分からず首を傾げるミィ、彼女の知らない間にチアンワルの町の治安は良くなっていたのである……。
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