とあるVRMMOにおける平凡じゃない日常

いけお

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第16話 スキルの強さと人の器

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ウッドリバーに向かう旅路にソーリーとラッキーが加わり、4人の気ままな旅が始まった。ほぼ毎日、ラッキーのドジで召喚されるモンスターにソーリーが襲われるのが日課となっているが、ソーリーも慣れたというか慣らされたというべきなのか現実でも有段者の心得が有る為か槍の腕前も物凄い勢いで上達しレイドボスを召喚されない限りは死ぬ様な事は無くなっていた。

ちなみに・・・マイハウスの住み心地は抜群で野宿の心配が無くなったのはもちろんだが、何よりもシャワーで汗を流せるのは嬉しかった。2人だけの時よりも4人になって目的地に進むペースが遅くなっていたが、ここは何をするのも自由だから急ぐ必要も無かった。そして4人になってから、約1週間過ぎてようやくウッドリバーのエリアに踏み込んだ。

ウッドリバーエリアからは、これまでフォックス系が主だったツインレイク等と違いウルフ系に変わり群れで行動している様になっていて必然的に4~5匹がリンクして襲ってくる。フォックスリーダーなどで群れと戦う経験を積んできた者達ならそこまで手こずらないと思えたが1人でプレイしている人は最初戸惑うかもしれない。余談ではあるがグリーンフォレストエリアはウルフ系ではなくてベアー系でソロプレイ向けのモンスターだったらしい。

早速4人でウッドリバーエリアでの初狩りに挑戦してみる事にした、まずは弓スキルを持つ俺が適当に1匹に狙いをつけて矢を放つ。すると4匹の狼がこちらに向かい襲い掛かってきた、近くまで来てモンスターの名前を確認するとグレーウルフと出ていた。エリアが変わりモンスターの強さも二回り近く跳ね上がっていた、素早さや攻撃力はもちろんだがAIで統率されているのか俺やソーリーに向かおうとせずにラッキーやシズルを優先的に狙おうとする。

「やはり、一筋縄ではいかないか!」

「これは!結構歯ごたえが有るなイセア君!」

ここで奇跡的に役に立ったのがラッキーだった、彼女は召喚術でゴーレムを呼び出そうとしたが失敗してラビットを召喚してしまう。しかし、弱い者から狙うAIが召喚されたラビットを優先して攻撃の矛先が変わったのだ。

「チャンスだ!いくぞギャンブルアロー」

ラッキーが偶然作ってくれたチャンスを活かし、弓を素早く取り出してギャンブルアローを唱えた。すると、今回は矢が2匹の狼に20本ずつ刺さりまずは2匹退治出来た。

「わたしもイセアに負ける訳にはいかぬ!喰らえ流星槍~!!」

ノリノリな口調でソーリーもつい最近覚えたばかりの槍スキルを使った、流星群の様に何度も突きを放つスキルらしいのだがソーリーが使うとまるで漫画のワンシーンみたいに残像が浮かびそうな位乱れ突きの状態となっており残り2匹の狼は穴だらけになって消えていった・・・。

「ソーリーもしかして、さっきまで手を抜いていたのか?」

「そんな訳が無かろう!ラッキーやシズルにもしもの時にすぐ動ける様に身構えていただけだ」

「2人に何時でも近付けるだけの余裕を残して戦っていた訳ね・・・」

「イセアもリーダーなのだから、いずれはわたしも含め3人を守れるだけの余裕を持てる様になるのだな」

「先が遠過ぎる様に感じるけど、頑張るよ」

グレーウルフは余裕をもって倒せる事が分かったので安心して目的地に向かう、そして昼を少し過ぎた頃無事にウッドリバーに到着した。ウッドリバーは名前だけだと村みたいな印象を抱いてしまうが実際はツインレイクよりも大きな町だった。川を用いた輸送や移動手段が進んでいる分早く発展してきたらしい、町の市場に行ってみるとこれまで見た事も無かった野菜や果物と肉などを売る露天が並んでおり品数も豊富だ。中でも町の名物が川で取れた新鮮な魚を使ったフライで早速4つ購入して試しに食べてみると病みつきになる美味さだった。

「これ、白身魚のフライに近いけど味は完全に別物だよな」

「ええ!毎日でも食べたい位ですね」

「イセア、もう1つ頼んでもいいか?」

「ソーリー、それでもう5個目でしょ!?流石に食べ過ぎだって!」

「ほんと、ここにずっと住んでいたい気持ちにされちゃいますよね~♪」

そんな会話をしていると、近づいてきたプレイヤーがこんな言葉を吐いてきた。

「いいよな、レアスキルで簡単に強さを手に入れた連中は・・・こっちは何度もデスペナ喰らいながらようやく辿り着いたのに武器の修理や食料の調達に金を払えばそんな名物を買う余裕も無い。強い連中が群れれば楽しいパーティーだろうがもっと弱い連中の事考えて行動して欲しいもんだわ」

その言葉に反応したのはソーリーだった。

「君、その言葉は聞き捨てならないな。誰が簡単に強さを手に入れたって?」

「お前らに決まってるだろうが!?」

「我々は先程このウッドリバーに到着したばかりなのだが、君は何時この町に来たのかね?」

「はあ!?1週間以上前だがそれがどうかしたのかよ!!」

「ならば、君は我々よりも先にこの町に来れるだけの強さを手に入れているのではないのかな?」

「!?」

「知っていると思うが、イセア君とシズル君は次の目的地に迎えるだけの強さを得たと納得しない限り前に進もうとしない性格でね。それが今回一緒に旅をする様になってよく分かった」

「そして、私と隣に居るラッキーもレアスキルを持っている様な言い方をしていたが違う。私が持っている槍のスキルは基本の【突き】とそこから派生する【流星槍】と【渾身の突き】の3つしか持っておらん」

「それ、マジかよ!?」

「ああ、ラッキーにいたっては猫からゴーレムまでをランダムに召喚する基本術式しか使えないがゴーレムを呼んだ試しが無い」

「聞いた話だと、水晶狐を召喚したっていうじゃないか!嘘を言うんじゃねえ!?」

「あの時の1件を見ていた人が居たのか・・・あれは正直思い出したくも無いのだが、その時の被害者が私だよ」

「あんた、よく一緒のパーティーを続けられるな。俺だったら即抜けて別の所を探すぞ、デスペナなんて貰ってたら割りに合わないからな。たった3つのスキルでそれだけの強さを持っているなら俺の居るパーティーを紹介しても良いぞ、どうだ来ないか?」

「悪いが断らせてもらうよ、君の様に打算でパーティーを組んでいる訳ではないのでね。イセアやシズルにラッキーと4人で旅をしたいからパーティーを組んでいる。それに先程の話に戻させてもらうが、イセアやシズルは簡単に強さを手に入れている訳じゃ無い。イセアは今でも朝と夜の筋力トレーニングを欠かさないしシズルも瞑想を行い魔力の強化をしている。君は同じだけの努力をしてきたのかい?していない筈だ、だから最初の様に心無い事も言えるんだ」

旗色が悪くなってきたのか返答に困っているプレイヤーにソーリーはトドメの一言を言った。

「行きたまえ、わたしは君のパーティーに入る事もしないし君をパーティーに誘いたいとも思わない。スキルの強さ云々よりもまずは人の器を広げる事から始めた方がもっと楽しめる様になると思うぞ」

「後でみてろよ、今言ったセリフを後悔させてやるからな・・・」

吐き捨てるようにそれだけ言うとプレイヤーは去っていった。

「お、おい!大丈夫か?あんな事を言えば仲間を引き連れて決闘でも挑んで来かねないぞ」

「ああ、来たら来たでお出迎えするだけだ。実は1つだけ嘘を言っているのだよわたしは」

「どんな嘘を言っていたんだ?」

「わたしは槍のスキルを3つしか持っていないと言ったが実際は後1つ空から無数の槍を落とし広範囲の敵を倒すSSRスキル【裁きの槍雨】をスキル獲得くじで手に入れておる」

「うわ!?国会で嘘は良くないとか言っていながら、こっちじゃ嘘を言えるんですね」

「ここは何をするのも自由なのだろう?イセア君とシズル君を守る為に嘘を幾つも重ねてもわたしは構わないと思っているよ。それが罪だというのならば見合うだけの罰も受けよう」

「ソーリー・・・」

改めてソーリーこと総理の心に救われた気持ちがした。そしてさっきのプレイヤーとソーリーの人としての器の大きさの差を感じて、これから何も起きない事を願わずにはいられなかった。
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