38 / 45
招かれざる客
しおりを挟む
「カイ君……路銀があと1週間ほどで尽きるけど、どうしよう?」
カイがリビングで朝食の準備をしていると、ウミナが突然路銀が尽きると言い出した。
なんでも町の空き家を1軒買ったのが、何気に響いたらしい。
「ほらベルモンドやシスティナさん達も住める大きさの空き家となると、下手な下級貴族並の屋敷の広さになってしまうのよ。 それにお父様からの連絡もまだ来ないし、狩猟者にでもなって生計立てないとならないかも」
「狩猟者?」
(俗に言う狩人のことか? それなら海も近いし、漁師の方が楽じゃ……)
「狩猟者ってのは、魔物などを狩りその素材を売って生計を立てている者のことよ。 元の世界のRPGで出てくる、冒険者がこれに近いかも」
カイの考えていたことを読んだウミナが、狩猟者の説明をする。
説明を聞いてみて、彼は狩猟者で生計を立てるのも悪くない考えだと思えた。
実際ここに揃っているメンバーに危害を加えられるのは、先日の生首くらいだろう。
おまけにその首をスミが捕食した結果、生首クラス数人来ようとスミが分裂を繰り返す限り負ける事すらありえない。
カイは急いで朝食を作り終えると全員を叩き起こし、今後の予定を話した。
「……っという訳で、俺達がここで生活していくにはお金が必要だ。 そこで暫くの間、俺達は狩猟者となり素材を売って金を稼ごうと思う」
ブーブーと文句を言うリアとウミ。
カイはゲンコツの代わりに、胃袋から彼女達を捕まえる作戦に出る。
「良いか? 何も全てを売る訳じゃない、素材といっても中には喰える肉だって含まれる訳だしな」
「喰える肉?」
「そうだ、俺達なら色々な魔物だって余裕で狩れる筈だ。 その日に取れた、新鮮な食材で飯を作るってのはどうだ? タラスクを狩れば、タラスク鍋がまた喰えるぞ」
(タラスク鍋!?)
タラスクというキーワードに、リアだけでなくウミナやシスティナまで反応した。
食欲旺盛な面々は、全員一致で狩猟者となることが決定したのである……。
朝食を終えた一行はさっそく町にある、狩猟者の組合へ向かう。
狩猟者の免許に特に条件は無く、年会費を納めるだけで良い。
昼までに全員の登録を済ませると、足早に町を出て初日の目的地を目指した。
スミが曳く馬車に揺られること1時間、一行が着いたのは旅人があまり通らない道。
(こんな所に魔物が出るの?)
リア達が疑問に思っていると、カイが本日のターゲットの説明を始める。
「え~本日の獲物は人です」
「ひと!?」
いきなり物騒なセリフが飛び出したので、リア達は驚いた。
「実はこの道で先日、行商人の一団が野盗の連中に襲われ食料などの物資を奪われた。 そこでだ、今度は俺達が野盗の連中を狩ってそれを奪い返そうって寸法だ」
そう、狩猟者が狩る相手は魔物だけではない。
野盗などの犯罪を犯した連中を討伐するのも、立派な仕事の1つである。
前にも説明したが野盗とは、奴隷として雇ってもらえなかった者達の成れの果てだ。
食って行く為に仕方なく人を襲うのだが、むやみに人を傷つけるような真似はしない。
しかし極一部にそれを忘れ、殺傷行為におよぶ奴らも現れる。
今回この道に出没した野盗は、そんな連中だった……。
「かろうじて一命を取り留めた商人の話では、野盗達は商人の妻や娘を拉致している。 今頃どんな扱いを受けているか想像出来ると思うが、助けられる限りは助けたい」
一旦深呼吸してから、カイは本題を言い始める。
「命を奪い弄ぶ連中だ手加減する必要は無いが、まずは連れ去られた人達を救出するのが先だ。 システィナ・ベルモンド・デモンの3人は、その救出隊として動いてくれ」
「了解した。 かよわき女性を傷つけるような連中は、我輩の剣で成敗してくれる!」
ベルモンドが意気揚々と答えた。 その横でシスティナが何故か顔を赤くしているのを見たアニスは、これまでとは違う彼女の変化を好ましく思えたのだった。
「ところでカイ、その囚われている女性達を救出した後はどうするの?」
「もちろん逃がすつもりは無いよ、狩られる側の恐怖を思う存分味わってもらう。 もし命乞いされ1度だけ許したとしても、矯正する可能性は低い。 後々の犠牲者を防ぐ意味でも、必ず根絶やしにするぞ」
「……………」
リアやアニスは久しぶりに見たが、他の者達にとっては初めて見るカイの闇の部分。
当時魔王だったリアを討った彼を仲間達は裏切り、命を狙ってきたのだ。
根っこの部分で人間不信、身内と認めた者だけしか信頼しない。
義妹のウミでさえ、溺愛する義兄を一瞬だが怖いと感じている……。
(彼の心をここまで傷つけるなんて、一体どんな連中なのよ!?)
リアが憤りを覚える頃、今回の獲物である野盗達のアジトではある異変があった。
自然の洞窟を改造したアジトの中で、男や女達の悲鳴が聞こえる。
真っ暗な洞窟の中には血の臭いが充満しており、吐き気を起こしそうだ。
「洞窟内に居た者、全て始末しました」
「ご苦労、では当初の予定通りここで迎え撃つぞ」
「ところで、本当にここに彼の者は来るのですか?」
部下からの質問に、その男は薄気味悪い笑みを浮かべながら答える。
「来る、そう神託が下されておるのだ。 神託に逆らうというのであれば、貴様も異端者として処分するぞ」
慌てて所定の位置に逃げる部下、足下の血だまりを見ながら男は呟く。
「お前がこの世界に逃げるから、余計な命を奪わねばならなかったではないか。 今度は確実に殺す、この地が貴様の墓標となるのだ勇者カイ!」
前世のリアとカイが居た世界から、招かれざる客が到着していた……。
カイがリビングで朝食の準備をしていると、ウミナが突然路銀が尽きると言い出した。
なんでも町の空き家を1軒買ったのが、何気に響いたらしい。
「ほらベルモンドやシスティナさん達も住める大きさの空き家となると、下手な下級貴族並の屋敷の広さになってしまうのよ。 それにお父様からの連絡もまだ来ないし、狩猟者にでもなって生計立てないとならないかも」
「狩猟者?」
(俗に言う狩人のことか? それなら海も近いし、漁師の方が楽じゃ……)
「狩猟者ってのは、魔物などを狩りその素材を売って生計を立てている者のことよ。 元の世界のRPGで出てくる、冒険者がこれに近いかも」
カイの考えていたことを読んだウミナが、狩猟者の説明をする。
説明を聞いてみて、彼は狩猟者で生計を立てるのも悪くない考えだと思えた。
実際ここに揃っているメンバーに危害を加えられるのは、先日の生首くらいだろう。
おまけにその首をスミが捕食した結果、生首クラス数人来ようとスミが分裂を繰り返す限り負ける事すらありえない。
カイは急いで朝食を作り終えると全員を叩き起こし、今後の予定を話した。
「……っという訳で、俺達がここで生活していくにはお金が必要だ。 そこで暫くの間、俺達は狩猟者となり素材を売って金を稼ごうと思う」
ブーブーと文句を言うリアとウミ。
カイはゲンコツの代わりに、胃袋から彼女達を捕まえる作戦に出る。
「良いか? 何も全てを売る訳じゃない、素材といっても中には喰える肉だって含まれる訳だしな」
「喰える肉?」
「そうだ、俺達なら色々な魔物だって余裕で狩れる筈だ。 その日に取れた、新鮮な食材で飯を作るってのはどうだ? タラスクを狩れば、タラスク鍋がまた喰えるぞ」
(タラスク鍋!?)
タラスクというキーワードに、リアだけでなくウミナやシスティナまで反応した。
食欲旺盛な面々は、全員一致で狩猟者となることが決定したのである……。
朝食を終えた一行はさっそく町にある、狩猟者の組合へ向かう。
狩猟者の免許に特に条件は無く、年会費を納めるだけで良い。
昼までに全員の登録を済ませると、足早に町を出て初日の目的地を目指した。
スミが曳く馬車に揺られること1時間、一行が着いたのは旅人があまり通らない道。
(こんな所に魔物が出るの?)
リア達が疑問に思っていると、カイが本日のターゲットの説明を始める。
「え~本日の獲物は人です」
「ひと!?」
いきなり物騒なセリフが飛び出したので、リア達は驚いた。
「実はこの道で先日、行商人の一団が野盗の連中に襲われ食料などの物資を奪われた。 そこでだ、今度は俺達が野盗の連中を狩ってそれを奪い返そうって寸法だ」
そう、狩猟者が狩る相手は魔物だけではない。
野盗などの犯罪を犯した連中を討伐するのも、立派な仕事の1つである。
前にも説明したが野盗とは、奴隷として雇ってもらえなかった者達の成れの果てだ。
食って行く為に仕方なく人を襲うのだが、むやみに人を傷つけるような真似はしない。
しかし極一部にそれを忘れ、殺傷行為におよぶ奴らも現れる。
今回この道に出没した野盗は、そんな連中だった……。
「かろうじて一命を取り留めた商人の話では、野盗達は商人の妻や娘を拉致している。 今頃どんな扱いを受けているか想像出来ると思うが、助けられる限りは助けたい」
一旦深呼吸してから、カイは本題を言い始める。
「命を奪い弄ぶ連中だ手加減する必要は無いが、まずは連れ去られた人達を救出するのが先だ。 システィナ・ベルモンド・デモンの3人は、その救出隊として動いてくれ」
「了解した。 かよわき女性を傷つけるような連中は、我輩の剣で成敗してくれる!」
ベルモンドが意気揚々と答えた。 その横でシスティナが何故か顔を赤くしているのを見たアニスは、これまでとは違う彼女の変化を好ましく思えたのだった。
「ところでカイ、その囚われている女性達を救出した後はどうするの?」
「もちろん逃がすつもりは無いよ、狩られる側の恐怖を思う存分味わってもらう。 もし命乞いされ1度だけ許したとしても、矯正する可能性は低い。 後々の犠牲者を防ぐ意味でも、必ず根絶やしにするぞ」
「……………」
リアやアニスは久しぶりに見たが、他の者達にとっては初めて見るカイの闇の部分。
当時魔王だったリアを討った彼を仲間達は裏切り、命を狙ってきたのだ。
根っこの部分で人間不信、身内と認めた者だけしか信頼しない。
義妹のウミでさえ、溺愛する義兄を一瞬だが怖いと感じている……。
(彼の心をここまで傷つけるなんて、一体どんな連中なのよ!?)
リアが憤りを覚える頃、今回の獲物である野盗達のアジトではある異変があった。
自然の洞窟を改造したアジトの中で、男や女達の悲鳴が聞こえる。
真っ暗な洞窟の中には血の臭いが充満しており、吐き気を起こしそうだ。
「洞窟内に居た者、全て始末しました」
「ご苦労、では当初の予定通りここで迎え撃つぞ」
「ところで、本当にここに彼の者は来るのですか?」
部下からの質問に、その男は薄気味悪い笑みを浮かべながら答える。
「来る、そう神託が下されておるのだ。 神託に逆らうというのであれば、貴様も異端者として処分するぞ」
慌てて所定の位置に逃げる部下、足下の血だまりを見ながら男は呟く。
「お前がこの世界に逃げるから、余計な命を奪わねばならなかったではないか。 今度は確実に殺す、この地が貴様の墓標となるのだ勇者カイ!」
前世のリアとカイが居た世界から、招かれざる客が到着していた……。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる