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第1章 ~クリエイト入門編~

第12話 軽トラ販売店開業

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「さあ着いたよアリス、ここが自分が新たに出す2号店の出店予定地だ」

「着いたよってここ何も無い荒地ですけど?」

アリスがゼンに連れてこられたのはビギンズを出て少し離れた荒地だった、周囲には何も無く所々にわずかに草が生えているだけだ。

「この場所をこれから開拓する、そして軽トラの試乗を兼ねた運転練習場を併設した販売店にする予定なのさ」

「ほう、ここがゼン君が選んだ場所か。ビギンズからそう離れていないし、君が先日助けた女性達が居る農村からも近い。教会の動きにも目を光らせるつもりみたいだな」

公爵が遅れてゼンの新しい店の出店予定地を視察にやってきた。

「こんな良い場所を売ってくれて本当に有難うございます、お陰で出店する日を早める事が出来ました」

「そう言って貰えると私も嬉しいよ、ゼン君には期待しているよ」

「父上、ゼンにこの土地を売ったのですか?」

「ああそうだ」

「しかし爵位を持たぬ者が、街の外で土地を持つ事は禁じられている筈」

アリスがそこまで言った所でゼンと公爵が急に笑い出した。

「ど、どうされたのですか2人共!?」

「いや、済まないアリスよ。ゼン君には口止めされていたのだが、おかしくて思わず笑ってしまったよ」

「ゼン、あなた私に何か内緒にしている事でも有るの?」

「出店する日まで秘密にしておこうと思っていたんだけど、自分も笑っちゃったからもういいや。実は今の自分は街の外に土地を持っても何も問題は無いのさ」

「どういう事ですか?」

「いい加減気付いてくれないと、公爵が更に大きな声で笑い出してしまうよ」

アリスが父の方を振り向くと、お腹を押さえて笑いを堪えていた。

「ゼン君そろそろ白状しないと娘が怒ってしまうぞ」

「そうですね白状します、アリス自分は既に男爵の地位を手に入れてあるんだよ」

「え!?いつですか?」

「先日の晩に屋敷を訪れた時にだよ。公爵が自分の将来の夢と希望を聞いて無償で爵位を与えて下さった。ついでにその時に持っていた金額でこの土地も譲ってくれたのさ」

「だが何事にもケジメは必要だ、爵位を無償で与えたと知られては困るからとりあえず金貨500枚を頭金として授けた形にしてある」

「そしてこの店が軌道に乗ったら、この土地の代金も含めて残金の金貨1000枚を公爵に渡す契約をした」

アリスは更にゼンと父の口から驚く事を聞かされた。

「そういえば、例の農村を治めていた子爵が教会の施設が壊された後に行方不明となっていてな。後任として近くに住む男爵の爵位を上げる話になりそうなんだ」

「へ~そうなんですか、でも自分の店が農村から1番近くで開店するのは偶然でしょうねきっと」

「偶然1番近くに住居兼店舗を建てるのだから、幸運な話だと思うがな」

「そんな簡単に子爵になっても良いのでしょうか?」

「良いに決まっているだろう、それに後1つ大きな功績を挙げて爵位を上げれば次は伯爵だ。公爵令嬢を妻に迎えるのは無理でも1人娘しか居ない公爵家に婿入りする事は可能となる」

婿入り・・・父の言葉の意味をアリスは考えた、ゼンがもしも侯爵の地位まで上り詰める事が出来なくても伯爵まで何とか爵位を上げて2人を夫婦として結ばせる方法を父は模索してくれていた。そしてゼンもアリスと夫婦となれるのならば、婿入りしても構わないと考えてくれている。

「リーザに最初の店を売るのはあくまでも保険、この2号店で金貨1000枚を1年で集めるつもりだ」

「1年で集められるのですか!?」

「公爵に近くの農村や行商人達を幾つか教えて頂いてあるからね、同じ値段なら馬車よりもこちらの軽トラを選ばせる自信が有るよ」

「我が屋敷でも10台程購入しようと考えている、領内で何か起きた際にすぐに物資を運べる様にな」

「やはり、周辺がきな臭いですか公爵?」

「名は出さないが周囲の伯爵や侯爵などの領内から穀物等の食料が外へ売りに出されなくなってきている。備蓄を始めたと思った方が良いだろう」

戦の準備を始めた者が居る、アリスはこの地まで戦禍が来ない事を祈った。

「大丈夫ですよ、もしこの地に軍勢が送られてきたとしても自分が居ますから」

ゼンが事も無げに答える。

「その時公爵には、敗戦側の平民達を教会に渡さずに自らの領内に招き入れて貰います。そして農村での1件を公表して、敗戦した兵士全ての保護を宣言した後は教会と決別し新たな宗派を立ち上げる事になるでしょう」

「どうしてですか、ゼン?」

「今の教会では自分とアリスの結婚を絶対に認めようとしないだろう、教会内で今の在り方に疑問を抱く者が居たら声を掛け公爵の領内での庇護を約束して新しい宗派を作る。教会に自分達の幸せを壊させたりはしない」

2人が夫婦となれる様にこの国だけでなく世界中に信者を持つ教会を敵に回そうとしているゼンにアリスは頼もしいと思う一方で、新しい宗派を作ると簡単に考えられる異世界人へのどこか言葉に言い表せない畏怖を感じていた。




それから数日後、本格的な開店準備を始めた。お風呂セットの販売時に協力して頂いた大工にお願いして2階建ての建物を建設開始、1階は店舗で2階が住居の予定となっている。店舗の隣では広い土地を整備して軽トラの展示スペースと運転練習用のコースを併設させた。購入者には運転に慣れるまでコースを開放して好きなだけ練習を出来る様にする。その間寝泊りする為の簡易宿泊所も完備しておく。

あっという間に1ヶ月が過ぎて開店の日を迎えた、開店の挨拶をしているゼンの隣にはアリスの姿があった。少しでもゼンの役に立とうと軽トラの運転の仕方も覚え、操作方法も説明出来る様になっていた。またリーザも新しく雇用する予定の従業員を何名か連れてきている、実際に軽トラを見せて雇用契約を結ぶかどうか判断するらしい。

周辺の農村からも村長を何人か代表として招いてある、生産された農産物を運ぶのに軽トラが重宝するからだ。既にレナの村では1台購入する話が決まっている。前にモニターとして試してもらった事で話が進むのも早かった。

ただし・・・来店している人の中で一部入場を拒否させて貰っている方も居た。それは軍の関係者だ。軽トラは物流などに大きな変革を齎すと期待されているが、戦の時の軍需物資の輸送や兵士の移動でも変革を齎すと気付いた軍指揮官が居たのだ。

あくまでも軽トラは行商人や農家がメインターゲットで他の領主に軍事利用をさせるつもりは無い、ゼンは大声で罵声を浴びせる軍関係者をその場で簀巻きにした上で目の前で大きな岩を片手で放り投げる姿を見せて力の差を見せ付けた。

「いいですか?買えなかった事に逆恨みしてこの店や従業員を襲った時はこの岩があなたの部下や家族に向けて投げられますから変な気を起こさない様に」

軍関係者を追い払うと何事も無かったかの様に他の客との対応に戻るゼン、しかし対応しながらも今の軍関係者がただ軍事利用したいからという理由で買いに来たとは思っていなかった。そして公爵も同様の考えを抱いていた。



開店初日は多くの行商人が何と即金で軽トラを購入していた、馬車を引く為の馬の餌代など維持費を考えると早く乗り換えた方が得と判断したのだ。その為、初日に店頭で売れた軽トラの台数は予想を上回る40台。これに公爵が購入しようとしている10台とレナの村の1台を加えればたった1日で金貨500枚分を稼いだ事となる。閉店後の2階の住居でゼンは公爵・アリスと3人で紅茶を飲みながら仕事の疲れを癒しているがアリスは1人で大喜びしていた。

「凄い、凄いわゼン!1日で金貨500枚近く稼いでしまうなんて」

「そんなに大声で喜ばなくても大丈夫だからアリス、予想を上回る売り上げになったのは行商人達がこの軽トラを使う事でどれだけ利益を増やせるか気が付いたのが大きかったと思う」

「それでもあなたがこの世界の流通を変えようとしているのは間違い無いわ、あと数年もすれば、あなたの軽トラが世界中を走り回るのね」

「何事も無く進んでくれれば、そうなるんだけどね」

「え?」

「さてと、そろそろ私は先に失礼させて貰うよ。2人共、明日も今日と同じ位賑やかになると思うから早めに寝た方が良いぞ」

「分かりました」

公爵と一緒に屋敷に帰ろうとするアリスの手をゼンは掴み、この場に引き止めた。

「ゼン、どうしたの?」

「公爵、いやお義父上にはアリスと今晩共に過ごしたいと話を済ませてある」

「え!?」

「自分は更に一歩、君との仲を深めたい。君がまだ早いと思うのなら、屋敷まで送り届けるけどどうする?」

「そんな聞き方は卑怯です、でも私達が交際している事は周囲も承知していますから更に先に進んでも問題はありません。ゼンの気持ちを私にぶつけてください」

その後、ゼンとアリスはしばらく2人で談笑しながらお互いの描く将来の夢を語り合った。そしてゼンに抱きかかえられる様に寝室に向かい2人は結ばれたのだった。
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