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さあ皆さん、何故かまたベルモンドのターンです。

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 ゼフは負傷して後方に下げた、部下達の悲鳴が聞こえた気がした。
 一時この場を近くに居た者に任せ、奥へ行くと信じられない光景が広がっている。

「嫌だ、俺はこんな所で死にたくない!!」

 透き通る髪を持つ少女が、部下の1人を丸呑みにしているのだ。
 そして呑み込むと次の獲物を掴む、どんなに泣き喚き命乞いをしてもその食事が止まる事は無い。
 
 横たわっていた部下を全て喰い終えた少女は、ゼフを横目で見ながら一言呟く。

「まずい」

 そう言いながら、口から何かを飛ばすとゼフの足元で転がった。
 
「ひ、ひぃっ!?」

 それは人の骨の一部、そして自分が少女の次の獲物に選ばれた事を理解する。
 ゼフはその場から無我夢中で駆け出すと、広間に残してきた部下を呼び戻そうとした。

「おい! 全員今すぐこちらに来るんだ、化け物がいるぞ!?」

「……化け物って、私のこと?」

 姿を見せたのは先程の少女、いつの間に先回りされたというのか!?
 だがその疑問は背後からもう1人現れたことで、より混乱する事態となる。

「あなた、カイの元仲間にしては頭の回転が鈍いのね。 それでよく彼を殺せると思えたのかしら?」

「き、貴様は何者だ?」

 少女の前に歩み出てきた1人の娘、まったく見覚えが無い。

「私の名はリーアベルト・セントウッド、分かりやすく言えば転生した魔王リアベルよ」

「ま、魔王リアベル! それも転生しただと!?」

(な、なんだこの世界は。 勇者カイでなく、魔王リアベルまで転生してるとは!? 神託にこのような事は記されていない、神は私に何を望まれているのだ……)

 ゼフが混乱していると、頭の中に神の思念が届く。

(私がしようとしているのは手術ですよ、こびり付いた膿を取り除く。 保身の為に召喚した勇者を殺そうとするような、腐りきった膿から先に排除しないと)

「そんな! あなたは偽りの神託を使って、私達を陥れたのですか!?」

 突然洞窟の天井に向かって叫ぶゼフを見て、カイ達の動きが止まる。
 
(逃げるなら今しかない!)

 一瞬の隙を突いて、ゼフは洞窟の入り口へ転移した……。



 転移したゼフはカイを道連れにするべく、仕掛けておいた罠を起動させようとする。
 しかし何度起動の術式を打ち込んでも、罠が作動する様子が無い。

(これは一体何事!?)

 再び術式を発動させようとした時、数人の男女の声が聞こえてきた。

「まったく、なんですかこの幼稚な罠は。 雑然と張り巡らせただけで、美しさの欠片も見当たらない。 作った者の顔が見たいものです」

「システィナ様。 出番が無くなったからと言って、機嫌を悪くなさらないで下さい。 折角のその美貌が、台無しですぞ」

「ふん、まあ良いわ。 女神であるこの私に、見つけられない罠など無いのです。 私のこの素晴らしき叡智に、お前達も感謝しなさい」

 日の当たる場所に出てきた3人組、その内の女性の背中に生えている白い翼を見たゼフは先程聞かされた神の思念を思い出す。

『私がしようとしているのは手術ですよ、こびり付いた膿を取り除く。 保身の為に召喚した勇者を殺そうとするような、腐りきった膿から先に排除しないと』

(この私をあの神は、腐りきった膿と言いやがった。 膿というのは、あの勇者カイの方では無かったのか!? どいつもこいつも私を馬鹿にしやがって……)

 ゼフの中で目の前の女に対する、猛烈な殺意が湧き上がった。
 自身に透明化の魔法を掛けると、護身用の短剣に猛毒を塗る。
 そして気配を殺しながら、女の背後に忍び寄った。

「どうやら背後からの奇襲を試みようとする者は居なかったようですな、システィナ様」

「そうね、ベルモンド。 どうせ中に彼らに敵う者など居る筈無いですし、少し外の空気を吸ってから戻りましょう」

 システィナが腕を伸ばしながら、軽く背伸びをし始める。
 それを見ていたベルモンドの前で、彼女の背後に突如短剣を持った男が現れた!

「危ない!」

 とっさに飛び出したベルモンドが、システィナを突き飛ばして守る。
 彼女の背中に刺さる筈だった短剣が、代わりにベルモンドの腕に刺さった。

「システィナ様には、指1本触れさ……

 言いながら、その場で崩れ落ちるベルモンド。
 顔は徐々に血の気を失い、口からも血を吐き出しピクリとも動かない。

「ははは、馬鹿な男だ。 こんな神を名乗る、愚かな女を庇おうとは。 私を馬鹿にする連中には、これが当然の裁きだ!」

「裁き? 裁きですって!?」

 システィナの中で、何かのベクトルの向きが変わった。
 彼女は半ば狂い始めているゼフを指差しながら、神の力を集める。
 いつもならば彼女の頭に金ダライが落ちたりする筈だが、今回は少し違っていた。

 金ダライが落ちてきたのは、ゼフの方だったのである。
 痛みで正気に戻るゼフ、けれども彼女は力を使うのを止めようとはしない。

 次々に頭上に現れる金ダライ、それらをゼフは巧みに避ける。
 だが何故か足元に落ちていたバナナの皮を踏んで、とうとうゼフは転んでしまった。

「痛たたた……。 んぅっ!?」

 倒れたゼフの視線の先にあったのは、視界を全て覆い尽くすパイの山。
 重さ10数tにも及ぶ大量のパイが降り注ぎ、その中に彼は埋もれる。

 その後パイが取り除かれた時、ゼフは口を開けた状態で死んでいた。
 彼が最期にどのような事を口走ろうとしていたのか、分かる者は誰も居ない……。



「はぁはぁはぁ……」

 肩で大きく息をしながら、システィナは額の汗を拭った。
 力を使い続けた影響からなのか、少し朦朧としている。
 そして洞窟からカイ達が出てきたのを確認すると、彼女は意識を手放した。

「……ふぅ~~! ……ふぅ~~!」

 ……一定の間隔で、何か柔らかなものが口に触れる感触がする。
 その度に新しい空気が肺の中に送り込まれ、徐々に脳の酸欠状態も回復していく。

 瞳を開くだけの力を取り戻したシスティナが微かに目を開けると、目の前にベルモンドの顔が迫っていた!
 少し荒々しく押し付けてくる唇、そして彼が送り込んでくる空気。
 彼女の脳がめまぐるしい勢いで回転を始めた、こんな状況は1つしか考えられない。

(まさか……今、私は彼に人工呼吸されているの!?)

 恥ずかしさのあまり、彼を突き飛ばしそうになるシスティナ。
 けれどももう少しこのままで居たい、そんな気持ちも同時に押し寄せてくる。

 そんな彼女の様子を、アニスはニヤニヤしながら見物していた。

「ほら、ベルモンドさん。 もっと抱き寄せるようにして、息を送りなさい。 でないと彼女が喜びませんよ」

「喜ぶ? 今はそれどころでは無い! 今度こそ我輩が、彼女を守るのだ」

 再び間近に迫る、想い人の顔。
 だが他の人達に見られている事に気付いたシスティナは、瞬時に彼の顔を殴り飛ばす!

「もう良い! これ以上されたら、今度こそ私はダメになってしまう。 だが助かったぞありがとう、ベルモンド」

 赤面しながら礼を言うシスティナ、神というよりもすっかり恋する乙女である。
 気を取り直してカイ達に洞窟内の結果を聞こうとすると、彼らの中にどこかで見た覚えがある女性の姿があった。

「ところで、そこに居る女性は誰? どこかで見た覚えがあるけど……」

「あなたも結構薄情ねシスティナ、私の事を忘れるだなんて」

 不服そうに返事をする女性、やはりどこかで会っているらしい。
 するとカイが嫌そうな顔をしながら答える。

「面識ある筈だぞ、彼女の名はイレイア。 俺を前の世界で勇者として召喚した女神でもあり、あとさっき分かった事だがアニスの姉さんだそうだ……」

 アニスの姉、これだけでシスティナの脳裏には嫌な予感しかしなかった……。
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