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第5話 現実での和解

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「では、自己紹介も終わりましたので早速意見交換を始めたいと思います。まず始めに今回のお仕置き事件において我々運営サイドが行った罰に関して何か意見等はございますか?」

最初の質問から全力のストレートを投げてきた。俺は思っている事を伝えようと言葉を選ぶが中々思い浮かばない、そうしているとシズルさんが挙手して発言の許可を求めた。

「静流さん、どうかされましたか?」

「あの、この場での発言は公にはされないと思いますのでよろしければ3人共ゲーム内のキャラクターネームで会話をしませんか?仮想世界で起きた事件を現実の人として語ろうとすると、上手く言葉で言いづらい部分が有りますから・・・」

「そうですか・・・聖亜さんは静流さんの提案をどう思われますか?」

「はい、それで構わないです。俺も現実世界の立場から意見を言おうとするのには、ちょっと無理を感じていたので」

「では、ここからはゲーム内での名前で会話をしていきましょう。我々としても、本心からの言葉を聞きたいので」

「ジャッジさん、まず始めに俺から率直に言わせて頂いてもいいですか?」

「はい、イセアさんどうぞ」

「シズルさんがもし反対の意見だったら、言い出しづらくしてしまうかもしれないから先に謝っておくゴメン。俺はジャッジさん達運営のしたお仕置きを全面的に支持します。被害者に与えた苦痛や苦しみを実際に味わう事で自らの仕出かしたものの大きさを理解出来ると思えるからです。そして・・・あの時、もしもアカウントの停止などで済ませていたら俺はゲームを退会していたでしょう」

「イセアさんは、我々が行った罰を支持してくださるのですね。シズルさんはどうでしょうか?」

「私も支持の立場ですが、1部付け加えて欲しい事がございます」

「それは何でしょうか?」

「お仕置きを行った後にもしも犯人が本当に反省をしている場合には、今回の意見交換会の様に被害者の方々と直接会って謝罪する機会を設けて戴けませんか?」

「「!?」」

「これは総理の言っていた死刑の廃止後の事も踏まえての意見です。事件を起こした際は一時の快楽や衝動に駆られての犯行かもしれません、ただ現在の制度では死を与えられた後に本当に反省をしたのか判断する事は出来ません。何しろ犯人は死んでいるのですから・・・」

「なので、私が提案したいのは死刑の廃止後はその犯人が殺害した状況を再現してその恐怖や苦しみを本人に体験して貰いどれだけの事を起こしたのか理解してもらいたいのです。そして、反省する事が出来たのなら遺族の方に直接謝罪する場を設けて、本人の口から反省の言葉と謝罪を言ってもらう事を望みます」

俺はゲーム内での事しか考えていなかったが、シズルさんは総理の言っていた死刑の廃止後の事まで考えていた。俺よりも若いのに何て聡明な方なんだろう。

「シズルさんはどうしてそこまで踏み込んだ意見を出す事が出来たのですか?よければ教えてください」

「ジャッジさん・・・今回被害に遭った方達の家族構成などは既に把握している筈では?ならば、私が現実世界でも実際に家族を殺された人間だと知っているのにそれを聞きますか!?」

「!?」

「イセアさん、気分を害する様でしたらすみません。私は両親を薬物を打ち錯乱状態にあった方に刃物で何度も刺され殺されました。その裁判の中で、犯人は『俺は刺した事なんて覚えていない!覚えていない事を何で反省出来る!?どうせ俺が死ねばそれで済む話だろうが!?』と反省の言葉を聞く事も出来ず死刑の判決が下り、数年後に執行されました・・・」

「遺族の側からすれば、たしかに犯人に命をもって償って欲しい気持ちは有ります。けれど、何人もの家族を失った者からすればたった1回死ねばそれで許されると思われるのも我慢出来ないのです!」

「奪った命の数だけ擬似的でも構わないから同じだけの恐怖を味わって欲しい、そして家族が味わった苦痛と望まない死を与えた己の罪と向き合って欲しいのです」

シズルさんは流す涙を拭く事もせず語ってくれた。ジャッジさんは、俺にわざと聞かせる為にあえてあんな質問をしたのかもしれない。そしてシズルさんもその気持ちを汲み取って話している。俺は自分の浅はかさを恥じるばかりだった。

「シズルさん、すまなかった。俺はあなたに比べて本当に目先の部分しか見えていなかった、今回のお仕置きはこれからの日本の・・・いや世界中で死刑が廃止された後の事をもっと深く考えていかないといけない事を知らしめてくれた出来事だったんだね」

「いえ、私の方こそ泣いている所を見せてしまいすいませんでした」

『シズルさん、辛い事を思い出させてしまって済まなかった。改めて私からも謝らせて欲しい、今回は本当に申し訳ありませんでした』

入ってきた扉の向こう側から、シズルさんに謝罪する声が聞こえたかと思うと扉が開き2人の人物が入ってきた。1人はまだ未成年の少年のようだが、もう1人は先日TVで見たばかりの人物だった。

「え、総理が何故ここに!?」

「イセアくん、シズルさん。今回は申し訳無い事をした、すまない。実は私も意見交換に参加して直接話を聞いていたのだよ」

「そうだったのですね」

「ああ、そしてシズルさん。今回ゲーム内において行ったお仕置きは、あなたが付け加えて欲しいと望んだ結果も起こしてくれました」

「私が望んだ結果ですか?」

「そうだ、この意見交換会はこの子が直接謝罪したいと運営に申し出が有って実現させた物でも有るんだ」

「じゃあ、この子がもしかして!?」

「はい、僕が今回皆さんをPKした犯人です。擬似的とはいえ、苦痛を与え死の恐怖を味わわせてしまいすいませんでした!!」

少年はその場で土下座をして、俺達に謝罪する。俺はシズルさんが望んでいた物を感じる事が出来た。

(そうか、ただ同じ目に遭えば良い訳じゃないんだな。実際に反省の言葉を聞く事で許す気持ちも沸いてくるのか・・・)

「シズルさん、今ようやくあなたが望んでいた物を自分も実感する事が出来ました。同じ目に遭って貰うだけでは不十分なのですね、その後に本人の口から謝罪の言葉を言ってもらう事で初めて犯人を許そうと思える様になりました」

「イセアさんにも、私の気持ちが伝わった様で何よりです・・・」

「この件をマスコミ連中は否定的な意見に国民の意識を向けさせようとしている、だが私が目指している死刑の廃止後の在り方はシズルさんと同意見だ。今日は貴重な意見を出してくれて本当にありがとう」

総理が俺達に頭を下げると、ジャッジさんも頭を下げた。俺はいまだに土下座を続けている少年に近寄ると頭を軽く叩きながらこう告げた。

「もう立っていいよ。お前が反省しているのはよく分かった、もうこんな事はしないだろう?それが分かれば十分だよ」

少年を立たせてやると、肩を叩き慰めた。これ以上罪の意識を持ったままでいると、彼の心も壊れてしまうと思えたからだ。

「今日は忙しい中、ご足労頂きまして有難うございました。意見交換会は以上で終了したいと思います。お二人には今回お越しいただいたお礼として、最上階のスイートルームを各1部屋用意してありますのでそちらで疲れを癒してください。また**階のレストランでのディナーもご用意してありますので、もしお互いで更に意見の交換をされたい場合はお時間の許す限りなさってください」

ジャッジさんは、俺とシズルさんにスイートルームの鍵とレストランのディナーの予約券を渡すと犯人の少年を連れて部屋を後にした。そして残された俺達と総理も後に続き部屋を出てエレベーターに乗り込んだ。

「意見交換会は今回の君達が最後の番だった、本当はディナーもご一緒させて貰いもう少し話をしたかったがまだ公務が残っているのでね。それに君達2人は結構気が合っているみたいだから邪魔者は消えるとしよう、2人で仲良く食事を楽しみたまえ」

総理はそう言い残しエレベーターから降りた、残された俺とシズルさんは2人で気恥ずかしさを感じながらレストランの在る階まで無言の時間を過ごしたのだった。
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