上 下
43 / 48

第43話 残念な父との再会

しおりを挟む
国境を越えてから色んな出来事を起こしながらも、ようやくシルフィの生まれ故郷であるエールの森に到着した。

森の中も綺麗な空気に満ちていたが、この森はそれ以上だ。綺麗過ぎてかえって普段は気にしていなかった汗などの匂いにすぐに気付いてしまう。

「空気が綺麗過ぎるのも悪影響をもたらす良い例よね、鼻が敏感な人だと余計にね・・・」

シルフィがこう言っているのはフォルネーゼに対してだ、ただでさえ鋭敏な嗅覚がこれまでは感じ取れなかった物まで嗅ぎ取ってしまう。だが、これまでの仕返しとばかりにフォルネーゼは突如振り返ると後ろに居たある2人に話しかけた。

「そういえばピートさん、イヤホンさん。御2人は昔からとても仲がよろしいのですか?」

『急に何を言い出すのかな?2人は創世の神の仲間としてこの世界を見守ってきたんだ。仲が悪い訳無いじゃないか』

「ですよね、この森に入って気付きましたが2人からお互いの体の匂いが移っておりましたので・・・つい」

(なんだって!?それじゃ2人は俺達の知らない間に抱き合っていたとでも言うのか?)

仰天したのは俺だけでは無い、バルドやシルフィにエルフ達までピート達に視線が向かっている。ちなみにシャンティは昨晩もフォルネーゼと俺に攻められ過ぎて気を失い未だに砦の中で目を覚ましていない。

『き、急に何を言い出すんだフォルネーゼ!?ぼ、ボク達はそんな事をするなんて・・・なあ、イヤホ』

ピートは同意を得ようとイヤホンの方を振り向くがイヤホンが顔を赤くしながらモジモジしている為絶句してしまう。神のくせに誤魔化す事が出来ないとは・・・。

「まあ、その・・・なんだ。神同士とはいえ仲が良いというのは良いものだ。これ以上立ち入った話を聞くのは野暮だろうからそろそろシルフィの父君に会いに行かないか?」

『ああ、そうだねそうしよう!』

「この場はこれくらいにしておきましょうか、ですがピートさんイヤホンさん。これまでにも何度か夜になると壁の向こう側から聞き耳を立てていた事については今晩ゆっくりとご説明して頂くのでそのつもりで・・・」

『『はい・・・』』

どうやら、ピート達は俺達の夫婦生活を覗き見していたらしい。フォルネーゼを甘く見ていた罰だが、覗き見されていた事をシャンティが知ったらどうなるだろうか?羞恥のあまりにまた気を失いそうだから黙っておくとしよう・・・。

しばらく森の中を進んで行くと、少し開けた場所に1件の家が現れた。

「ここが私の家です」

シルフィが俺達に告げると一緒に付いてきていたエルフ達にもお礼と一緒にこう言っていた。

「ここまで一緒に来てくれて有難う、お父様に一言挨拶をしたらまたこの森を出て本来の家に帰ります。もう戻らない、戻れないかもしれないけどこの森を守ってきた聖樹はイヤホン様とこの帰宅の旅路で判明しております。もうこの森に住むエルフは誰にも森から出る事を止められたりはしない。閉鎖された世界を出て世の広がりを自らの目や耳で知る時が来たのです」

エルフの男達はシルフィや俺達に軽く頭を下げるとこの場を後にする・・・しかし

「まあな~これまで聖樹と拝んできたのは実は神様がスピーカー代わりにしていただけで、その神様も夜中に抱き合っている様じゃ外の世界で嫁でも探して連れて帰ってきても問題無さそうだよな・・・」

なんて会話が聞こえてくるので、ピートとイヤホンは脂汗が流れっぱなしである。敬虔なエルフに崇められなくなる創世の神・・・信用を失った政治家を間近で見ている様でなんか嫌だった。

シルフィは家の扉の前に立つと、溜息を吐きながら俺達に向かって

「これから、少しお見苦しい所を見せると思いますがどうかご容赦下さい」

と言いながら扉をノックする。すると扉の向こうから男性の返事が聞こえてきた。

「お父様、シルフィです。今まで家を留守にしてしまって御免なさい。ただいま戻りました」

言うが早いか家の扉が勢い良く開くと、中から見た目は40台近いエルフが飛び出してきた。

「シルフィ~!!パパはねパパはとっても寂しかったんだよ!ママも居ないからこの家の中で何度お前の為に涙を流し溺れそうになった事か・・・もう外は危ないからパパが許すまで絶対家から出ちゃダメだよ、分かったね?」

シルフィに抱きつきながら恍惚の笑みを浮かべて頬ずりしている男性、それが弓聖とまで言われたシルフィの父ストラトス・ウィンドであった。

シルフィの困惑する様子を見て堪りかねたバルドが前に出て話かける。

「あの、お義父君。少しよろしいですか?」

「なんだね君は?失礼な奴だ、まずは名を名乗りなさい」

ストラトスはシルフィに向けていたものと異なりバルドを見下した目で見る。

「俺の名はバルド、あなたの大事な娘シルフィの夫です」

そう答えるとストラトスは急に笑い出しながらシルフィに話しかけた。

「ハハハ!シルフィ、君の連れてきた人族の者は冗談がとても上手な様だ。空気を和ませる為にこんな冗談を言えるなんて素晴らしい友人を持てたみたいだね」

だが、シルフィの返す言葉はストラトスの望むものでは無かった。

「いいえ、お父様。わたしはこのバルド様に助けられ救って頂きました、そして共に過ごす内に1人の男性として愛する様になり夫婦となりました。今日はこれまで帰らなかった謝罪と、正式に家を出る挨拶を済ませる為にこうして帰郷してきたのです」

ストラトスは慌ててシルフィを止めようと説得を試みるが無駄だった。シルフィの意思の強さを認めたストラトスは俺達に顔を向けると先程とは違い丁寧に頭を下げてきた。

「大変お見苦しい所を見せました、私がシルフィの父ストラトスです。この通り、娘は1度決めると最後までやり遂げようとする気性があって妻によく似ております。ご迷惑をお掛けするかもしれませんがよろしくお願いします」

娘を溺愛するあまり、人が変わる御仁のようだ。ストラトスは俺達を一通り眺めると気になる2人を見つけ聞いてきた。

「あの~?そちらのお二方からは人族でも魔族でも無い高位の力を感じるのですが一体何者ですか?」

『や~ストラトス、挨拶をするのは初めてだね。ぼくの名はPTT、ピートと呼んでくれ。隣に居るのはイヤホン、旅の途中から面白そうなので付いてきている。創世の神と呼ばれては居るが気にしないでくれたまえ』

ストラトスの反応が無いので、シルフィが父親の肩を叩くとそのまま前のめりに倒れてしまった。どうやら気絶していた様だ、俺達は今日中に挨拶を済ませ砦に帰宅出来るのか不安を感じつつもストラトスを抱えて家の中に入るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

処理中です...